第75話『平和な日々へ』
グレムリンとの壮絶な戦いから日が経ち、托生たちの日常は再び平穏な日々へと戻っていった。
ドルフィンは、梯子に登ってギルドの修理を行う托生を呼んでいた。
「托生ちゃん、次こっちお願ーい」
「すまねえ、今手が放せそうにない!」
バイス·グレムリンとモンスターらが暴れたことで、カルルージュ街はもうすっかり崩壊してしまっていた。
しかし犠牲者は一人としていなかったため、今やこの街の全員が街の修復を手伝っている。
「いや托生。そこは俺がやるさ」
「助かるよゲバブルド」
ゲバブルドが托生の代わりに前に出る。
彼はグレムリンどもの攻撃によって重症を負っていたが、奇跡的に復活したらしい。
そして勝手にグレムリン討伐に出向いた托生を叱ったが、その後もこうやって変わらず仲間として迎え入れてくれた。
「順調そうね」
フェイルは度々完成されていくギルドを見てそう言った。
「ああ、あと1週間後には完成しそうだな」
托生の言葉に、ドルフィンは安心したような表情だったが、どこか表情は複雑そうである。
カルルージュギルドは、ドルフィンの提案で一から作り直すことになった。
こんなボロっちいギルド建て直して正解よ…──彼女はそうは言いつつも、提案したドルフィン自身が一番辛そうだった。何せこのギルドは、彼女の…そしてみんなの思い出を紡いで来た場所なのだ。
彼女の心中は、容易に察せられた。
そしてうつむくドルフィンの肩をを、後ろから現れるリェルとエルフォレストが押した。
「大丈夫ですよ。また新しく、思い出は始まりますから…」
「…ええ、そうね」
リェルの言葉に、ドルフィンは瞳を潤わせた。
「エデルガルト。順調ですか?」
エルフォレストの言葉に、ギルドの裏からエデルガルトが出てくる。
「ああ、あらかた片付いている」
この街では、全員が街の修復にいそしんでいた。
エイヂルなどの子供たちは馬車で資材を運び、男は修復に、女はそれのサポートをしている。
「この街の修復は、簡単に終わりそうだな」
托生は活気を取り戻す街を見渡しそう言った。
「あれ?ミィとケィとレィはどこだ?」
托生の疑問に、ドルフィンは答える。
「旅に出たわよ」
「旅?」
「そう。貧しい村とか、モンスターに襲われる村とかを助けるためだって…」
「そっか…」
あいつもよくやってるんだなぁ──としみじみする托生。
──そう二人が言葉を交わしている際、ミィがくしゃみをしていたことを托生は知らない。
「くしっ」
ミィは少しかわいらしいくしゃみをすると、ケィとレィはそれに便乗した。
「誰かが噂してんのかなぁ…」
「…誰がですか?」
「そりゃあ誰って言ったら、アイツだろ」
ミィはあの托生を思い出し、少し微笑んだようにも見えた。
「…そんなところですか」
ミィは、少しはにかんで前へと進む。
「ったく、素直じゃねえなぁ」
「まあそういうヤツだもんな」
二人はそれを追っていった。
──托生らは今日のノルマを終わらせた。
「お疲れ様」
「ふぅ…」
托生は形の整ってきたギルドを眺めて一息ついた。
その様子を見ながらリェルは、どこか悩んでいるようにも感じられた。
「うーん…」
「どうしたの?」
ドルフィンはリェルに問う。
「何か、忘れている気がして…」
「え?」
するとリェルは、自分のポケットにはっとする。
そしてその中のものを手にとって、托生に声をかけた。
「あっ、托生さん!実はこれ…」
リェルの表情は、とてもワクワクしているようだった。
「どうした?」
リェルはそれを托生に差し出す。すると托生は、驚いて声を発した。
「それって!」
「はい!」
リェルの手にあったのは、髪飾りであった。
それは真っ二つに壊れてしまっていた筈だったが、もうすっかり元通りになっていた。
「もしかして、リェルはそのために棚を漁ったの?」
「はい!」
リェルは全員が街を逃げ惑うなか、棚からこの髪飾りをとっていたのだ。
「ありがとう!」
托生はそれを受け取ると、走り出した。
「どこに行くのー?」
後ろから声をかけるドルフィンに、托生は振り返った。
「決まってる!こいつを渡しにいくんだよ」
托生の表情は、ワクワクしていた。




