表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/112

第08話『ソータの語る過去』

「二つ目に入る前に、ちょっとだけ私の昔話をしましょうか」

 ソータの過去。

 托生は話を聞く前に推測すいそくしてみる。

 これだけ優しい少女だ。きっとたくさんの愛に包まれて幸せに生きてきたのだろう──…托生はそう、たかをくくっていた。

「聞かせてくれ」

「はい…私がまれたのは12年前の冬の夜。私が産まれた家は、代々(だいだい)優秀ゆうしゅうな魔術師を配属はいぞくしてきた家でしたが、そこはかなり評判ひょうばんが悪く、家名を口に出すのも(はばか)られるようなものでした。私もその血で人に(しいた)げられ、悪魔の子だって罵声(ばせい)を浴びせられました。私をにくんでいる人たちがいつおそって来るかわからず、部屋のベッドでうずくまり震えていました」

「…え?嘘だろ?」

 托生は驚いた。優しい笑顔をもつソータに、そんな過去があったなんて信じられない。

「本当ですよ?」

 ソータは微笑ほほえんでいたが、表情の陰りから見てすぐに作り笑いだとわかった。


「親には相談しなかったのかよ?そしたらちょっとは楽に──」

「無駄ですよ。私は恐怖で自分を閉じ込め、落ちこぼれになっていましたから、両親は私に興味きょうみなんてありません」

「でもっ、それがお前が見放みはなされる理由には──」

「反論をひとつべれば、すぐに家を追放ついほうされます。私の家の(きび)しいしきたりです。そしたら次こそ、私の居場所はなくなってしまうんですよ」

 強く言い切ってみせたソータに、托生は押し黙った。

「私には5つ上の兄がいました。兄はその家でも、間違いなく歴代最強の存在です。私は愛想あいそつかされていたのでトレーニングもさせてもらえませんでしたが、兄にだけは尽くしていました。今の私のレベルはlv4ですが、私が家を飛び出すまでの兄のレベルは、50まで到達とうたつしていましたよ」

「…ごめん」

「…?」

「俺、お前のそんな悲しい過去を知らずに、『平和なところでぬくぬくと育ってきた』とか…」

「ああ…そういうことですか、気にしないでください。私ももう気にしてませんから」

「何で…そんな簡単に許してくれるんだ…?」

「簡単ですよ。托生さんの暴れる相手は、私ではなく托生さん自身ですから。私はそんなので傷つきはしませんよ」

 彼女は一人で何でもできる。一人で生きていける。だからこそ、自分の心に悲しみを(たくわ)えてしまう。

 托生を抱きしめるソータの体は小刻みに震え、その目からは彼女が蓄えた悲しみがこぼれていた。

「ごめん…」

 すると無意識のうちに托生の手は前に出て、ソータの目からこぼれるそれをぬぐってやっていた。

 彼の中に、ソータへの庇護(ひご)欲が産まれていたのだろうか。


「私の昔話はこれで終わりです。私が托生さんは優しいと判断はんだんした二つ目の理由…その証拠しょうこは、あなたの目の前にありますよ」

「俺の目の前…?」

 托生の目の前には、ただソータがいるだけだ。

「そうです。あのとき石を投げていなかったら、私はこの世にいません。あなたはとても優しくて、そして勇気がある人なんですよ。先程のことも、きっと同族嫌悪なんてことじゃないです!」


 ソータの言葉は、托生の心までもを優しくつつみこむ。

 托生の心は、ちょっとずつ優しく変わっていっていくようだった。だが、今の彼の心では、どうしても“クズ”が勝ってしまう。

 そんなポジティブな結論けつろんにはいたりきれず、彼は(かぶり)をふる。

「そんなのはまやかしだろ!俺が元いた国で、どんならしをしてきたか、お前は知らないんだ!」

 そう言うと、頭の中にまた、あの日本での生活がフラッシュバックしてきた。

「やるべきことから平気で逃げ出して、自分の怠惰(たいだ)が招いて手にいれたものに不満面ふまんづら!そんな俺に優しさだとか勇気だとか、そんなもんが──」

「そうでしょうか?」

 ソータはやさしく問い返してみせた。


「…!?」

 今までソータが見せてこなかった態度に、托生は驚愕(きょうがく)する。

「もっとポジティブな部分に目を向けてみてください。あなたの記憶の中に、あなたにすくわれた人がいたはずですよ」

「俺が…救った人…?」

 托生は、こんな自分が誰かを救うなんて考えてもみなかった。

 最も近くにいた心花にだって、自分は一度も笑いかけたことなんてない──托生はそう思うと、心の中に声が響いた。

『──違う!』

 その声は、托生自身の声だった。

「え…?」

 今托生は、自分の思いを自分で否定したのである。

『お前はずっとそうだな。8年前から、ずっと…』

「8年…」

 8年前という数字を聞いて、托生はハッとした。

 そしてその結果、何が見えてきたのか…。


「そうか。全て思い出したぞ」

 托生の脳内に、記憶が次々と(よみがえ)ってくる。

「ソータ、俺ひょっとしたら、思い出しちまったかもしれない…それが何の記憶なのかくわしくはわからない…だけど…──」

 ソータは托生への抱擁を止め、手をにぎって彼の心を落ち着かせ出した。

「8年間忘れ続けていた、俺の大切な記憶なんだ…」

 ソータが托生の手を(にぎ)るのに、さらに力を込める。

「その話、聞かせてもらってもいいですか?」

 その瞬間、托生は全てを、この少女に告白することにした。

「ソータ、俺は今からお前に伝えるのは、俺がもといた“世界”のことだ…」

「元いた世界…?」

「ああ…この事は、お前と俺だけの秘密(ひみつ)だぞ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ