表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/112

第05話『チェヴィルの稽古』

 廊下(ろうか)を歩いていると、一人の少年が目に入った。

「おや、これはこれはお二方…」

 セイン王子は、落ち着いた物腰で会釈(えしゃく)した。

「こんばんは…」

 ソータが(ひざ)をつくのを見て、托生も見よう見まねで会釈したが、国王と同じように止められた。

「国王と同じように、私にも頭を下げられることはありませんよ。私も国王も、メイドにも騎士(きし)にも国民にも、頭を下げさせることはありません」

「は…はあ」

 頭を上げる二人に、セインはニコリと微笑んだ。

「いやはや、実力試験のお二人は、実にすばらしかったです。Cスマッシュ、そしてインテンスサンダー──あのスキルの迫力は、私の期待(きたい)を大いに越えてきてくれました」

「「ど、どうも…」」

「お二人を防衛戦士として迎え入れて正解でした。これからも、期待していますよ。…では」

 セインは二人を称賛してから、廊下ですれ違った。

 だが、ソータが呼び止める。

「どちらへ?」

 セインはしばし立ち止まる。

「姫様は今、カトラ様とラトカ様に魔法のレッスンを受けておられますので、様子を見にいこうと…──あっ!」

 そこまで言って、閃いたように言う。

「よかったら、お二人もどうです?」

「「…えっ?」」


※地下の広いトレーニング施設(しせつ)


「むぅ…」

 行ったら行ったで、結局チェヴィルに(にら)まれてしまった。

 チェヴィルの(うるわ)しいドレスは、動きやすいウェアになっていた。

「…セインが呼んだの?」

「ええ。いい顧問(コーチ)になると思いまして」

 チェヴィルは托生たちの方を見る。

「「どうも~」」

 二人はバカにニコニコしていた。

 追い返そうとしたチェヴィルだが、コロシアムで見た二人の実力を思い出す。

「私たちは異論ありません」

「お二人の実力はよく理解しておりますので」

 メイド服から動きやすく着替えたカトラとラトカも、それには了承(りょうしょう)していた。

 それにチェヴィルはため息をついた。

「はぁ…わかったわよ。受ければいいんでしょ」

「ふふふ」

 いやいや了承したチェヴィルに、セインは微笑(ほほえ)んだ。


 托生はチェヴィルに聞く。

「で、授業って何してるの?」

「…攻撃魔法の実践(シミュレーション)よ。ウィンドボールを狙いすまして飛ばせるようになるの」

「…へー」

 思った以上にスポーツの苦手な女の子らしい(なや)みだと思った。


 托生は授業のメニューを閃く。

「よーし、チェヴィル。レベルは?」

「…21」

『チェヴィル(lv21):素質値630』

「やるな…魔法は得意か?」

「素質はあるって言われるけど」

「…よし。じゃあ、俺が(まと)になろう」

 托生はチェヴィルのまっすぐ8m先に立つ。

「さあ打ってこい」

「そんな性癖(せいへき)が…?」

「そんなんじゃねえって!こうしたほうがわかりやすいんだよ」

 托生はチェヴィルのウィンドボールを待っていた。

 向かい合う二人に、それ以外の四人は注目した。


「ウィンドボール!」

 チェヴィルは(てのひら)にボールを()めた。

 その緑色のエネルギーを見る限り、彼女にはやはり素質がある。

 そして投げた。

 だが、突然それてしまった。

「…あれ?」

「わかってるのよ!下手だって言いたいんでしょ!」

 顔を真っ赤にするチェヴィルに、ソータがジェスチャーをしつつアドバイスを出す。

「実はウィンドボールは、下から上にむけて(すべ)らせるように投げると、標的(ターゲット)に向かって飛びやすいんですよ」

「わ、わかった」

 チェヴィルは少し疑いつつも、ソータの言った通りに投げる。

 すると、ボールは素早さを増し、托生の方へと飛んでいった。

「やった…!これなら!」

 チェヴィルの顔が希望に満ちる。

 だが…

「ほいっ」

「えっ」

 托生がキャッチボールよろしく受け止め(つぶ)すと、消滅してしまった。

 ずーん…──と表現されるであろう様子で落ち込んだチェヴィルに、托生はすぐにかけよってフォローをかけようとした。


「ああもう、ごめんチェヴィル」

 すると、チェヴィルの顔がニヤリとしたような気がした。

「…ん?」

 気付けば、托生の腹部に高密度のエネルギーを(たくわ)えた手があった。

「ぶっ倒れろ!インパクト!」

 チェヴィルの托生へのヘイトを乗せた一撃が、見事に命中した。

 隙さえつけばちょろいものだと、チェヴィルはほくそ笑んでソータの方を見た。

「ふっ…どう?相棒がやられた気分は…」

 きっと悔しさに涙を流していることだろうが、予想は大きく外れ、彼女は満面の笑顔で拍手をおくっていた。

「え…?」

 ポカンとするチェヴィル。

「すごいぞ想像以上だ。さすがは姫、天才肌だな」

 微笑みをたたえた托生の声。そしてチェヴィルの腕はつかまれる。

「!?」

 チェヴィルの目の前には、満面の笑顔の托生がいた。ついさきほどのダメージはなかったとでもいうのか、彼の息さえ切らさない様子にチェヴィルは息をのんだ。

「でもさぁ、接近戦は俺の専売特許なんだわ」

 チェヴィルは心の底から痛感した。

 これは勝てない──と。

 托生は成績簿にサインをするカトラに声をかけた。

「カトラ。チェヴィルの今回の成績はA以上だ。同レベルの時の俺なら危なかったからな」

「…わかりました」

 カトラは成績簿に、AAとサインした。

「おつかれさまです、チェヴィルさま」

 ソータは、ベンチにへたり込むチェヴィルに水を差し出した。



 セインは、はっと閃いた様子になった。

「そうだ。托生さん、あとソータさんも」

「ん?」

「チェヴィルさまはお疲れですし、少しここは()()学んでいただくのはどうでしょう」

 (ふく)みのある言いように、二人は首をかしげる。

「ラトカさん。カトラさん」

「「はい」」

 カトラとラトカは、托生とソータの前に立った。

 彼女らの目は、さながらアサシンのようだった。

「2vs2の組手──いかがでしょうか?」

「!?」

 托生とソータは驚いていたが、すこし口角が(ゆる)んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ