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第08話『ラトカの可愛い妹』

「ふぅ…」

 かなりの負荷に震える腕を抑えながら、托生は息絶え絶えにそこに膝をついた。


「カトラ…!」

 心配してかけよるラトカは、息をしていることにほっと胸を撫で下ろした。

「じきに目を覚ます。起きたらめいいっぱい(しか)っとけ」

「…はい」

 そしてラトカは、托生とソータが戦いの前に言っていた一言を思い出した。

 当初は何を言ってるのかさっぱりだったが、ラトカは今になってはっきりした。

「見抜いていらしたんですね…ラトカのこれを」

「コロシアムの件からだな…俺は別に(うら)んでないのに、あのときのカトラは、責任を全て自分が受けると、ああいう行動をとった。今回のも、お前の敗北を帳消(ちょうけ)しにするためのものだったんだ」

「…」

「ソータは知ってたぞ?俺よりずっと早くな」

「えっ!」

 ソータは傷だらけになりつつも、深呼吸をついて立ち上がっていた。

 それを見て、ラトカも神妙な表情になった。


「かわいい妹だな」

「…え?」

 托生は笑って言う。

 托生にはちょっとした日本での思い出があった──自分のことを「兄さん」と呼んで(した)ってくれる、たった一人のかわいい家族のことだ。

「…俺にも妹がいるんだ。…もう会えないかも知れないけど、かわいいんだぜ」

 そこまで言って、托生の笑みに含みがあらわれる。

「あいつのこと、もっと可愛がっとけばよかったなぁ…」

「托生さん…」

「ラトカ、お前にとってカトラはたった一人の妹なんだ。それはお前が一番よく思ってるだろ?たっぷりかわいがってやれよ──…よしっ、ソータ!いこうぜ!」


 托生はソータを連れて、ラトカに手をふってトレーニング室を出た。

 ラトカは思い知った。

 托生という青年と、そしてソータという少女には、(かく)し事はできそうにないのだと。



「今回の戦いで、カトラの問題については完璧(かんぺき)にはっきりしたな」

「はい」

 部屋に戻った托生とソータは、夕食を食べながらテーブルで向かい合っていた。

「ですが問題(もんだい)はありませんね」

「え?」

 ソータはにっこりと微笑(ほほえ)んで、托生の方を向いた。

「彼女のあの性格は、姉であるラトカさんへの熱烈(ねつれつ)なまでの執着(しゅうちゃく)。さらにメイドという堅実(けんじつ)役職(やくしょく)の中で、彼女のそれはさらに加速(エスカレート)したのです」

「なるほどな…」

 托生とソータは食べ()えた夕食を片付けると、部屋のベッドに寝転(ねころ)がった。

「今日一日だけで、いろんなことがありすぎだ。王城に来て今日一日、二回も強敵と(たたか)ってんだけど」

「本当ですよ。もうへとへとです…」

 (めずら)しく()けるソータ。


 だが、次に様子が変わる。

「あっ!」

 ピコーンという効果音のつきそうに、ソータは(ひらめ)いたように声を出した。

 するとソータは、突如(とつじょ)服を()(はじ)めた。

「なっ!?お前何やって──」

「一緒にシャワーを()びるだけですよ!今さら何を()ずかしがってるんですか?」

 そしてソータは一糸まとわぬ姿(すがた)になり、托生の前に立った。

「さあイきますよ!一緒にキモチよくなりましょう♡」

「別の意味にしか聞こえねえんだよ!…っていうか、俺たちまだそういう段階(だんかい)でもねえしな?」

「何言ってるんですか!私たちもう経験(けいけん)()みじゃないですか!」

「あれは無意識(むいしき)だったんだよ!?」

 だがソータは、いたって真面目(まじめ)そうに答えた。

「私、もう覚悟(かくご)はできてますよ?」

「…──!?」

 目の前のソータの裸体(らたい)(あらた)めて見直すと、托生は顔を真っ()にしながらも生唾(なまつば)をのんだ。

 これほどの少女がウェルカム状態(じょうたい)なのだ。この少女を合法的に托生の思うがままにできる。頭のてっぺんから爪先(つまさき)まで、そしてあんなことやこんなことも…。

 托生が今まで、ソータとクリーンな恋愛を行ってきた成果(せいか)である。

 そう考えるだけで、托生は目の前のソータに飛び()かり、メチャクチャにしたい気分だった。

 ──だが、托生にはそんな勇気は無かった。

「いやぁ無理だぁー!」

「もう托生さんってば…──まあ、そう言うとは思ってましたけど」

「え…?」

 ソータは面白そうに笑った。

「ちょっといじめたくなっちゃっただけですよ♡」

 そう(した)を出して言うソータは、少し意外だった。

 だがそれは、托生の中の男としてのサガを爆発(ばくはつ)させた。

「…くそっ!見くびるなよ!?」

 托生はその笑顔を(ゆが)ませ、裸体(らたい)のソータをベッドに押し(たお)した。

「えっ…托生しゃん!?」

「俺だって、お前をくすぐりまわすことくらいは出来るんだぜぇーっ!?」

「きゃーっ♡」

 明らかに出会った当初よりかは上出来(じょうでき)だが、このままではあらぬ方向に(こじ)れそうであった。


 ──ガチャッ

 すると、何の音沙汰(おとさた)もなくドアが開いた。

「どうだソータ!キモチいいだろ!素直(すなお)にさっきの行動を()びても──…ん?」

「くすぐったいぃいっ♡あぁああっ!…はっ…もうっ、托生さんのイジワルぅ…♡でもそういうところも──…へ?」

 ドアの向こうの人物は、目の前に広がる光景に言葉を(うしな)っていた。

 ネジの外れた様子の男にくすぐられ、身をくねらせ嬌声(きょうせい)をあげる全裸の少女。

 さらにそれが、托生とソータだと知ればどう思うだろう。

「…」

 その光景を見たその人の目は、冷めきっていた。

「「チェ…チェヴィル姫」」

「──…お邪魔(じゃま)したわね」

「おい待てってぇえッ!」

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