第17話『ベレントの会議』
「みなさんお集まりですね。それではこれより、会議を開始させていただきます」
会議室に集まっていたのは、恐ろしい権力をバカらしく集めたかのような面子だった。
ラトカ、カトラ、チェヴィル、セイン、ベレント、そしてグレイスが、一つのテーブルを囲んで座っていた。
なんということだろう。托生とソータは、この面子に混じるのが気が引けた。
そんな二人に、グレイスがフォローを入れる。
「大丈夫だ。托生、ソータ。あなたたちはもうすっかり、この計画の協力者であり、ワシのお気に入りじゃ!」
「は…はあ」
そう言ってもらい、托生とソータは少なからず安心し、椅子に腰を下ろした。
だが、二人はこの場に不釣り合いな一人に、無意識に目が向いていた。
「…なによ?」
「いやぁその…チェヴィルは何でいんの?」
「不釣り合いだっって言いたいの!?まったくもう…バカにしてっ」
「…えっ、いや別にっ」
ぷりぷりしてそっぽを向いたチェヴィル。
托生が頭を抱えていると、カトラが事情を説明する。
「チェヴィルさんがこちらにいらっしゃるのは、お部屋に一人にしておくのが危険だからでございます」
「あっ、なるほどな…」
納得する托生とソータ。
だが、ラトカはさらにそこに補足する。
「ですが、それは理由のほんの一部でして…」
「「?」」
「チェヴィル様自ら、ここへの出席を希望していらっしゃったのです」
「「っ!」」
その意外な理由に、まず二人は驚き、そして納得し感動した。
「なるほど、つまりチェヴィルも、この計画に協力したいと本気で思ってるんだな」
「さすがは国王の娘ですね!逞しいです」
そこで、チェヴィルの頬が少し赤くなる。
セインもグレイスも、それにはうれしそうだった。
「嬉しいのぉ。わが娘がこれほどまでに積極的だとは…」
「さすがは姫様ですね。強い正義感です」
「当然よ。でも私にとっては、理由はもうひとつあるの…」
その一言に、一同は簡単に察しがついた。
「あのドーラとかいう変質者は、私にとって恐怖の対象でしかないものっ!」
チェヴィルの顔は一気に青ざめる。ドーラにはよっぽど怯えているらしい。
「…──こちらをご覧ください」
ベレントは、テーブルを囲むみんなに1枚のプリントを渡す。
全員がそれを受け取って、托生とソータもそれに目を通す。
そのプリントには、グラフ化されたこの国の街への可能融資額が、これ以上ないまでに精密かつ正確に顕されていた。
「それを見てわかる通り、去年と比較すると、街への可能融資額は26億ポイントも削減されています」
「にじゅっ…」
驚く托生そしてソータとチェヴィルだったが、いまいちわかっていなさそうな感じだった。なのでベレントはわかりやすく説明する。
「わかりやすく説明するなら、本来の水準である50億の水準から大きく下がってしまっているのです。去年の記録は53億──でしたが、今年は27億ポイントと大きく暴落してしまっているのです」
「ほぼ半減じゃないか…」
「ということなら、地域ごとにまずしい所が出るのも当然ですね…」
チェヴィルも今回の事態の凄惨さを知って、カトラとラトカに訴える。
「何とかできないの?」
「いや…その」「何とかと言われましても」
「私たち王族のお金をそっちにやったりとか…」
チェヴィルの提案をも、ベレントは容赦なく一蹴する。
「申し訳ございませんが、もし仮にそうしたとしても、あちらの方に行くのは多くて2300万程度だと思われます。敵は城内に潜んでいる可能性が高いので、この城内での対策は無意味かと」
「…ずいぶんはっきり言うのね」
チェヴィルがため息をついていると、セインはさらに質問する。
「裏切り者について、検討はついているのでしょうか」
それについて、ベレントは少しためらって答えた。
「…それが、まだついていないのでございます。」
一同は不思議そうにする。
「ちょっ…何でよ!城内での疑わしい人といったら、ドーラだって検討はつくでしょ!」
すると、それに逆説を述べる者が現れる。
「いえ、そうとも限らないかもしれません」
「お姉様…やはりそう思いますか」
ラトカとカトラだ。
「ドーラさんは、隠し金庫のありかを知る人間ではないということ──ですね」
「その通りです」
隠し金庫──ここにはそんなものがあるのかと驚くのは、チェヴィルと、そして托生とソータだった。
「何だ?その隠し金庫って…」
托生の質問に答えたのは、ラトカだ。
「この城のどこかにひっそりとある、約500億ポイントもの大金を保持しているという金庫です。その金庫のありかを知るのは、ベレント様、セイン王子、私とカトラ、そして銀行員全員です。みんな、その金庫を開けることが出来る鍵を、厳重注意で持っています。もちろん外部への漏洩をしたものは、よっぽどの同情がなければクビです」
「ぉぉ…」
あまりにも淡々と語るので托生は言葉を失ったが、そこのありかを知らないドーラが入れるわけがないということだけはわかった。
「以上の理由で、今ドーラさんを疑うのは難しいと思われます」
ベレントもそう苦しそうにいう。
托生も質問する。
「…バンカー全員もありかを知っているのなら、容疑者なんじゃないか?」
「確かにそうとは考えられますが、漏洩は重罪なんです。そうおいそれと教える者がいるとは考えられません」
托生は完全に一蹴されたと思ったらしいが、ソータはさらにそこに補足する。
「誰かがありかを教えるよう、バンカーのある一人に脅迫したとしたら…」
「…!確かにそれなら筋がとおるわ!」
ソータの意見に、チェヴィルも賛成する。
「ドーラの脅迫なら簡単に想像できるわ!これはかなりいいわよね!ベレント!」
それに、ベレントは首を縦にふる。
「やはりそうですか。それが一番妥当のようですね」
ベレントは席から立って、一度うなずいて言う。
「この度はお集まりいただきありがとうございます。今後はこの会議での案を、参考にしていこうと思います」
ベレントはなぜか急いでいるようだった。
「何か急いでるのか?」
「ええ、今から急ぎの用事がありまして」
ベレントはそういって、すぐに会議室を出た。




