お題:鏡①
ガラス一枚越えた向こうの世界はよほど暑いらしい。
アスファルトから湯気のようにゆらゆらと熱気が上り、今現在も温度計はみるみる上昇しているに違いない。
…まぁ、正反対に動くこちらの世界も同じ現象が起きているのだが。
いつからだろう、これが「映し出された世界」だと知ったのは。
僕達には自由が無い。自由な思考、自由な意思、自由な行動が許されていない。
向こうの世界では、みんな自由気ままに動いているが、僕らはそれに合わせて動いているだけなのだ。
偽物。そう、この世界はハリボテだ。
僕が向こうの世界に行きたくて、割った鏡とガラスの数は知れない。
僕は自由が欲しかった。
ただ、自由になりたかった。
僕が跳んだのは、ただそれだけの理由。
ビルに、その窓に僕が映る。
いや、向こうの世界にいる、本当の自分だ。
何故、君まで落ちているんだ?
君は何が不満だったんだ?
僕は偽物で、君は本物だ。
君の欲しかった物は、僕とは違う筈だろ?
僕は偽物の世界に住んでいて、君は本物の世界にいるのだから。
君がただの自由なんかを欲しがる筈がないだろ?
僕は僕を…いや、君を見つめた。
君は僕を見つめ返した。
違和感が首をもたげる。
気付かない振りをして、僕は僕の仮説を必死に肯定する。
気付いても、それはもう――
バリン、と音を立てて、僕の鏡は割れる。
僕は自由な世界に……
ゴシャ…!!
最期に聞こえた音は、僕の望んだ音色と違う響きだった。
title:鏡 ~落下~