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ヒューマンカインド/Brightness of life  作者: 猫山英風
第2部 友情 ー第2章 激突ー
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第45話 ヤタガラス(1)

「ここ、か。」


 勝輝はたどり着いた神社を見て、ため息をこぼす。

 この肝試しで神社へ行ったことを証明する石は、そこにいる先輩部員が手渡すことになっていた。

しかし、見渡しても石はおろか、人の姿すら見止められない。目的地に到着すればこのイベントとも「終わり」と思っていた彼は、どうやらそうではないらしいことに落胆した。

 僅か10分にも満たない散策であったが、1時間も歩いたのではないかと思うほどに足取りが重い。元々乗り気でないイベントであった上に、ダイバーズとして認めたくない人物と二人きりという状況が、さらに彼の気分を害していた。

 

「……」


 ちらりと来た道を振り返れば、数歩後ろにその当人がいる。

彼女のゆっくりとした足取りと険しいその表情から、彼女も彼女で自分と一緒にいたくないのだろうということが、ありありと伝わってくる。そしてそれが――たとえ勝輝自身に問題の原因があったとしても――彼をより不快にさせていた。


「チッ。まったく、どこに石があるんだ。担当の先輩とやらも見当たらないじゃないか。」


 彼は苛立ちを吐露し、大原を待たずに境内の中へと足を進めた。


「……ふん。確かにいかにも、といった感じだな。」

 

 人を探すのもばかばかしいと感じた勝輝は、ざっと境内を観察した。

 神社は非常に古いものだった。朱色の鳥居はところどころ塗装が剥げ、木肌がむき出しになっている。(やしろ)は多少手入れされているものの柱や屋根は色あせ、障子戸もぴったり閉まらず隙間が出来ている。石畳はところどころ割れており、その裂け目には苔が生えていた。

 境内の様子が暗闇でも確認できたのは、篝火が焚かれていたからだった。おそらく先輩部員が雰囲気を作り出すために用意したものだろうと、勝輝は推測する。等間隔に置かれた篝火は社を薄暗く照らし、揺らめく炎が境内を怪しげに演出させていた。


「……あら、先輩が石を持っているって話だったけれど……いないのかしら。」


 境内を観察し終わったちょうどその時、大原が勝輝に追いついた。

彼女も境内の中を見渡し、ようやく二人きりの状態から抜け出せるという心の安寧が打ち砕かれたことに、落胆した。


「……とんだ災難ね。」

「同感だな。さっさと石を見つけて返るぞ。」

「そうね。私もこんなイベントは早々に切り上げたいわ。」


 二人はお互いに一定の距離を保ちながら境内を探した。

 彼等が探したのは石ではなく、本来石を渡す係になっているであろう先輩部員だった。彼等は最初、これもイベントの一環なのだとそう思った。どこからか先輩が最後に驚かしに来るに違いないと。もしくは、先輩が出てこないのは、二人の険悪ムードに突貫する気が起きなかったという、これまでの道中にいたおどかし役と同じ理由であろう、と。

 しかし、社の中をのぞいても、手洗い場を確認しても、その先輩部員の姿は見えなかった。

 ただその代わり、境内にある池のほとりに、肝試しで持ち帰るものであったろう小石がバラバラと散乱していた。


「……あれ、演出かしら。」

「かもな。」

「和田先輩のお話に、池から這い出てくる妖怪がいたものね。」

「ああ。」

「……」

「……」


 勝輝と大原は、無言でぐるりと周囲の気配を探った。


「先輩……いないわね。」

「そうだな。」

「帰ったのかしら。」

「知るか。」

「確か帰りは、あの後ろの大きな参道を使うのよね?」

「そのはずだな。」

「……一応聞くのだけれど、あっちは安全(・・・・・・)、だと思う?」


 勝輝はその問いを、鼻で笑った。


いいや(・・・)。」


 冷たい白刃が(くう)を斬り、石畳を打った。

石と鉄のぶつかる音が境内に静かに響く。勝輝の右手には、刃のむき出しになった長刀が握られていた。


「あなた――まさか戦うつもり!?」

「当たり前だ。逆に聞くが、お前はこの後どうするつもりだったんだ?」

「それは……」


 大原が視線を落としたことに、勝輝は今日一番の怒りを覚えた。


「おい。お前、この期に及んで能力を使わないつもりか?」

「そんなことは――」

「冗談じゃない。今の状況、分かっているのか?別にお前を頼りになんて微塵も思っていないが、どうするべきかくらい、突然現れたこの気配を前にしたら分かるだろう?」

「……分かるわよ、それくらい。」


 戦闘経験などほとんどない大原でも、逃げることはできないということは直ぐに分かった。自分達を取り囲む気配が異常だったからだ。

 この境内に入るまではなかった人の気配が複数。それも、心臓が押しつぶされそうなほどの強烈なプレッシャーを与えてくる。姿を見せないまでも伝わる、はっきりとした敵意を向けている。

 これほどの圧をだせる人間はそういるものではない。部活動の先輩たちではないことは当然だが、悪戯半分で絡んでくる不良や街中にいる破落戸とはレベルが違う。戦闘慣れした軍人によく似た緊迫感をもっている。

 選択肢は2つしかなかった。

 戦わずして相手の言いなりになるか、戦って活路を見出すかのどちらかしかない。戦闘意思のない参道への逃走は、自ら首を差し出す自殺行為だ。

 草食動物が肉食動物に出会ったとき逃走をするのは当然だが、自然界の生物は逃走するのに特化した進化を遂げている。だが、大原はただの学生である。日常的に命を狙われているのならともかく、軍隊と同等レベルの戦闘員から逃げる術を、彼女は持っていない。逃げを選んだ瞬間、背後を討たれるのは間違いなかった。

 大原はそれを理解したうえで、勝輝に言う。


「だからって、私達はただの大学生よ?そんなの、戦ったところで――」

「ふん。そんなんでよく山田の仇討ちの手伝いをしよう、なんて思えたな。」

「!」

「甘いんだよ。能力に対する考え方も、戦いに対する心構えも、『特秘能力者』としての在り方も、何もかもが。」

「……」

「己の秘密をあっさり他人に打ち明け、他人の秘密に土足で踏み込んでくる貴様を俺は信用していないし、信用したくもない。もっと言えば、絶対に認めたりなんかするものか。」


 勝輝は刃を構え、見えない敵に剣先を向ける。


「投降する?まっぴらごめんだ。俺は特秘能力者『サイセツ』だ。

誰にも負けない。負けられないんだ。

俺はな、戦って、戦って、勝たなきゃいけないんだよ。俺が人間であるために、勝たなきゃならない。逃げるなんてありえない。」


 彼は深く息を吐き出し、言った。


「――特に相手が『黒箱』なら、尚更だ。」



なぜかまた投稿されとらん……


次回は来週日曜日投稿です

早朝深夜休日出勤は執筆の敵

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