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ヒューマンカインド/Brightness of life  作者: 猫山英風
第1部 影を纏う者 ―第2章 “死”と“誕生”―
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第47話 特秘能力者(16) 最後の狼(6)

久しぶりに典子登場~


「それでは、今、結子姉さんは『カナヤマヒコ』や『フウジン』と同じ仕事をしているんですか?」


 典子が驚いて祖母の顔を見つめる。

『カナヤマヒコ』と『フウジン』が特殊部隊の人間であると聞いて、少女は驚いた。特殊部隊といえば、『ツクヨミ』こと姉の大原結子の仕事である。姉が尋常ならざるダイバーズであることは分かっていたが、祖母を打ち負かすほどの強力なダイバーズと、肩を並べて仕事をしているとは、予想だにしていなかった。



(どこまで、姉は自分より先を歩いているのだろうか……)



「そうねえ。結子ちゃんの能力の実力は、ももう特殊部隊隊長になっていいくらいなのは確かね。

まあ、私は彼女を隊長にするのは早すぎるから、反対なのだけれど……」


祖母は悲しそうな瞳を浮かべ、話を続ける。


「隊長といえば、『カナヤマヒコ』『フウジン』『ワタツミ』『アマツマラ』の4人が現在、特殊部隊の隊長として()()()()()()()()()()()()

その中でも最も特殊部隊の経歴が長いのは『カナヤマヒコ』隊長ね。私が現役だったころから、『ラセツ』とともに数多くの任務をこなしていたわ。」


 カップの上で揺らめく湯気を、茜は見つめる。その瞳は何かを憂いているようで、いつもの穏やかな祖母には似つかわしくない、悲しげな表情だと典子は感じた。きっと、『ラセツ』や『スサノオ』のことを祖母は思い出しているのだと。

 祖母の親友であり、同じ『レジェンド』である二人の死は、典子も知っていた。その友の死を思い出させてしまったのだと、そう彼女は思ったのだ。だから、慌てて彼女は話をつづけた。


「その――それじゃあ、後2人の、第二世代の特秘能力者も、皆特殊部隊の人なのですか?」


慌てる典子の声に茜は一瞬目を見開き、そしてごめんなさいね、と言ってから続けた。


「例えもしそうだったとしても、わたしには教えることができないわ。それはその人の素性を話すことになってしまうもの。」

「そう、ですか……」


 典子の落胆を、茜は困った顔で見つめる。どうも自分は家族に甘くなってしまうらしい。そう思いつつ、茜はカップに口をつけ小さく言った。


「あとの2人、『火に関する能力』をもつ『カグツチ』と、『氷結能力』をもつと言われる『ミヅハノメ』に関しては、一切その詳細は知られていないわ。

 同じように詳細が知られていないのは、私と『スサノオ』を除く第一世代の特秘能力者も同じよ。

『破壊に関する能力』をもつとされる日本最強のダイバーズ『ラセツ』。

日本史上最高峰の『能力武装』と日本人最初の『複合創造能力』の使い手『ヤシャ』。

そして『電磁気に関する能力』を持った『タケミカヅチ』ね。」

「『能力武装』……?」


どこかで聞いたことのある単語に、典子は首を傾げる。


「ああ、ちょっと難しかったかしら?」

「いえ!大丈夫です!できれば、教えてください!」


典子は必死にその言葉に食らいついた。


(それが何かは分からないけれど、難しいといって自分から遠ざけられてしまっては、いつまでたっても自分は成長しない。なんでもいい。

この祖母から、自分の知らない能力に関する情報を、得ておきたい。

自分の努力が、実を結ぶようになるために――)


「そうね。『能力武装』について少し話しましょうか。」


彼女はそういって薔薇のシンボルが描かれたファイルから、一枚の写真を取り出した。


「これは……?」


 典子が写真を手に取ってつぶやく。

まるでアニメやゲームの中に出てくるキャラクターである。全身を褐色の甲冑で覆い、顔には龍の紋様が描かれた仮面をかぶった武人が、そこにはあった。


「この写真は『カナヤマヒコ』隊長が『能力武装』している姿よ。」

「これが――『カナヤマヒコ』」


典子は生唾を飲み込んだ。まるでそびえる山だ。この人物がどのような人なのかは分からない。男か女なのかもわからないが、その写真からでも、人を寄せ付けないその威圧的なオーラがにじみ出ている。


「『能力武装』とは、エーテル体で作られた鎧を自身の体に着こむ能力の技のことを言うわ。

この写真にあるように全身をエーテル体で覆うことで他の能力干渉を防ぐ、対ダイバーズ戦闘服だと思えばいいわ。」

「能力干渉を防ぐ?」


 典子が再び首を傾げる。普通、能力を行使したら、その効果が発動する。能力を防ぐことなど、できるのだろうか。そう考えている矢先、祖母は優しく孫に尋ねた。


「典子ちゃん、能力体形成能力――いわゆる、エーテル体形成能力と創造体形成能力は知っているわよね?」

「はい。エーテル体はダイバーズがイメージする形にオドを収集し、固形化する能力です。一方、創造体形成能力は集めたそのエーテルを、実際の物質に変換するという能力です。」

「じゃあ、誰かが創ったその能力体に、別のダイバーズが能力を行使することはできるかしら?」

「え?それはできません。だって――あっ」


典子は小さく声を上げる。


「ダイバーズの10原則――『一度情報が付与されたエーテルに、第三者は干渉できない』ですか?」

「そう、その通り~!」


茜は小さく手を叩き、嬉しそうに言った。


「ダイバーズは既に情報、イメージが付与されているエーテルには情報を与えることが出来ないわ。だから、全身を既に情報が入ったエーテルで覆っているダイバーズには、他の能力を行使できないの。

 例えば、この『カナヤマヒコ』にわたしの精神干渉の能力『ネツァク』を行使しようとしましょう。けれど、わたしと『カナヤマヒコ』の間には彼の情報の入ったエーテル体――『能力武装』があるから――」

「能力の影響を及ぼせない……」

「そういうことね!こんな感じに、『能力武装』は対ダイバーズ戦闘において強力なアドバンテージを持つわ。しかもエーテル体でできているから、創造体と違って物質依存の脆弱性がないため、あらゆる物理攻撃に対しても耐性を持つわ。おまけにその強度は密度で決まるから、オドを取り込めば取り込むほど硬く強靭な鎧になる。」

「へえ。」


 典子は目を輝かせながら説明する祖母をじっと見つめる。彼女がこれほどまでに興奮気味に語るのだ。相当強力な能力であることは違いない。


「エーテル体って、こと戦いにおいてはそんなに万能なものなんですね。」

「うーん、そういう訳ではないわ。」


茜は残念そうに語り始める。


「エーテル体は万能、ではないわ。

 オドは、この世界にあるどの物質とも異なる性質を持つ未知の物質。だけれど、物質であることには変わりないから、完全に物理攻撃を無効化することはできないわ。」


彼女は人差し指を出してウインクする。


「それに、オドはマナと相互に影響を及ぼし合うから、()()()使()()()()()()()()()()()は耐性能力が低くなるわ。」

「なるほど――でもすごいですね。全身を覆うエーテル体、しかもこんな鎧の形に仕上げるなんて。エーテル体は創造体と違って一度に複数のパーツを創れるとは聞いていましたが、鎧はかなり複雑です。

 剣道や弓道で来ている胴着だけでもいくつものパーツがあるのに、こんなに複雑な形をしたエーテル体を創るのは至難の業のように思います。」


感心する孫を見て、茜は自分のことのようにうれしがった。


「でしょでしょ?『能力武装』はソーサラーでなければ使えないけれど、ソーサラーなら誰でもできるってわけじゃあないのよね。血のにじむような努力と相当な鍛錬を積まなければできない技。それを『カナヤマヒコ』は極限まで鍛えあげたのよ。とってもすごいことだわ!」


彼女はそういうと、何故か少し悲しそうな顔をした。


「――そして、やっぱり、()()()()()()()()()()()()()()()。なんたって『あの人』はそんな『カナヤマヒコ』を――」


そこまで言って、茜は慌てて口をつぐみ、わざとらしく咳ばらいをした。


「――コホン。今のは忘れて。気にしなくていいわ。オホホホホ。」

「?」


 典子は祖母が何を言おうとしたのか全く分からなかったが、それよりも気になることがあった。祖母がそれほどまでに強力という『能力武装』。その言葉をどこで聞いたのか、ようやく典子は思い出した。姉と両親の会話である。今度の任務で戦う相手が『能力武装』を使うと、そう姉が話していたことを、彼女は思い出したのだ。

 典子は心臓が強く打つのを感じた。


(全ての能力干渉を防ぐような敵を相手に、どうやって戦うと言うのだろう。

確かに姉さんは世界10大能力『ティファレト』保有者。けれど、私の知る限り、その攻撃手段は『熱線』のみだったはず。いくら何でも、物理耐性をも持つ敵に挑むのは――)


「あ、あの!」


 典子は体が震えるのを感じた。今までは違った。典子の中で、『アマテラス』に次ぐ最強のダイバーズは姉だった。だから彼女は、絶対に姉が危険にさらされることはないと、心のどこかで安心しきっていた。だが、それは違うと、今はっきりと知った。姉以外にも姉のように強い特秘能力者はいる。そして、その日本の中でも秀逸と呼ばれる『レジェンド』の1人、『ヤシャ』と同じ技を持つダイバーズが、今姉の前に立ちはだかっているのだ。


(優華が兄、宗次さんを日々気にかけ、心配に思う理由が、ようやくわかった。

この胸を締め付けるような心細さ、不安。大切な家族を失うかもしれないという恐怖――)


典子は助けを求めるような目を、祖母に向けた。


「い、今、たしか()()()()()が、『能力武装』を使う犯罪者と戦っているって、聞きました。」

「――あら?それは……一体どういうことかしら?」


 一瞬、茜の顔に影が差す。顔が強張り、笑顔が消えた。

だが、そんなことは典子の目には入っていない。


「ええと、お母さんがお姉ちゃんと電話しているのを聞いて――

そ、それで、お姉ちゃんは大丈夫――だよね?」


震える言葉を聞いて、『アマテラス』はにっこりと笑った。


「――ああ。なるほど。そういうことね。」


彼女は立ち上がり、典子からカップを下げる。彼女は終始笑顔ではあったが、その時だけは、それこそあの写真のように、何か笑顔の仮面をつけているかのようだと、典子は思った。

 『アマテラス』は書類とティーセットをもって立ち上がり、典子に言う。


「もう2時を過ぎてしまったわ。もう寝ないと、お肌に悪いわ。」

「え?あの……」


困惑する典子を残し、彼女は部屋を足早に出ようとした。そして、扉を閉める前に、『アマテラス』は孫に言った。


「大丈夫よ。あの子なら、絶対に負けないわ。だってあなたのお姉ちゃんじゃない。妹を残して先に死ぬなんて、わたしが絶対許さないわ。」


彼女は最後にウインクして出て行った。普通の人が聞けば、孫を安心させるための言葉だと思っただろう。しかし、典子は違和感を覚えた。



()()()()()()は、今まで一度も見たことがない。

なんだかぎこちない、そう、無理をしている時の、自分が周りにしてみせる笑顔と同じような――)



「――おばあ、ちゃん?」



部屋が、急に寒くなった。





 薄暗い廊下。

階段に向かう途中、老婆は足を止め、大きくため息をついた。そして、似つかわしくない低い声で言った。自分の背後に向かって。



「――やってくれたわね。」



そこには、夜の闇よりも濃く、影よりも深い『死』が、立っていた。



読んでいただき、ありがとうございました!


少し追加で補足説明。

『能力武装』はエーテル体でできているため、勝輝や大島が使っていた『複合創造』とは違って一度に多くのエーテル体を創ることが出来ます。

ボールペンをつくる過程で説明します。

もしボールペンを創造体で作る場合、そのパーツを1つずつ順番に造って、さらにそれを組み合わせるという二段階の過程が必要です。

しかしながら、エーテル体は複数のパーツを同時に造ることが出来、尚且つその組み合わせも同時に行うことが出来ます。

二段階の過程を経ることなく、同時に行使できるために、斗真や侑真は一瞬で『能力武装』という鎧を完成させます。


このような能力技術にかんする詳しいお話は、ダイバーズのレベル、訓練とともに第二章で詳しくでてきますので、お待ちください。


それではまた次回、お楽しみに!

次回はまた変則的に水曜日の零時に更新します。

よろしくお願いします!




『眼帯』という男は、こういった。


『君が大切だと思う人を、怪物とすり替えた奴らが、あの建物にはいるんだ。』



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