第14話『王国の路地裏』
「こ…ここだぁ」
店に入ると、そこには異様な光景があった。
「なっ!?」「…っ!」
部屋全体に飾られた危険ドラッグが、1袋300という高額で売られていた。
「なぁ、ちょっと買ってくれよ…」
「…買うわけないだろ」
托生はあきれてその男を睨んだが、彼はヘラヘラと笑顔を浮かべるだけだった。
「…頼むよ…家族がいんだよぉ」
「なら、その家族のためにドラッグをやめたらどうです?」
「ああ、冒険者でも始めたらどうだ?」
二人がそう言うと、男の表情から笑みが消えた。
「そうか…買ってくれねえのか…」
男は部屋の奥からナイフを取りだし、二人に襲いかかった。
托生がそれを引き受ける。その攻撃は狙いがはっきりと定まっておらず、簡単に腕をきわめることができた。
男を取り押さえた托生は、ソータに叫ぶ。
「こいつは俺が取り押さえるから、警察を連れてきてくれ!」
托生の言葉に準じドアを出ようとした彼女は、「ひっ…!」と声をあげて戦慄した。
「どうした…──ッ!?」
托生もそれに目を見開く。
まるでゾンビ映画よろしく、その窓には狂乱した人間が何人も張り付いていた。
「何だこれ…」
これでは出られない…だが、屋根上には非常出口があるらしい。
「ソータ!上から逃げるぞ!」
何とかはしごをつたって上に逃げた二人は、屋根の上に来た。
托生はストーンガードでその出口を塞ぐ。これで追いかけてはこれまい。
屋根の上から下を眺めて、二人は思わず息を呑んだ。
多くの人が薬に精神を侵され、狂人となっている。
失恋の傷心からか、愛するものの名前を叫びながら壁に顔を打ち付ける男。金への飢えからか、男を誘い春を売る女。
──この路地裏は、もはや外の平和な空気とは一切結び付いていなかった。




