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ヒューマンカインド/Brightness of life  作者: 猫山英風
第2部 友情 ―第1章 最初の一歩―
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第08話 部活動勧誘(2)


「あん?なにを驚いてやがる?――はぁ、さてはテメー、オレを男だと思っただろ?」


 長身の女は彼の肩に腕を回したまま、ニヤリと笑う。日焼けした薄い褐色の肌に、白い歯がきらりと輝いている。


「いや、あの、確かにそう思ってしまいました――ですが!」

「お?何だぁ?なあに赤くなってんだぁ?ほれ、ほれ。サラシ巻いてるから胸なんてわかんねーだろ?」


 筋肉質な彼女の体が熊のような高木をしっかりと抑え込んできた。そのうえで、彼女はわざと彼の背中に思いっきり胸を押し付けてくる。

 別段振りほどこうと思えば振りほどけたのだろうが、相手が女性だと思うとどうにも気が引ける――そう思った彼は、この状況をどうすればいいのか全く分からなくなっていた。

 そして、彼女は赤面する彼を明らかにからかっていた。


「いやいやいや、そうじゃなくて――」

「へえ、そうじゃなくて?」

「い、いや、その!」


 高木は鼻がくっつきそうなほど顔を近づけてくる彼女にそういうのがやっとだった。誰が見てもその女性の顔つきは「美人」というカテゴリーに入るものだった。化粧のしないさっぱりとした整った顔立ち、瑞々しい唇につい目線がいってしまう。


「あらあら、もうお気に入りの新入生でも見つけたのかしら。藍。」

「お、来たか葵!」


 高木に顔を近づけていたその女性は、その声がするとあっさりと高木から手を放した。

 それと同時に、慌てて高木は彼女から離れる。


「な、なかなかスゴイ人だね。」

「そ、そうね。」

「まぁ、でも――」


少し顔を赤める大原と足立の横で、山田はにやにやしながら言うのである。


「――よかったね~、勇人。美人さんにあーんなに密着してもらっちゃって~」

「いいっ!?や、やめろやめろ!思い出させるな!」

「勇人君って素直だね~」

「――で。」


 そんな高木をからかう彼女らに、勝輝が尋ねた。


「あの二人は誰だ?」

「え?ああ、あの二人こそが、この大学で最も()()と称されるダイバーズよ。」

「……」



 二人の女性はそろって5人の前に立つと、あとからやってきた女性が、白いロングスカートの端をもって軽く頭を垂れた。


「ごきげんよう、はじめまして。わたくしは島崎葵と申します。能力者総合大学の3年生で、現在『学生会』会長を務めていますわ。以後、お見知りおきを。」


 その優雅さたるや。

 まるで中世の貴族が絵画から抜け出てきたような人物だった。先ほどの長身の女性とは対照的で、清楚しとやか可憐という言葉は、この人のためにあるのではないかと思うほどの印象を、彼らは受けた。身長はおよそ足立と同じくらいで高くはなく、白い肌にほっそりとした腕は白鳥を思わせる輝きを放っている。黒い長髪を後ろで結び、露わになった綺麗なうなじが、一層その美貌を際立たせ、周囲の視線を虜にしていた。


「こ、こちらこそ」


 足立のぎこちない挨拶が終わると、島崎の隣に立つ長身の女性がはきはきとしゃべり始める。


「オレは工藤藍だ。この『能力競技部』の部長をやってる三年さ!お前ら、見学に来たのか?」

「はい。でも俺はもうここに入るつもりで来ました!」


高木が一歩前に出て勢いよく答える。


「いいねぇ。そうこなくちゃ。他の4人はどうなんだ?」

「はい。あたしたちも入るつもりです。」

「ほー、じゃあ早速新入部員5名確保だな!」

「いや、俺はまだ入ると決めたわけではないんだが――」


 勝輝のつぶやきを、工藤は聞き逃さなかった。彼女はニヤリと怪しげな笑みを浮かべると彼に大股で近づき、肉食獣のような視線を彼に向けた。

 勝輝はギョッとして身構えたが、そんなことはお構いなしというように、彼女は彼の目と鼻の先にまで顔を近づけた。


「ふーん。ほーう。」

「……」


 ――強い。


 工藤が向ける豹のような鋭い眼差しに、勝輝は確信する。()()()()()()()()()()()()。真価を見極めることができる目を持っていると、そう、彼は感じた。


「変わった目つきだな。」


 工藤はしばらくするとわざとらしく口元を歪ませ、感想を口にした。


「何か使命感のようなものを持っている奴の目だ。

 ガタイも悪くねえ。相当武芸に長けているな。」

「――それは、どうも。」

「ただ――」


 工藤の目が、細く凄みを増した。


()()()()()()。」

「?」


工藤の言葉に、勝輝は眉を顰める。


「それは――どういう、意味でしょうか?」

「ただ効率を求めて体鍛えた――みたいな感じがするな。」

「それが、なにか?」

「……」


 その返答に、彼女の顔が陰った。そして勝輝から離れ、きっぱりと、とんでもないことを言ってのけた。


「ふん。まあ、そういうこともあるのかもしれねえけど、()()()()()()()。」

「は?」


 意味の分からない一言に、勝輝は思わず言葉を返す。

 しかし、工藤は返答などせず、勝輝にとって衝撃的な一言を言い放った。


「お前さ、何か――()()()()()()()。勝輝。」

「!!」


 彼女の一言に、勝輝は数歩後ろに飛び退く。頭の中で彼女に対する警戒レベルが引き上げられ、瞬時に彼は臨戦態勢に入った。


(何故、自分の名前を知っている。いや――それ以上に、何に気づいた!?)


「勝輝君?」


 大原が驚いて声をかけたが、その表情を見て息をのんだ。そこには、先週、特秘能力者であると暴かれた時に彼が見せた表情と、同じものがあったからだ。

 大原は慌てて工藤に問う。


「あの、工藤先輩、どうして彼の名前を?」

「あん?そりゃぁ知ってるさ。『複合創造』ができる新入生がいるなんて、噂にならない方がおかしいだろ?」

「まぁ、確かにそれはそうだけど、名前まで何故わかるんですか?だってまだ自己紹介もしていないし。」


山田の質問には、島崎が答えた。


「その理由は、矢島先生ですね。あの人は、この能力競技部の顧問なのです。

 矢島先生、先週意気揚々と語っていましたよ。今年の一年生はスゴイ人たちがいるって。」

「個人情報漏らしすぎでは……」

「そんなことより、だ。」


 工藤が声を張り、その場の主導権を一瞬にして掌握した。


「それで、だ。お前、『複合創造』ができる吉岡勝輝なんだろ?一目見て分かったぜ。その軍人みてーな雰囲気、普通じゃねぇ。」

「でしたら、どうだと?」

「いや、けどちょっと期待外れだったな、と思ってよ。」

「――は?」


 工藤の発言に、勝輝の眉間にしわが寄る。


「何を、言っているんです?」

「お前は弱いって言ってんだ。」

「なんだって!?」


 なんのためらいもなく言い切った工藤に、勝輝の顔色は変わった。


「弱い――だと?それは、いったいどういうことでしょうか?」


(この『6年間』いったいどれだけ能力の鍛錬を積んできたと思っているのだ。

 俺の、何が分かるというのだ。

 ここにいるすべてのダイバーズが、たとえ束になってかかってきたとしても、俺の敵ではない!!)


 相手を睨み付けながら、最低限の言葉遣いを残して、彼は嫌悪を露わに威嚇する。

 だがその相手は臆することなく、それどころかさらにぶっ飛んだ発言を繰り出した。


「ははん、いいねぇ、その目。やる気満々じゃねえか。

 お前が()()()になってくれたのはこっちも助かる。なんせ、お前みたいな()()()()()()()()()タイプは言っても伝わんねぇからよ。

 ってことで、勝負しようじゃないか。」

「えええっ?」


 その言葉に驚いたのは勝輝ではなく、他の4人だった。


「と、とんでもないケンカを吹っ掛けらているわね。」

「なんだか勇人君に似てないかな~?」

「いやー、俺はあんなにキツクはないぞ、陽子」

「聞こえてんぞ、そこ。」


工藤はフン、と鼻を鳴らし、続けて言った。


「さっきお前、この能力競技部に入るかどうかは決めていないって言っていたな。」

「ええ、それが何か。」

「お前が勝負に負けたらこの部活に入部してもらおう。」

「なっ――」


工藤の言葉に、大原たちは苦笑する。


「め、めちゃくちゃだわ……」

「というか、勝輝も勝負受けるって言ってないよな?」

「入る、といっておいてあれだけど、あたし、この部活入って大丈夫か不安になってきたわ。」

「そうだね……」


 彼らのことなど全く意にも返さない工藤は、なおも強気の発言を繰り返した。


「今年はうちの部活、大会で優勝目指してっからよ。強いやつがほしい。

 あの北海道にいる赤坂ってやつも、どうせ試合に出てくる。お前は弱いが複合創造なんてもんがありゃ()()()()()()使()()()からな!」


 彼女の笑みは、明らかな勝輝に対する挑発だった。彼女は、彼ではなく、彼の持つ『複合創造』という能力だけを目当てにしていると言って見せたのだ。

 そしてこれによって、勝輝は勝負を受けるしかなくなってしまった。

 


『お前は道具だ――』



俺は――違う!俺が能力を使うのは――


 脳裏によぎった言葉を否定し、彼はまっすぐ工藤を見た。


 決してこいつには負けられない。

 先週の模擬戦も同じ理由で能力を使っていたが、今回はその重みが違う。

 年上だろうと女だろうと関係ない。


「いいでしょう。その勝負、受けて立ちます。」


彼は心の中で叫ぶ。



俺が、人間であるために――!




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