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⑩ 主人公、ダンジョンコアと会う

「で、学校に通うからってんで休職扱いで指名依頼とかを全部ブロックしたお前ぇさんが、なんだってここに来たんだ? しかもあんなガキ連れてよぉ」


オッサンはそう言って心底分からないって顔をしているが、気持ちはわかる。俺だってわざわざ依頼を受けなくても良いように休職の申請をした相手がわざわざ見知らぬ小娘を連れてきたら「なんで?」って言うと思う。


ちなみにこの休職申請は、Cランク以上の指名依頼が入るような上級者に与えられた権利の一つだ。


妊娠&出産やら病気やら、重傷を負った後のリハビリやら、その他色々な事情で依頼を受けることができない状態になったときに申請するもので、これが通れば緊急依頼以外の全ての指名依頼を拒否できる。


正確には拒否と言うか「休職中」となって依頼が来なくなる。反対に、この申請をしないで依頼を断り続けているとどんな理由があってもペナルティが与えられるので、意外と重要な制度である。


ちなみのちなみにDランク以下の場合、よっぽど依頼主に気に入られた場合か、特殊なスキルを持つ場合は別として、基本的には指名依頼は無い。


わざわざD以下を指名してくるような依頼は大抵が悪巧みだから、仲介するギルドの方も依頼主と指名された冒険者を警戒することになる。


駆け出しだったりEランクとかDランクで足踏みしている連中が枕な営業をしているって話もあるが、有り得る話ではない。


なぜって? そうじゃないと態々ギルドを仲介して指名する理由が無いからな。


依頼主が知り合いで探索者としても金が欲しくて向こうが節約したい場合、ギルドを介さずに仕事を受ければいいだけの話だろう?


そうすれば仲介料だの手数料だのを払わなくてもいいし、税金だってごまかせる。だがランクは別だ。当然のことではあるが、ギルドの依頼を達成したっていう実績が無ければランクは上がらない。でもってDランクとCランクでは、ギルドの扱いや周囲からの評価が全然違う。


だからこそ彼らはなりふり構わず色々な営業をするわけだ。


特にDランクの依頼は、難易度が中途半端に高く報酬もそこそこ高いので、黙っていたらCだのBランクの探索者に持っていかれてしまう。ギルドも依頼人も依頼を達成してくれるなら誰が受けても良いし、ランクが高いほうが成功率が高いというのは当然の話でもあるからな。


だからこそ探索者の中で一番必死なのはDランクだと思うんだ。それなりの能力と技術の他に依頼を獲得するだけの力が必要になるからな。木下の父親も、そういうのも有ってギルドの職員と組んでたんだろうが……まぁこの辺はイロイロだ。


ギルドの職員だって聖人君子ではないからな。Dランクを優遇するにはそれなりの理由があるわけだ。


結局のところ、俺としては冒険者の営業もギルド職員の行動もその行為に異論はない。そもそも依頼主との信頼関係だのなんだのっていうのは依頼を受けることができなきゃ始まらん。


だからこそ営業して、依頼を受けて、依頼を達成する。そして信用を得て再度の依頼を貰うんだ。


この流れなら何も問題はないだろう? あとは実力に見合った依頼なのかどうかの見極めや、提示された報酬に関しての収支の問題、つまりは実力の問題になる。


この辺は漫画や小説と一緒だ。どんなに面白いモノでも読んで貰えなければ意味が無い。読んで貰えなければ意見がもらえない。だから宣伝して多くの人に読んでもらうんだ。そして読んでもらったものを読み続けて貰えるかどうかは作者の実力だろうさ。


つまり営業やら宣伝もせずに向こうから来てもらうのを待っているのは、宣伝や営業の努力を怠ってるとも言える。ギルド職員と組む場合は、宣伝と営業を専門家に任せて自分は依頼達成に専念するって姿勢でもあるしな。


誰も彼もが隣にいるオッサンみたいに力だけで討伐実績を出せるわけじゃないんだ、そういう小細工は人の知恵とも言えるし、否定すべきではないと思っている。


まぁ、その被害に遭った木下が賛同するかどうかは別だがな。


とりあえず木下のことは良い。っていうか、シカトされてるオッサンの機嫌が悪くなってるのを感じるからそろそろ普通に会話をしよう。ここなら聞き耳を立ててる奴も……少ししかいないし。


「アレは弟子ですよ。実は昨日学校でチームを組んでほしいと懇願されてしまいまして」


まったく、教師のアホが。個人情報を噂してんじゃねーよ。


「チームだぁ? あぁ。そういや錬成科だったな。だがなんだっていきなり?」


とりあえず4階にきて木下について簡単に説明をしたところ、オッサンに普通に驚かれた。更に「コイツ何考えてやがる?」って視線を感じる。


そりゃそーだよな。木下がどこまで考えてたかはしらんが、あれは一般的に考えてハニトラを仕掛けられたようなもんだ。


そんなのを仕掛けられて生かしているのも有り得ないことだし、弟子入りを認めるなんて更に有り得ない。こんなのがまかり通るなら、今頃上級冒険者はハーレム生活でもしてるだろう。(実際にしている奴もいるみたいだが、俺にその気は無い)


そしてオッサンが俺を見る目から推察するに、基本的に金にも困ってない俺が簡単に女に流されるようなアホだったなら、今後の付き合いを改めるつもりだろう。


もしそうじゃないなら、自分にハニトラを仕掛けてきた女に対し、師匠面して危険地帯に連れていき、合法的に処理しようとしてると疑われてもおかしくはない状況だ。


当然それは厳密に言えば犯罪では無いにせよ、断じて推奨されるようなことではない。特に相手は学生だ。ギルドの支部長という立場が有るオッサンにしてみたら、制止しなければならない案件でもある。


まぁ俺にそんなつもりはないけどな。


「ハニトラに引っかかったわけでもなければ、殺しもしません。言ってしまえば暇つぶしですね」


肩を竦めて、わざとおどけながら言ってみる。実際暇つぶしが一番的確な表現だし。


「暇つぶしぃ? ……あぁ、なるほどなぁ」


どうやらオッサン的にも納得できたようだな。そもそも俺が学校に通ってるのは高卒資格を取るためだ。そんな俺が学校で探索者の卵と学業に励んでも面白くも何ともないし、学校で無双して偉そうにするようなキャラでも無い。


そうなれば何かしらの楽しみが必要になるっていうのは想像に難くないのだろう。


「ですね。それに弟子の育成はAランクに上がるために必要な条件の一つですから。どうせ学校に通ってる期間は暇なんです。それなら今のうちにやっておきたいんですよ」


「だろうなぁ。お前さんならそうだろうよぉ。で、ついでに素人のお嬢ちゃんに教えることで基礎の復習か? 真面目だねぇ」


「真面目と言いますか……ほら、取れる資格は取れるうちに取っておいた方がいいでしょう?」


「違いねぇ」


俺の言葉に苦笑いで答えるオッサン。きっと可愛げがねぇなとか思ってるんだろうが、そんなのは必要ないんだよ。いや、先達には嫌われるよりは好かれる方が良いから、まったく必要ないとは言わんがな。


でもって弟子の育成をAランクの条件の一つと説明したが、正確には弟子と言うよりも後進の育成をすることが条件なんだ。


つまりは保護者としての経験が必要なんだよな。確か『規定数以上の弟子がDランクになること』がAランクになる条件の一つだったはずだ。これは護衛という意味や、弟子の実力の把握や依頼とのバランスなどの判断力も兼ねるから、ソロの探索者にとっては何気に厳しい条件だったりする。


この面倒な条件を指名依頼が来ない今のうちにこなしておけば後が楽になるし、木下が3年でDにならなくても俺のスキルアップにはなるからな。


そろそろ護衛や育成の実績も欲しかったし。あとは連携の訓練もできるか? 


探索者というのは個人個人の強さが必要なのは当然だが、基本的にはチームプレーができてなんぼなところがある職業だ。


そこで「自分と同等の実力者とじゃなきゃ組めません」なんて我儘抜かすような奴は嫌われるからな。実力差のある奴と組む経験をしなければまともに人材を育成することなんてできはしない。


なにせ今の人類に必要なのは一子相伝の暗殺拳でもなければ、世界で唯一のユニークスキルでもない。上級探索者が培ってきた知識や経験から生まれたものであり、言うなれば誰でも使える技術だからな。


無論一人の最強を否定はしない。だが最強が一人居ても、そいつがいないところが侵略されたらそれで終わってしまう。帰るところを失い補給ができなくなれば、最強は最強たりえない。


そして魔物が跋扈するこの世界では、組織的な底上げが必要だと誰もが理解している。だからこそ人材の育成ができる人材が尊ばれるわけだ。


Aランクにもなれば様々な特殊依頼が入ってくるし、特殊な装備だって申請できる。そしてAランクにふさわしいような強い魔物と戦えるようになる。それを狩れば自分がより強くなるんだから良い事ずくめではあるだろう。


まぁ俺はこのオッサンみたいに単独任務に特化したような探索者ではないし、別に個人として突き抜けた最強を目指してるわけでもないから、ランクにはあまり拘ってはいないが……それでもAランクになれないのとならないのでは大きく違う。


最終的に生き延びるだけの強さを得る為にはいずれAランクになる必要があるだろうし、Aランクにしかいけない場所などで得られるものが有った方が良いというのも事実。


どこまでも「いのちをだいじに」の精神だな。


つまらない人生? まぁお話の主人公には向かないよな。だが俺はそれで良い。そんなのに成る気はない。英雄だの勇者みたいに権力者の都合に合わせて戦うなんてごめんだし、そもそも俺は人間があんまり好きじゃない。昔もそうだが、この世界は木下一家のような事情がありふれてる程度には荒んでるからなぁ。


今更「人間の為に!」なんて思えんよ。


それはともかくとして、ようやく目的地に着いた。まったく、建物の内部の癖に4階だけは異常に広いから毎回面倒なんだよな。まぁ理由はわかるから文句は言わないけどな。


俺とオッサンが辿り着いたのは4階の一番奥の部屋だ。ここは何と言うか「地獄門!」といった感じの非常におどろおどろしい絵が彫られた扉の前に「儂の部屋ハート」と丸文字で書かれた看板がある、なんともシュールな場所である。


「おぉい、起きてるかぁ?」


「……」


返事がない。ただのしかばねの……ようでもないな。


とりあえず俺が許可証を申請した時点で俺の来訪は知ってるはずだし、承認もされてるから寝てるということもあるまい。とは言っても、勝手に部屋に入るのもなぁ。


「ま、この階への立ち入りを承認されてんだから、入っても大丈夫だろぉ。邪魔するぜぇ~」


俺がどうしようか考えてたら、オッサンが普通に部屋に侵入したでござる。


俺よりも断然付き合いが長いオッサンだからこそ出来る芸当だ。そこに痺れも憧れもせんが、木下を待たせてる身としては普通に助かるから、ここは便乗しよう。


「おじゃまします」


あんまり大きな態度をとってると思われても困るので、あくまでも便乗した感じで入室する。悪いのはオッサンだぞ。


「ふりゃ! たりゃ! とぉ!」


(何かあったらオッサンのせいにしよう)という断固たる決意をもって部屋に入ってみれば、着物を来たおかっぱの市松人形みたいな少女が、なんかコントローラーっぽいのをもってテレビの前で有酸素運動を……いや誤魔化しても駄目だな。普通にゲームをしている。


返事がなかったのもゲーム中だったからのようだ。これはシカタナイ。


「……」


さて、シカタナイのはともかくとして、目的の少女がゲームをしてるとなれば俺はどうするべきだろうか? 普通なら終わるのを待つべきだよな? なにせ俺の前世の教訓で風呂と食事とトイレとゲームの邪魔はいかんというものが有る。これを邪魔したら戦争一直線だ。それに、見たところ相手も居るようだしな。いきなり対戦相手が消えたら向こうだって気を悪くするだろう。


まぁ待つのは良いんだ。 基本的にこっちが頼みごとする立場だし、な。木下だって……アイツは一人で寂しく水を飲んでいそうだな。流石に哀れだから今日は帰らせるか?


俺が考えていたら、ゲームをしてるのを呆然と見ていたオッサンが動き出した!


「ゲームは一日一時間って言ったでしょーがぁ!」


そう言って乱入し、容赦なく電源をポチっと押す! 


まさかのお母さん風ツッコミである。いや、コンセントを抜かないだけマシ、か? しかし一時間ではなんにもできんぞ? まぁ対戦なら一時間でも十分と言えば十分かもしれんけど、俺がやられたら切れる自信がある。


「ぬ、ぬわーーー! 何をするんじゃ! もうちょっとで勝てたのにっ!」


そう言って涙目になってオッサンをぽかぽか叩く少女。実際はあのままなら負けてたけどな。向こうは突然こっちが落ちたからAIと勝負してからゲームを終えることだろう。


とりあえずゲームも終わったし、オッサンと少女のじゃれあいを見てもつまらんからさっさと用件を済ませるとしようか。


「……お久しぶりですカエデ殿」


「……む?」


俺の挨拶を受けて初めて俺の存在に気づいたのだろう、少女はオッサンをぽかぽかしてたのを止めて俺を観察してくる。その目にはさっきまでの涙目はなく、俺という異物の中身を確認しようとする冷徹な目をしている。そしてじっと俺を見ること数秒。


「……お、おぅ! 久しぶりじゃな! うむ! 本当に久しいのぉ!」


再起動した少女がそう挨拶してくるが、これはアレだな。絶対俺のこと覚えてねぇな。


「し、して、此度は儂に何の用かの?」


俺のことをを覚えてないことを誤魔化すかのようにさっさと本題に入ろうとする少女。いや、俺としてもさっさと話を進めたいから別に良いんだけど。


「素体の購入ですね。今回はDランクのオーガの素体が欲しいのですが」


「ほほう?」


俺の言葉を聞いてそう呟いた少女からはさっきまでの雰囲気が完全に消え、見た目とは裏腹に明確な殺意のようなものを向けてくる。


いや、俺はコレが彼女からの『試し』だとは知っているが……良いのか?


「カエデぇ。お前さん、最初にコイツを試して死にかけただろぉが。また殺られるのかよぉ?」


そうなんだよなぁ。真正面から戦えば間違いなく瞬殺されるけど『試し』の場合は先手を譲って貰えるからなぁ。そうなると普通に勝てるんだよなぁ。というか真剣にやらないとこっちが殺されるから本気で挑むことになるんだよなぁ。その場合、こいつはほぼ確実に瀕死になるんだよなぁ。


それでもいいなら『試し』に乗ってやっても良いんだが、どうなんだ?


「うぇ? あ、あぁ! き、きさ、いや、お前様は!?」


どうやら思い出したらしい。初対面の時は殺気に反応してしまい普通に手加減を忘れて殺しかけたからな。あの時はオッサンが止めてなかったら普通に土に還っていたはずだ。


「……改めまして、お久しぶりですカエデ殿B級探索者の神保です」


「ひひひひひ、久しいのぉ!」


「はぁ」


「う、うむ、アレじゃぞ? 儂は分かっとったぞ? さっきのは……そう!冗談じゃよ! コア冗談じゃ!」


俺を認識した少女は即座にオッサンの影に隠れながら弁明してきた。


この怯えようを見るに、どうやら俺の事は覚えていたらしい。一目見てわからなかったのは、おそらく俺が成長したからだろう。彼女にとって人間の成長は早すぎるのだ。とくに子供にとっての数年は、大人のそれとは全然違うしな。


そう、この少女は人間ではない。自分で言ったように、コアである。そしてこの世界においてコアと呼ばれるものは一つしかない。


ダンジョンコアだ。


彼女は国家公認ギルド所属ダンジョンコア・第6号核、通称カエデ。国家との契約者であり、日本が生んだOTAKUの被害者である……まぁ今はここでの生活を満喫しているただの引き籠もりだけど、な。

閲覧ありがとうございます。



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