第08話『ラトカの可愛い妹』
「ふぅ…」
かなりの負荷に震える腕を抑えながら、托生は息絶え絶えにそこに膝をついた。
「カトラ…!」
心配してかけよるラトカは、息をしていることにほっと胸を撫で下ろした。
「じきに目を覚ます。起きたらめいいっぱい叱っとけ」
「…はい」
そしてラトカは、托生とソータが戦いの前に言っていた一言を思い出した。
当初は何を言ってるのかさっぱりだったが、ラトカは今になってはっきりした。
「見抜いていらしたんですね…ラトカのこれを」
「コロシアムの件からだな…俺は別に恨んでないのに、あのときのカトラは、責任を全て自分が受けると、ああいう行動をとった。今回のも、お前の敗北を帳消しにするためのものだったんだ」
「…」
「ソータは知ってたぞ?俺よりずっと早くな」
「えっ!」
ソータは傷だらけになりつつも、深呼吸をついて立ち上がっていた。
それを見て、ラトカも神妙な表情になった。
「かわいい妹だな」
「…え?」
托生は笑って言う。
托生にはちょっとした日本での思い出があった──自分のことを「兄さん」と呼んで慕ってくれる、たった一人のかわいい家族のことだ。
「…俺にも妹がいるんだ。…もう会えないかも知れないけど、かわいいんだぜ」
そこまで言って、托生の笑みに含みがあらわれる。
「あいつのこと、もっと可愛がっとけばよかったなぁ…」
「托生さん…」
「ラトカ、お前にとってカトラはたった一人の妹なんだ。それはお前が一番よく思ってるだろ?たっぷりかわいがってやれよ──…よしっ、ソータ!いこうぜ!」
托生はソータを連れて、ラトカに手をふってトレーニング室を出た。
ラトカは思い知った。
托生という青年と、そしてソータという少女には、隠し事はできそうにないのだと。
※
「今回の戦いで、カトラの問題については完璧にはっきりしたな」
「はい」
部屋に戻った托生とソータは、夕食を食べながらテーブルで向かい合っていた。
「ですが問題はありませんね」
「え?」
ソータはにっこりと微笑んで、托生の方を向いた。
「彼女のあの性格は、姉であるラトカさんへの熱烈なまでの執着。さらにメイドという堅実な役職の中で、彼女のそれはさらに加速したのです」
「なるほどな…」
托生とソータは食べ終えた夕食を片付けると、部屋のベッドに寝転がった。
「今日一日だけで、いろんなことがありすぎだ。王城に来て今日一日、二回も強敵と戦ってんだけど」
「本当ですよ。もうへとへとです…」
珍しく溶けるソータ。
だが、次に様子が変わる。
「あっ!」
ピコーンという効果音のつきそうに、ソータは閃いたように声を出した。
するとソータは、突如服を脱ぎ始めた。
「なっ!?お前何やって──」
「一緒にシャワーを浴びるだけですよ!今さら何を恥ずかしがってるんですか?」
そしてソータは一糸まとわぬ姿になり、托生の前に立った。
「さあイきますよ!一緒にキモチよくなりましょう♡」
「別の意味にしか聞こえねえんだよ!…っていうか、俺たちまだそういう段階でもねえしな?」
「何言ってるんですか!私たちもう経験済みじゃないですか!」
「あれは無意識だったんだよ!?」
だがソータは、いたって真面目そうに答えた。
「私、もう覚悟はできてますよ?」
「…──!?」
目の前のソータの裸体を改めて見直すと、托生は顔を真っ赤にしながらも生唾をのんだ。
これほどの少女がウェルカム状態なのだ。この少女を合法的に托生の思うがままにできる。頭のてっぺんから爪先まで、そしてあんなことやこんなことも…。
托生が今まで、ソータとクリーンな恋愛を行ってきた成果である。
そう考えるだけで、托生は目の前のソータに飛び掛かり、メチャクチャにしたい気分だった。
──だが、托生にはそんな勇気は無かった。
「いやぁ無理だぁー!」
「もう托生さんってば…──まあ、そう言うとは思ってましたけど」
「え…?」
ソータは面白そうに笑った。
「ちょっといじめたくなっちゃっただけですよ♡」
そう舌を出して言うソータは、少し意外だった。
だがそれは、托生の中の男としてのサガを爆発させた。
「…くそっ!見くびるなよ!?」
托生はその笑顔を歪ませ、裸体のソータをベッドに押し倒した。
「えっ…托生しゃん!?」
「俺だって、お前をくすぐりまわすことくらいは出来るんだぜぇーっ!?」
「きゃーっ♡」
明らかに出会った当初よりかは上出来だが、このままではあらぬ方向に拗れそうであった。
──ガチャッ
すると、何の音沙汰もなくドアが開いた。
「どうだソータ!キモチいいだろ!素直にさっきの行動を詫びても──…ん?」
「くすぐったいぃいっ♡あぁああっ!…はっ…もうっ、托生さんのイジワルぅ…♡でもそういうところも──…へ?」
ドアの向こうの人物は、目の前に広がる光景に言葉を失っていた。
ネジの外れた様子の男にくすぐられ、身をくねらせ嬌声をあげる全裸の少女。
さらにそれが、托生とソータだと知ればどう思うだろう。
「…」
その光景を見たその人の目は、冷めきっていた。
「「チェ…チェヴィル姫」」
「──…お邪魔したわね」
「おい待てってぇえッ!」




