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ヒューマンカインド/Brightness of life  作者: 猫山英風
第2部 友情 ―第1章 最初の一歩―
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第33話 焦り(前編)

―― 現在 ――


 その様に、感嘆の声は上がらなかった。あったのは、息をのむ静寂だけ。何しろその能力は、洗練されたなどという表現では生ぬるいと感じるほどに、あまりにも()()であったからだ。

熱い闘気というものではなく、相手を威圧する覇気とも違う。怯える様な恐怖とも異なる、思わず身構えてしまう静かな“怖さ”が、そこにはあった。


「……フン」


 勝輝は周りの冷ややかな視線を鼻で笑い、輪切りにした丸太()をつまむ。見ればその断面は一ミリの段差もなく、綺麗な年輪が(かぐわ)しい匂いを立てていた。


(切れ味は……()()()()、だな。)


「いや、()()だろ。」

「……工藤先輩。」

 

 心の内を読んできたかのような声にむかって、勝輝は苛立ちを載せた視線を送る。


「過分、ですか。」

「当たり前だ。そんな殺傷力だけを求めたような能力、危なっかしくて試合で使えるか。」

「……」


勝輝は己の手を見る。銀色に輝く鎧を纏った、その腕を。


「そうでしょうか?戦うなら、これくらい普通では?」

「お前が行く場所は戦場なのかよ。」

「……いえ。」

「まったく……」


 工藤は盛大にため息をつき、再び勝輝の異形の姿を見る。

 全身を覆う銀色の装甲は角張ってはいるが、身軽さを重視しているのか、体形を維持した造りになっている。頭部は狼の口のようなヘルメットで覆われ、ちょうど開いた口の部分に何かプラスチックのようなものが埋め込まれている。おそらくはそこから外部が見えているのだろうが、外から彼の表情はうかがえない。

それだけであれば『戦闘スーツ』という形で危険性はなかったのだが、工藤が問題視したのは、そのスーツから生えている“刃”だった。肘や膝の部分からは一尺ほどの刃が伸び、彼の指は恐竜の鍵爪を思わせる鋭利な刃物が付いている。そしてひときわ目をつくのが、頭から背骨に沿うようにして背びれのように並んだ刃。明らかに、大学生の試合で使用するには過剰すぎる攻撃力を備えていた。


「――まぁいい。オレが言わんとしていることは分かるな?その鎧は封印だ。」

「なぜです?俺の『複合創造』はそもそも創造体形成能力の1つの技です。俺の場合、技を創るというこの鍛錬の目的は既に達している。であれば、作成可能な『複合創造』を増やすという行為そのものは問題ないと思いますが?」

「貴様が目指しているのは殺人鬼なのか?どうやったらそんなヤバイ装甲を思いつくんだ。」

「……」

「いいか。単純に防御としての鎧だけならまだしも、その全身から生えている“凶器()”は危険すぎる。それを取っ払うか、別のものを考えろ。」

「……」

「ま、まぁまぁ。藍もそこまであからさまに否定しなくたっていいじゃない。せっかく作った技なのだし、単一の道具を創りだす創造体形成能力者が、能力発動と同時に全身への装着を可能にする、というのは非常に難しいことだわ。一応、新たな技だとは思うのだけれど……」

「葵。」


 工藤が後ろを振り返ると、そこには頬を掻く嶋崎の姿があった。大方、トラブルを察してやってきたのだろう。

 そして苦笑する彼女の表情から察するに、工藤と意見が同じだと言うことを、勝輝は察した。


「そんなに意外ですか、嶋崎先輩。」

「ええ!?いや、これはその、意外とかそういうことでは、ないと思うのだけれど……」

「どー考えてもこれはアウトだろ。お前からもなんとか言ってやれ。この2日、こいつこのくそヤバい技ばっかり使いやがって。何度いっても止めやしねえ。あからさまに犯罪臭しかしないもん創られても困るんだよ。」

「確かにそれはそうね。

 ……でも、どうしてその鎧を作ろうと思ったのかしら、吉岡君。」

「……別に、単に刀があるなら次は防具かと思っただけですよ。」


 勝輝は鎧の中から、くぐもった声で静かに答えた。


「それだけです。」

「……」


 島崎は鎧の中で、勝輝が目をそらしたのではないかと、そう思った。微妙な頭部の移動が、これ以上は言いたくないと、そう訴えているように感じたのだ。


「そう。でも、その棘はさすがに許可できないわ。だから、もしその鎧を試合で使おうとするのであれば、必ず棘は取ってください。」

「……」

「それに、その棘は相手方だけでなく、()()()()危害を加えてしまいますよ?」

「…………」


 それから嶋崎と工藤は勝輝の鎧についての危険性について話をしていたが、部員からの呼び出しを受けてその場を後にした。工藤はともかく、島崎は話し足りないと思っているようで、去り際も非常に心配そうな表情を浮かべていた。

 しかし、勝輝の心内は、あまり変わってなどいなかった。


(……封印、か。()()()()()()()()()()()()。そんなにもコレがだめなのか。)


 勝輝は己の()を見つめ、煮えたぎった(怒り)を握りつぶす。


(何が悪い。何が問題なんだ。あの人の、あの強さを求めることの、どこが悪い!!)


勝輝はゆっくりと、握りつぶした(怒り)を払いのける。


(だが、彼等の言う理由とは全く関係はないが、これではだめだという思いは、確かにある。何故なら、これはまだ完成に至っていないからだ。

この武装は俺用にカスタマイズしたものだ。『銀狼』をモデルにしたとはいえ、見た目も効果も違うモノになっている。

エーテル体で構成される『能力武装』は通常、物理法則に縛られないエーテルの性質を持ち出すことで、物理攻撃に対して耐性を得る技だ。特に外界と遮断することで、音、熱、光に対しての防御力が格段に上がる。

対して創造体を利用した武装は、物理的性質を保有しているため『能力武装』に比べて物理耐性は劣るが、能力耐性は高い。外界と遮断された鎧の内部にいることで、相手の能力――とくに己の肉体や精神に干渉するタイプの能力に対しては、一級の防御力を有する。呼吸手段を確保するという問題はあるが、それも工夫次第でどうとでもなる。

俺のこの『武装』は、創造体を利用したエーテルではない“物質”としての鎧。耐ダイバーズ戦を考えるのであればこちらの方が、今の俺には適している。

だが――)


はぁ、と彼は盛大にため息をついた。


(だが、全体的に本物の『銀狼』に比べて物理耐性はおろか、能力耐性も低い。攻撃力など、言うまでもない。

俺は『銀狼』そのものを作れなかった。『銀狼』は、全てのステータスが桁違いだ。いくら『能力武装』の物理耐性が高いとはいえ、『アダマンタイト』の合金をやすやすと破壊できる『エーテル体』なんて、俺の知る限り、他にはあの『カナヤマヒコ』くらいしか存在しない。

……おそらく、あの『能力武装―銀狼―』は、斗真さんの“命樹”だったに違いない。)



――能力を『命樹』として昇華できるダイバーズは、世界でも1割程度しかいないと言われている――



「……俺は、その1割に――」

「うわぁ!誰かと思ったら、やっぱり勝輝君だった!」


 殺伐とした雰囲気に不釣り合いな軽い声が響いた。勝輝が顔を上げると、そこには物珍しそうな顔をする足立が立っていた。


「よく俺だと……。いや、こんなの、俺くらいしかいないか。」

「え。なになに、これどーなってるの?前よりおっきくなってない?背のびた?伸びているよね、これ!?もしかして、ダイバーズって成長すると皆背が伸びるの!?」

「いや。流石にそれはないが。」

「なんだ、急に空気が軽くなったと思ったらやっぱり陽子か。」


 続けてやってきたのは、高木だった。傍には小平と、おそらく足立についてきたのであろう、彼女の担当の井上も連れ立って歩いている。

 

「ちょっと、おっきな人2号く~ん。軽くなったってどーいうことなのですか~?」

「え?いや、空気がよくなったなと。」

「絶対馬鹿にしてる~!」


 灰色の毛を逆立てながら、足立は頬を膨らませる。高木は冗談だよと軽く笑い、それから勝輝に言った。


「しっかしまぁ、すんげーもん作れるな、勝輝。これどーやってやるんだ?」

「それは……」


 勝輝はその解答に戸惑った。何しろ犯罪組織『銀狼会』最強のダイバーズ、白井斗真の『命樹』を真似た、などと話すわけにはいかなかったからである。故に彼は当たり障りのない、実際に再現するために自分が行った、誰でもできる内容のみを口にした。


「……まぁ、鎧を調べたりなどいろいろ、だな。」

「ほー。それでこんなにしっかりしたもんができるのか……」

「いや、これは完成形じゃない。本来はもっと別次元の代物だ。」

「本来は?」

「ああ。これはある人が――いや、なんでもない。」

「??」

「そんなことより、高木君も非常に面白い“技”を獲得したと噂になっているが。」


 高木の疑念を反らすように勝輝は能力を解除し、同時に話題を変えた。


「ん?ああ。こんな感じで、熊の爪みたいなのをつくれるようになったぜ。」


 高木は能力を発動させ、右手を黒く変色させた。黒い鍵爪が蛍光灯に照らされ、冷たく輝いている。


「――――」

「まぁ、お前に比べりゃ、地味だけどよ。それでも、岩を貫いたりできるようにはなったぜ!」


 高木の言葉は、勝輝に聞こえていなかった。勝輝は目を見開き、一瞬言葉を忘れていた。自分が目にしたものが信じられないと、彼は思った。故に彼は、素早くなおかつ端的に、問うべき質問を口にする。


「――それは、自分の爪を変形させている、のか?」

「え?そうなんじゃないのか?よくわかんねーけど、だって俺はアルケミスト。ソーサラーじゃないぜ?」

「――――」


 高木は何を尋ねているんだと言いたげに眉を顰めたが、その表情は勝輝の目に映ってはいなかった。 


(何を言っているんだ、この男は。

変形させているかどうかわからない、だと?そんなバカな話があるか!

身体を変質、変形させる能力は、神経伝達による感覚が絶対的に存在する!たとえ痛覚を感じない爪や髪の毛を変形・変質させようと、爪母や毛根という神経がつながっている箇所がある限り、能力を使えば絶対的にそれを感じ取れる!!)


彼は胸臆(きょうおく)からこみあげる慟哭に、歯噛みする。


(爪を変形させているのなら、変形させた時点で、本人が意識できるはずだろう!!それが分からないということは、これはアルケミストの能力じゃない!

これは、これは――)


 なぜなら高木の言葉は大きく間違っていて、それはのどから手が出るほど勝輝が欲する“技”に直結すると、理解してしまったからだ。


  ――()()()()()()()()()()()()!!


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