第18話『ベレントの事実』
※夜は明け…
托生とソータは廊下を歩きながら、今回の騒動について語る。
「今回の騒動は、今までの騒動よりも遥かに難しいな」
「はい。ですが下手にドーラさんをつっつくのもいけません。彼は相当危険ですからね」
今回の騒動の難しいところは、今回の首謀者の目星がついているのに、手をだせないという点だ。
だが、彼の秘めるパワーが他と一線を画していること。彼の機嫌を損なえば、いつかどこかできっと犠牲が出るかもしれない。
「休暇明けまであと2日…もし残りに新しく何日か与えられたとしても、その期間で不正を暴けるのでしょうか…」
「つうか、ドーラの実力だけを見込んで騎士として採用するなんて…あんな危険人物がこの城を歩いているって考えるだけで恐ろしいぜ」
二人はそう話しながら歩いていると、そこである男とすれ違う。
「…おはようございます」
「「お…おはようございます」」
ベレントである。
以前よりも様子が違うような。
だが、ソータはそこで彼を呼び止める。
「待ってください」
「…」
托生は、ソータが彼を呼び止めたことに驚いたようだ。
「あなたからのこの件への思いが詳しく聞きたいです。一度お部屋に来てはいだだけないでしょうか」
「…提案などは、何も思い浮かんではおりませんが?」
「いえ、提案はいいのです」
「…え?」
ベレントは釈然としない様子でソータを見る。
「あなたの思いを知りたいだけなのです」
「…」
※
二人はなんとかベレントを部屋に呼ぶことに成功した。
「「「…」」」
静まった部屋で、二人はベレントと向かい合うように座っていた。
「(ソータ…これってどういうことだ?)」
托生はソータにアイコンタクトを送る。
「(彼こそが、今回の計画の鍵です。彼をよく知れば、計画はスムーズに動きます)」
「ど…どうしてそう言いきれるんだ?)」
だが、ソータはそれには答えず、ただ自信満々に笑みを浮かべていた。
托生はそれを不思議に思ったが、ソータは間もなく話をはじめた。
「やはり、今回の計画にはプレッシャーはあるのですか?」
「ええ…それは…まあ」
意外なところから始まった会話。
返された当然の応答に、ソータは予想外の一言を返す。
「じゃあ、何でも話してください!」
「…え…ええ?」
「言ったとおりですよ!愚痴でも何でもいいですよ!」
「は…はあ」
「(何か…ソータの様子が違うな…)」
「私は…特には──」
「そうですか?絶対にありますよ」
ベレントはソータの話に驚きつつも、なぜか呆れはしなかった。
自分を見るソータの顔が、自分の心の奥底まで見え透かしているようだった。
「例えば、最近寝れてないとか…会議が多くて困るとか…あとは──」
ベレントにとってそれは大いに図星だったが、おふざけにしか聞こえなかった。
「私は今から10分後に会議が…」
ベレントが立ち去ろうとしたその時、ソータはベレントに予想外の話を叩き込む。
「ドーラさんと何かあった…とか」
「…!?」
その一言に、ベレントは激しく動揺していた。
「図星ですか?」
「…っ!」
ベレントも托生も、なぜソータがこれを見抜いたかわからなかった。
ソータは、その理由を語る。
「ベレントさんは、昨晩の会議で早めに離席しましたよね?会議があるとおっしゃっていました」
「…はい」
「あの重要な会議を離席するとなると、相当重要な人物とお会いになったはず…会議室に向かう途中、あなたはどなたと接触したのです?」
ベレントの動揺が大きい。ソータの推測がよく当たっていることに、托生は驚きつつもソータのいいたいことが形をもって見えてきた。
「…それは、どなたですか?」
「…──」
ベレントは歯を食い縛る。
ラトカやカトラ、セイン、グレイスといった重要人物一同は、会議室を出たベレントと接触することはあり得ない。となれば、接触できる重要人物は一人に絞られる。
「ドーラさんです…」
ベレントは、まいったようにこぼした。
托生も驚く。
「なぜ、あなたともあろうお方が…」
ソータが言うのに、托生も同意見だ。グレイスからも功績を嘱望されているベレントが、こんなことをするはずもない。
「…」
ベレントは、それっきり黙ってものも言わなくなった。
「…言えません」
「「!」」
ベレントは、即刻席を発って、なにも言わぬまま会議に向かった。
「…」
なぜだろうかそれを、ソータは止めずに見送った。
※その20分後のこと…
ベレントは、会議室にやって来た。
だが、どうやら先客がいるらしい。
「申し訳ありません…遅くなりまして」
「…今までどちらに?」
その先客とは…──
「“…国王とお話を…”」
「なるほど…」
ギギギと音をたてる椅子から立ち上がった男、その身長は2m以上は確実か。
「私の悲願の達成には、お前のはたらきに期待していますからね…くくく」
「…はい」
ドーラと向かい合って、ベレントは汗を垂らしていた。




