第09話『チェヴィルの不安』
ソータに服を着させて、チェヴィルとテーブルを囲む。
チェヴィルは正直なところ困惑気味だったが…。
「いつもこんなことしてるの?」
「いや、今日は正直疲れたからバカしたかっただけ」
チェヴィルは頭をかきながら、二人を労ってやりたかったができそうにない様子だった。
「で、用件は?」
「実は、私部屋を抜け出してきたの」
その答えにびっくりするソータ。
「え!?大丈夫なんですか」
「所詮あんな部屋、退屈すぎている価値もないもの」
「「おお…」」
きっぱりと言い捨てたチェヴィルに、二人は互いに驚いた顔で向きあった。
「それに、あんたら二人ほど頼もしいボディーガードもいないし」
「…って、用件は?」
それを聞いて、チェヴィルは一度躊躇って言う。
「…──少し、今回の騒動で伝えたいことがあるの」
チェヴィルの表情が変わる。
托生とソータは真剣にそれを聞き入れる。
「私を狙う敵から私を守るよう、ここに戦士として招集されたのよね。みんなは口を揃えて、敵は攻めてきていると言うけど、実はこの城の内部に潜んでいるのかもしれないの」
「!?」
唐突なチェヴィルの宣言に、二人はさらに驚いたらしかった。
チェヴィルには嘘をついている雰囲気はなかった。
「…それは、誰だ?」
「私が睨んでいるのは、騎士団の精鋭“ドーラ=グォンク”。彼は、私がおじいさまの娘として王子との結婚を求められ、私にフラれたの」
「フられたって…」
「仕方ないでしょ!120人を越える貴族のブスでデブなド変態おじさんが、『結婚してぇええ』って来るのよ。イケメンなんて3人もいなかったわ」
「まあ、それは嫌だろうな…」
二人はそのシチュエーションを想像して気分が悪くなった。
「そのなかにドーラがいて、彼は結構なダメージを受けたっぽいわ」
「どんな男なの?」
「顔は悪くないんだけど、今まで20人の女を再起不能にしたらしいわ」
「「恐っ!!」」
二人は、婿入りしなくて正解だったなと胸を撫で下ろした。
「…じゃあ、なぜ王子さまをセインに任命したんだ?」
托生は聞くが、そのときチェヴィルの様子が変わった。
「…!!」
チェヴィルの頬が紅潮し、目をそらしてしまった。
「…なるほどな…」
ソータも、それに微笑んだ。
──コツッ…コツッ
廊下に足音が響く。
「誰だ…──まさか」
ドアがノックされる。
警戒する托生は、チェヴィルに隠れるよう耳打ちする。もしものことがあってはいけない。
チェヴィルがシャワールームに隠れたのを確認して、托生はドアをゆっくりと開けた。
その向こうには…──
「こんばんは。托生さんとソータさん」
セインだった。
「何だセインか…どうした?」
「チェヴィル様がおられないのです。知りませんか?」
「ああ、なら…」
チェヴィルを呼ぼうと声を出そうとする。
だがチェヴィルは、気づけば托生を横切ってセインの方に走ってきていた。
「勝手に出ていってはいけませんよ。心配したんですから」
「ごめん…でも、この二人にどうしても伝えたいことがあったから」
「まあよかったです。托生さんソータさん、かくまっていただいてありがとうございます。おやすみなさい」
セインは托生とソータに挨拶をして、自分の部屋に戻っていった。
チェヴィルがこうやって部屋を訪ねてきたのだから、きっと信頼されているのだろう──二人はひそかに誇らしく思った。




