第01話『2人は王国防衛戦士』
しばらくして馬車は止まり、二人は王城の前に下りた。
「よっと…おおっ」
超弩級の王城に圧倒されていると、すぐに挨拶が来た。
どうやらそれは二人らしく、その装飾からわかる通りメイドのようだ。
「お待ちしておりました」
「私たちはガルシェット王城専属メイドの、ラトカと──」
「カトラでございます」
「ど、どうも…」
托生とソータは、ラトカ,カトラと名乗る二人のメイドに会釈した。
二人は托生の2年下くらいの少女で、落ち着いた態度を保っていた。
「城の奥にて国王らがお待ちです」
「同行お願いします」
国王に待たれるなんてすごい待遇だなと、托生の胸の奥は緊張でキリキリしていた。
※
「カルルージュ街からの防衛戦士、ご到着です」
二人は、王城のホールのような場所に呼び出された。
周りにはナイトのような兵が、乱れることなく整列していた。
「すごいな…──ん?」
レッドカーペットを歩きながら唖然とする托生は、奥の方の一際大きな純金製のイスが3つあることに気付いた。
ソータと同じくらいの歳の、ドレスを纏う少女。腰にサーベルを携える、14歳ほどの獅子色の髪の少年。そして温厚そうな表情を浮かべ、派手な服をまとい冠を被る老人であった。
ソータが止まったタイミングで、托生もそこで立ち止まった。
「托生さん。国王の前です」
「王様?…あっ、やべっ」
ソータが静かに膝をつくので、托生もそれを見よう見まねでトレースした。
「遠路はるばる御苦労であった。私は、グレイス=ガルシェット。ガルシェット王国の国王である」
国王は、その温厚そうな表情に似合った素振りだった。
「すまんのう、私は人に頭を下げられるのは嫌いなのじゃ。どうか頭を上げてくれ」
托生とソータは意外に思いながらも、その頭を上げ、立ち上がって国王を見た。
「さて、ここに来てもらった理由は他でもない。この王国の姫でもある我が娘を狙う輩がおるのだ。托生とソータには、チェヴィルを守ってほしい」
托生チェヴィルという姫の方を見る。
何回見ても12歳にしか見えず、彼女の顔は不機嫌そうにも見えた。
「おじいさま。あの青年は本当に防衛戦士なの?さっきから私ばかり見てきて、変態みたいで虫酸が走っちゃうわ」
チェヴィルの一言は、開口一番辛辣な物言いだった。
「これチェヴィル。これからお前を守ってくださるんだ。謝りなさい」
「ふんっ、弱そう」
謝る気はないらしくそっぽを向くチェヴィルの代わりに、グレイスが謝る。
「すまないな托生」
「いえいえ…」
「だが安心してくれ。チェヴィルはこのように素直ではないが、きっとお主を頼っておるはずだ」
当の本人はえらく青筋を立てていたのだが。
グレイスは気にせず続けた。
「当然のことだが、お主ら二人だけに任せるつもりはないぞ。ここに集まっている騎士達は、全員がlv30以上の精鋭ばかりだ。そちらのメイド二人も互いにlv45。そしてそちらの王子は──」
王子は席を立って、托生とソータの前に出た。
彼は胸に手を携え、落ち着いた物腰で話した。
「お初にお目にかかります。ガルシェット王国の王子セインと申します」
「「ど、どうも…」」
セインに頭を下げる二人に、なぜかチェヴィルは鼻を高くしていた。
「ふふんっ、あなたたち、レベルは?」
「42だ」「39です」
「へぇ、まあやるじゃない。けど、セインはもう56よ。この場にいる全員の足元にも及ばないわ」
「よさないか。チェヴィル」
「はいはい」
自慢気に語る彼女をグレイスはたしなめるが、チェヴィルはその笑みを崩さなかった。
「そうよね!セイン」
「誇張はありますけど、大体は合ってますかね」
セインはそう語ると、托生とソータは驚いたように目を見合わせた。
「お主らがいれば、防衛はうまくいきそうだ。期待しておるぞ」
グレイスが手をパンパンと叩くと、騎士一同と共に全員が解散した。
※
「すげえ…」
二人専用の個室へとやって来ると、托生とソータはその内装に目を向いた。
「すごく広いです!」
大きなフカフカのベッドに高い天井、そしてフレグランスのいい香りがする。窓を開けると、王国の様子が一望できた。
「ご満足いだだき光栄です」
「ご自由にお使いください」
案内してくれたカトラらは、喜ぶ托生に淡々と応答した。
「こちらからディナーをお持ちします」
「すげえVIP待遇…」
ラトカが部屋を出ていこうとする。
すると、カトラが彼女を止めた。
「それには及びません。私がお持ちします」
「…そう」
少しうつむいた様子で、ラトカは頷いた。
そのやりとりに疑念を持ちつつも、3人は彼女の背中を見送った。
その後、ラトカによって夕飯が持ってこられた。
その美しい料理に、二人は目を奪われた。
「以上でございます」
「お風呂やシャワーはお部屋にありますのでご自由にどうぞ」
「明日は朝からお二人の実力試験に向かいます」
「lvの高いモンスターと戦うことになりますので、しっかり食べて、心の準備をお願いします」
「おう」「はい!」
二人が部屋から戻っていくのを見送ると、ラトカが振り返った。
「あっ、シーツが汚れますので、夜は盛らないでくださいね」
「するかよ!」




