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ヒューマンカインド/Brightness of life  作者: 猫山英風
第2部 友情 ー第2章 激突ー
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第48話 ヤタガラス(4)

 それは正しい指摘であり、否定しようのない事実だった。

 『命樹』の獲得はおろか、ただ一つの技さえも獲得できていない。

 力を行使するためのイメージでさえ、明確ではない。

 自分には、返す言葉もないーー


 そう、彼女は思う。


「貴方に関するこれまでの情報と、この合宿での行動を観察していればすぐに分かりました。貴方は、能力を全く扱えていない。悲しいことですが、貴方は世界10大能力を有していながら、そのランクはBランク、と言ったところです。」

「ーーっ!」


 決して誰にも言わなかった、己の“ランク”。

 それを、男は躊躇いなく彼女の心臓に突き刺した。


「『命樹』を獲得するダイバーズは、最低でもSランクのレベルを必要とする。現状の貴方にSランク以上の実力を要求するのは非現実的ですし、それは酷というもの。ですので、貴方に力を行使しろ、などというつもりは全くないのですよ。」

「ほう。なら何が目的なんだ?使えないダイバーズを求める理由には、興味があるな。」


 悪意も善意もない冷徹な言葉に重ねるように、勝輝は皮肉たっぷりに言葉を投げる。


「それは違いますとも、『サイセツ』。我々は彼女を使えないダイバーズなどとは思っておりません。

 世界10大能力は特異中の特異な能力。これを保有していると言うだけで、全人類にとって有益なダイバーズたり得るのです。加えて、ランクが低いということは、伸び代がまだあるということ。この点で今後に期待できるお方だと評価できるでしょう。」

「評価、ね……」

「まぁ、『サイセツ』。先の無い(・・・・)あなたには、わからないでしょうねぇ。」

「……何?」

「それよりも、です。」


 彼の殺気を無視し、男は甘ったるい笑顔で子守唄のように大原に語りかける。


「『ククリヒメ』、私はーーいえ、我々はあなたを評価することができます。どんなに周りがあなたを無能と言おうと、あなたがあなた自身を卑下しようとも、我々は今のあなたを、そしてあなたの未来の可能性を認めることができます。

 あなたの力は素晴らしいものです。感情の沈静化など、常人にできるものではない。ランクなど関係なく、あなたは存在するだけで価値があるーーそれを、あなたに実感させることが我々にはできる。」

「あなた、まさかーー」

「そうです。私はあなたにこう提案したいのです。

 我ら『黒箱』の仲間になって頂きたい、と。」

「ふざけないで!」


 声を張り上げ、大原は男の言葉を拒絶する。


「私があなたたちの仲間に?冗談じゃないわ!あなたたちは優華のお兄さんを、大勢の人を殺した!そんな人達と肩を並べるなんてお断りよ!そんなことをするくらいなら、自決したほうがマシよ!」

「……おや。そこまで拒絶されるとは、正直思っていませんでしたね。」

「なんですって!?」


 薄幸の美少女にあるまじき鬼の形相に、男は少し驚いた様子であった。多少拒否されることは想定内だったが、とりつく島もないとは予想していなかった、という顔だった。

 だが、それはそれで一興とでも言いたげに、男は口角を吊り上げる。


「……ああ。これは失礼。

 私はあなたを少々見くびりすぎていたようです。あなたの生い立ちを考えれば、とっくに心は折れ果て朽ちていると思っていたのです。

 しかし……たとえ摩耗していようとも、その心にある芯はどうやら砕けてはいなかったようだ。」

「知ったような口をーー!」

「その心意気は健気で美しい。ですが、それは同時に、とても残念なことでもあります。

 何しろ、交渉する余地がなくなってしまいますから。」

「!!」


 男の手が小太刀に伸びる。


「私は『黒箱』幹部が一人『ヤタガラス』。主人より特秘能力者『ククリヒメ』の捕縛を命ぜられた者。私としては捕縛というよりも勧誘によって無傷であなたを我らの仲間にしたかったのですが……あなたが私の提案を拒むなら、その(めい)を遂行するまでのこと。」

「仲間にしたい、ねぇ……それにしては文言が胡散臭いうえに短気な奴だな。」

「おや、『サイセツ』は“仲間の勧誘“に嫉妬ですか?」

「まさか。仲間なんかいらねぇよ。」

「そうですか。では、あなたはそこで見ていてもらえませんか?あなた、『ククリヒメ』とご友人でもなんでもないようですし、正直目障りな存在なのでしょう?」

「……そうだな」

「!」


鬼のような瞳が、勝輝に向けられる。だが彼はそれを無視し、じっと男を見つめ続けた。


「でしたら、私の邪魔はしないでいただきたい。」

「なぜだ?」

「なぜ?あなたにとっても好都合でしょう?『ククリヒメ』が視界から消えることであなたは平穏を取り戻し、我々は彼女を手に入れる。わざわざそれを邪魔するために殺し合うのは、いささか無駄骨が折れるのではありませんか?」

「いい加減にして!」


 怒号とともに、蛍のような淡い光が少女の腕へと集約される。


「『ヤタガラス』とか言ったかしら、あなた。」

「……ええ。そうですが?」

「あなた、勝手に私が戦えないダイバーズだと思わないで。本気を出せば、あなた程度を無力化することくらい、私一人にだってできる!」

「はて?私にはあなたがそのような技量を持っているとは、正直思えないのですが?どのような技を使うおつもりで?」

「それはーー!」

「はったりも上手くはありませんね。我々と来ていただければ、戦闘技法など手取り足取り教えて差し上げますが?」

「っ!」


 大原は歯軋りしながら相手を睨んだ。ヤタガラスの言う事は事実であり、どう足掻いても勝てないことなど分かっている。それでも、無謀でも、言いなりになることだけはどうしてもできないと、彼女は能力の行使をやめようとはしなかった。


「……正直、特攻は下策中の下策。聡明と評判のあなたには似つかわしくないやり方ですね。今のあなたでは私に触れるどころか近づくことすらできませんよ?

 しかし、抵抗をするのであれば仕方ありません。

 腕の一、二本は切り落としても構わないと仰せ使っておりますので、私は手加減なく力を振るうつもりです。」

「!」

「特秘能力者『ククリヒメ』。それでも抵抗をされますか?

 ーーその、実力(・・)で。」

「っ!やれるものならーー!」


 殺気。

 背後より浴びせられた殺気に、大原の言葉は最後まで続かなかった。

 さっきまで眼前にいた男が、己の後ろで刃を振り上げている。

 その事実に、彼女の言葉は凍りついた。


「ーーでは。その腕、いただきましょう。」


 



「優華、あの男の能力に心当たりはあるか?」


 高木は相変わらず山田に覆い被さったまま、茂みの中からニタニタ笑う男を観察する。


「あいつは一瞬で森の樹々を切り倒した、広範囲攻撃ができるダイバーズだ。そういう手合を相手にする場合、防御や回避方法がないと戦うことも逃げることも出来ねぇ。そしてその方法を見つけ出すには相手の能力が何かを知ることが大前提になるわけだが、俺はあいつの能力に皆目検討がつかん。」

「……え?」

「しかもこんな体勢だ。立ち上がるという動作だけで遅れが生じる。」

「あんた、その事わかっててさっきあたしに一人で逃げろーとか言ってたわけ?」

「う……それは……」

「あんたね……」


 彼の計画性の無さに山田はため息をつくも、その息は穏やかだった。


「ま、いいわ。あんたって、やっぱそういうやつなのね〜」

「どういう意味だよ、それ。」

「そんなことよりもあの男の能力でしょ?それならある程度推測はできるわ。」

「ほんとか!?」


 彼女の言葉に、高木は目を見開く。


「あの一瞬で、何かわかったのか?」

「いや、今の状況とか総合して、なんとなく、ね。」

「マジかよ。」

「で、よ。この状況を脱する方法についてなんだけどさ。」

「ん?」


山田は崩れかけた笑みを浮かべながら、高木に言った。


「マジで最低なものなんだけど、やってみる?」





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