⑪ 主人公、ダンジョンコアと交渉する
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さて、オッサンの陰に隠れてコチラを伺うこの引き籠もり市松人形ことダンジョンコアのカエデだが、元はどこにでも(?)居る迷宮型のコアだったらしい。それが何故フィールド型のコアのように体を持って自由に動いているのかといえば、偏に日本が誇るOTAKUのせいである。
そもそも人間から見てダンジョンとは、生活圏を侵犯し己の天敵である魔物を生み出す存在であると同時に「異界」という季節も何も関係ない世界を作り出す存在であり、新たなエネルギー源である魔石を内包する魔物を生み出す鉱山でもあった。
その為各国政府(主に日本)はこの「異界」を利用するために様々なことを試した。異界の中にキャンプ地を作って農作業を行ってみたり、植林してみたり、異界の中にある川を池にして魚を放流してみたり、発電機を持ち込んで電気を発生させてゲームをしてみたりと本当に様々なことを実験した。
――結果、ダンジョンコアが切れた。
当たり前と言えば当たり前だろう。最初のうちは多数の人間が滞在することでDP(ダンジョンポイント・ダンジョン経営に欠かせないものらしい)が手に入るし、奥に侵入されたりして荒らされることもない。黙っていても食っていけるような環境ができたのだ。
ある意味でWIN−WINの関係である。
ダンジョンコアの方も最初は「このままでも良いかなぁ」と思ったらしい。(この時点でOTAKUに汚染されかけているが、本人が納得してるならそれで良いと思う)
だがOTAKU共が普通にダンジョンの中で集まって農林水産業の各種実験をするだけでなく、酒盛りだのなんだのをするようになってくると、だんだんと不満が溜まってきたんだとか。
なにせ連中「消えるから」という理由でゴミはポイ捨てだし、ところかまわず吐くし、大だの小は垂れ流すし、場合によっては○○○までしていく始末だったそうだ。
――
一体連中は自分をなんだと思ってるのか?
自分は一人寂しくダンジョンの奥でOTAKUが散らかした様々なモノを片付けるだけの存在なのか?
確かに自分は殺されていない、DPも貯まる。だからといってこの扱いを甘んじて受け入れていいのか?
否! 断じて否っ!
――
こんな感じでダンジョンコアとしての本能的なナニカと、OTAKUを観察していたせいで汚染された弊害が見事に混合した結果、後に1号核と呼ばれることになった「お市」は、己が産み出したダンジョンボスと融合し、迷宮型から自律行動が可能になるフィールド型に進化(?)したらしい。
そして進化に至った彼女は、ダンジョンの中で騒ぐOTAKU共の前に現れて、ある宣言をしたそうな。
曰く「私も混ぜろ!」である。
いきなりのことで目を丸くしたOTAKU共だが、彼らは「この者らは少女を好む」という情報を得ていたが為に、あえて少女の格好をして現れた「お市」の配慮に感激し、大喜びで彼女を迎え入れたそうだ。
この非常識を当たり前に常識にする行動力は、流石は世界が恐れるクトゥルフを萌え擬人化した民族と言えよう。
そうこうして彼女と契約を交わすことに成功したOTAKUを擁する日本は、ダンジョンについての様々な情報を得ることになる。
これが大体145年前の出来事らしい。つーかダンジョンが出現して5年でダンジョンとコミュニケーションを取るOTAKUの恐ろしさよ。
で、現在日本と契約を交わしてるダンジョンコアは全部で7体。最初の「お市」から140年も経ったにも拘らずこの数である。
これは生粋のOTAKUが減ったことで新規の契約が難しくなったことや、過去に国がダンジョンコアとの関係を「契約」ではなく「隷属化」へと変更しようとしたことが影響している。
大前提として、ダンジョンコアと人間の関係は対等ではない。
ダンジョンコアにしてみれば暇つぶしの為に契約はしているが、自分たちより大幅に劣る存在である人間なんかに隷属する気はないのだ。
なので彼女らは政府に反発した。OTAKUの子孫でありその薫陶を受けてきた探索者たちも彼女らに同調した。
これはOTAKUが国家よりもダンジョンコアとの共生を選んだ、というわけではない。
探索者らにしてみればダンジョンコアを隷属させようとする政府の方針は
「実際に何もしないで税金だけ持っていくだけの連中が寝言をほざくな!」
「黙ってても上手く行ってるところに、態々火種を持ち込むな!」
「国は黙って農林水産業と技術開発と国防だけしてればいい」
「この非常時にお前らの政治になんか期待していない」
というものだったらしい。もっともな話である。
だが国には国の言い分がある。とはいっても『制御できない暴力が側にあるのは危険だ』という、いつもの現場を知らない役人の意見ではあるのだが……そもそも彼らからすれば、探索者を名乗るようになったOTAKU連中も制御のできていない暴力集団であった。
故に、この期に纏めてしまおうと考えたのだろう。
探索者は役人を自分たちがいなければすぐに野垂れ死ぬ青瓢箪と見下し、役人は探索者を自分たちが居なければまともな組織運営さえできない狂犬と見下す。これで仲良くなれるはずがない。(ちなみに探索者はギルドという超国家的な組織を運営しているので、役人の認識は誤りである)
政府は自称制御のできている武力である軍隊を派遣し、探索者たちに国家暴力の怖さというのを教えようとした。
しかし、結果は敗北。それも一方的な敗北であった。
なにせ当時の探索者たるOTAKUたちは確かに己の趣味全開で動いてはいたが、その結果かなりの魔物を討伐していたし、最前線のOTAKUに至っては単独でいくつかのダンジョンを攻略していたほどの実力者揃いだった。
また、当時の国防軍の内部に役人たちを嫌う者たちが多かったのも、政府が敗北した理由の一つに挙げられている。
とは言っても、彼ら軍人が反乱やクーデターを起こしたわけではない。彼らは役人主導で発せられた命令があまりにも現場を無視した独善的なものだったので公然とサボタージュを行ったのだ。
サボタージュと言っても明確な反乱や命令無視をしたわけではなく『装備が足りないから出られない』『ダンジョンからの物資が無ければ戦えないから出られない』『出撃したとしても彼らはテロリストではなく守るべき国民だから攻撃できない』と言った名目を使った感じのある意味で穏当なものだったらしい。
それを受けた役人は困った。
もしもこの状況で「かまわず殺せ!」なんて命令を出そうものなら、その人間は事が終わった後で間違いなくトカゲの尻尾切りに遭うだろうことは明白。
つまり『命令を出した者が確実に切り捨てられる』とわかっている状況なのだ。
結果、強硬な命令はだせるものはいなくなった。
で、困った役人はダンジョンコアの誘拐や暗殺を目論んだのだが……そもそも彼女たちはダンジョンボスの体に宿っている存在である。人間の使う薬品では睡眠も麻痺もしないし毒も効かない。そんな超常の存在を簡単に誘拐や暗殺などできるはずもなかった。
最終的に『ダンジョンコアは後回しにしても良い。ただし探索者、連中は駄目だ』と半ば自棄になった役人が探索者だけでも潰そうとして軍の中でも荒事を担当する連中を派遣したのだが、彼らは鍛え抜かれた探索者に勝てなかった。先述したが、最前線で生きる探索者は当時の軍が行っていた荒事と比較して2段階は上の危険地帯で生きぬいていた存在である。
彼らに勝つには、数を活かした人海戦術か兵糧攻め、もしくは家族を人質に取っての脅迫や仲間割れを誘発するくらいしかないが、当然そのようなことをさせるほど探索者たちは甘くなかった。
そうこうして「面倒。もうしらん」と国に見切りをつけたダンジョンコアは、国との契約を打ち切り、探索者たちが集うギルドで暮らすことになる。
慌てた政府としては関係者の首を切り(物理的に)謝罪を行おうとしたが「お市」をはじめとしたダンジョンコアは交渉そのものを拒否。役人共にしてみたら「自分が頭を下げたのに!」と言ったところだろうが、彼女らには人間の身分なんざ関係ない。
そして、このときになって漸く『ダンジョンコアたちと完全に決別した場合、殺したならともかく、国外逃亡などされてしまえば無限の鉱山が無くなった上で他国を利することになる』という考えに行きついた政府は、彼女らへの関与を禁止する法案を議会に提出し、採択した。
またダンジョンコアと自分たちの繋がりが切れたなどと公表はできないので、彼女たちを国家公認でギルド預かりという身分にしたそうだ。
国としては自分たちの恥を隠しつつダンジョンコアに恩を売ったと考えていたらしいが、それはあくまで国の都合である。彼女らが国を信用することはなかった。
こういったわけがあり、現在彼女たちはそれぞれがギルドの支部で引き籠もり生活をしている。ちなみに引き籠もりと言ったが、仕事をしていないわけではない。事実、今回の俺のように特別な依頼を受ける事もあるしな。
ただまぁ、今回はその依頼がDランクの素体という微妙なものなので些か心苦しい話ではあるが、それはそれ。
「ふ、ふむ、まぁ良かろう。だ、だけど払うものはちゃんと払ってもらう! ……よ?」
オッサンの影に隠れ、やや怯えながらも料金の支払いを要求してくる市松人形。そんなことは当たり前の話だろうに。
「もちろんですよ。労働には対価を。当たり前の話です」
俺をなんだと思ってるのやら。
基本的に探索者は執念深いので約束は守るナマモノだ。上級に行けば行くほどこの傾向は強くなる。
なぜか? 誇り? 違う。そうしないと報復されるからだ。下のランクの場合は中途半端な実力を持ったサンシタやチンピラが多いので、踏み倒すことを前提とした約束をすることは有る。
踏み倒して殺せばそれで終わりだからな。
だが上級の探索者となるとそう簡単にはいかない。何せ基礎能力が高いせいで簡単には死なないし、上級になるような連中は当然修羅場も潜ってるので、有事の際の適応力が洒落にならないくらいに高いからだ。
瀕死からの復活だの逆転は当たり前、死んだ状態からも最後の一撃を放ってくるような連中がほとんどである。
そんな連中に恨みを買う? 有り得ない。どうしようもない時ならそれも有るだろうが、普段からそんなことをしているようなヤツが生きていけるほど甘い世界ではないのだ。
これはインテリヤクザだろうが喧嘩師だろうが武門の当主だろうが一緒だ。
「な、ならば良いのじゃ! で、オーガじゃったな。ちと待つが良い!」
そう言って何もない空間に視線を走らせる市松人形。人形が喋るだけでも立派にホラーだが、黙って目だけを動かしてると更に怪しい光景だ。
本人曰く「魔物を召喚する際に自分たちにしか見えないタッチパネルウィンドウみたいなのが現れるので、それを見てお値段を確認しているんじゃ」とのこと。
「……うむ。オーガの素体ならCランクの魔石が5個。もしくはDランクの魔石が50個じゃな」
どうやら算出が終わったようだ。ちなみに普通のオーガはDランクの魔物なので、獲れる魔石は当然Dランク相当だ。つまりこれは50倍のお値段を吹っかけてきたということであるが……
「な、なんじゃその目は!? アレじゃぞ? 素体なんだからこれで適正価格じゃぞ!? ほんとはCが4個でもお釣りがくるけど、儂だって利益が必要じゃからな!」
サラリと自分の利益をぶちまけてきたが、別にそんな心配はしてないぞ? むしろそれで良いのかって心配したんだ。
この「素体」であるが、当然普通のオーガではない。一言で言ってしまえば「ダンジョンの種を宿す魔物」である。
非常に説明が難しいが、ある一定以上の力を持つ迷宮型のダンジョンコアは、ダンジョンコアを内包する魔物を創ることができる。これは自分が乗り移るとかではなく、株分けというか暖簾分けというか、そんな感じだ。
つまるところフィールド型のダンジョンボスはこうやって生まれているのだ。なんでも生みの親と子には絶対不可侵な力関係が有るらしく、子のダンジョンが得たDPのうち何割かが親に入ってくるらしい。
つまり、増やせば増やすほど親が利益を上げるという、ダンジョンコアによるネズミ講システムである。
で、ダンジョンボスの発生方法を理解した日本のOTAKUはこのボスが内包するダンジョンコアを利用することを考えた。最初は「ダンジョンコアを使えば無限収納ができるのでは?」という発想から始まったらしい。
確かに無限収納はロマンでは有るし、無限収納が完成すれば物流の面でかなりのブレイクスルーとなるだろう。何せ大氾濫によってインフラが崩壊し幹線道路が軒並み破壊されたのだ。空を飛ぶ魔物の存在を考えれば空輸も不可能。ならば人の足で行くしかない。
だが人の持てる荷物などたかが知れている。そこで無限収納が有れば……と考えるのはそれほど的外れでは無いだろう。
結論から言えばその試みは半分成功した。半分の理由は、まず大前提としてダンジョンコアはダンジョンコアを造るのではなく、ダンジョンコアを内包した魔物を創るということだ。
だからダンジョンコアだけを利用することは不可能だし、交渉するなら最初からそういう魔物を造って貰えば良いが、造られたばかりの魔物はダンジョンコアと違って知性がなく、本能に忠実である。
そんなのを調教したとしても危なっかしくて使えない。
ならばどうするか? 手詰まりになりつつある中でMADなOTAKUは考えた。曰く「人間に移植すればいいんじゃない?」である。
つまり「ダンジョンコアを宿した魔物を討伐し、そのコアを人に移植することで人がダンジョンマスターっぽくなれるのでは無いか?」と考えたのだ。
まさしく外道の所業。だがダンジョンマスターになりたいと思うOTAKUは多く、実験材料に事欠くことは無かったため、志願制の治験という形で実験は進められたそうだ。
その結果、本来のダンジョンコアの10分の1程度まで性能を落としたデッドコピーならなんとか人が耐えられると判断されたのだ。
同時に、その移植に耐えられる人間が探索者の素養を持つ人間である。当然探索者を育成できる学校に入学できるのは検査でこれをクリアした人間だけなので、木下も当然移植には耐えられるだろう、と思われる。
このようなダンジョンコアの種とも言えるものを最初から宿して生まれる魔物が所謂『素体』である。
これらはダンジョンコアの種を切り取る為に生み出される存在なので、哀れといえば哀れな存在だが、その辺はダンジョンコアは気にしてないようだ。
何せこの素体を宿した人間が魔物を狩れば、その分から何割かは彼女らに還元されるらしいため、やっていることは眷属を増やしてるのと大して変わらないと思っているんだとか。
なんだかんだで弱肉強食の理の中で生きているってことだな。
で、ここからが問題の半分失敗の部分になる。
確かにダンジョンの種を移植することで移植された探索者達は無限収納の能力は得られた。だがこの無限収納は異世界に収納部屋を作るのではなく、ダンジョンコアの中に収納する形のものらしく、容量は無限だが持ち運ぶ量には限界が有った。
つまり何が言いたいかと言えば……重さはそのままなのだ。
たとえばの話だが、コアを移植された探索者は水を100ℓ収納できるようになるが、その場合およそ100キロの重さを背負うことになる。
装備品やら食料やら簡易トイレやらも収納できるが、その分の重さが圧し掛かるのだ。嵩張らないという利点は有るが、この辺はどうしようもなかったらしい。
そんなわけで、物資を大量輸送する為にはそれなりの強化をされた探索者が数人で動く必要が有るという結果に終わった。
まぁ嵩張るモノを持たずに移動できるようになったと考えれば、とてつもなく大きな進歩である。いくら強くてもいつまでも装備品の入った箱を担いで動くのは億劫なのだから。
そんな貴重なダンジョンコアの種を宿す魔物である。通常よりもお高いのはしょうがないだろう。
利益が20%強というのが高いか安いのかはわからないが、俺としては「安いんじゃないか?」と思っているくらいだ。俺が知る限り、普通の商売なんてメーカー小売価格と卸値が半分近く違うのが当たり前だし。
うん。人間のほうがよっぽど汚いよな。
……それはそれとして、売ってもらえるならきっちり購入しようじゃないか。勿論一括でな。
「支払いはBの魔石1個で。お釣りは要りませんので多少のカスタマイズをお願いしたいのですが、可能でしょうか?」
「なぬ!?」
「カスタマイズぅ? そんなの可能なわけ……いや、可能なのか?」
驚きで目を見開く市松人形とオッサンだが、今までダンジョンコアとの交渉でこんなことをした奴はいないのだろうか? OTAKUなら「釣りは要らねぇ」くらいはやりそうなんだけどなぁ。
ちなみに、それぞれのランクの魔石の交換レートは下位の魔石の10倍である。
つまりBランクの魔石は1個でCランクの魔石10個に相当する価値がある。そのため俺が提示したのは彼女が提示した額の倍の値段だ。
どうも彼女たちは魔石をDPか栄養素に還元してるようなので、本来Cランクの魔石4個で生み出す魔物に対し6個か7個分を使って貰えれば多少の強化が可能なんじゃないかなぁと思っているんだが……
「ふ、ダンジョンコアの秘密を何処で知ったかはしらんが、なかなかやりおるわ。流石は我が認めた冒険者よのぉ」
「いや、そういうの良いから」
大物ロールプレイを始めた市松人形をバッサリと斬り捨てる俺である。斬り捨てられた方はショボーンとしているが、認めたも何も、アンタ俺を忘れていただろうに。
それに俺は探索者であって冒険者ではない。
兎に角、さっさとオーガを出してもらい、その素体を持ち帰らなきゃな。いい加減時間が経ち過ぎた。
……木下だって水だけで我慢するにも限界があるだろうしな。
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「し、師匠~。まだですかぁ~」
その頃、ギルドの1階では食事も飲み物も注文もせず、涙目で水を飲み続ける女子高生が居たそうな。
閲覧ありがとうございます




