第06話『ギルドの喧騒』
先程の親切な女性店員が、3人の泥酔した男に絡まれていた。
「なあなあ、これから俺達とでぇ、気持ちいい事やんねえか?いくらでも金は払うからさぁ」
「…あのっ、困ります!」
抵抗も虚しい。力の強い男三人相手なのだから無理はない。
周りのみんなは、3人が酔っているとあって、止めるタイミングを掴めない様子だ。
どうせ3人は、責任もとらず酔っていたことを理由にして言い逃れするのだろう。
ソータの方も、あいつらには呆れているらしい。
酒が回りすぎたのか、三人の内の一人が力を強め、言葉も更に厳しくなってきた。
「おいコラ!大人しくしろ!」
「ひぃいっ!」
女性店員の目に涙が浮かぶ。
だがこれに対して黙っておけない者が、立ち上がる。
「あのっ!」
ソータが、三人に声をあげて立ち上がる。
「いい加減にしませんか!酔っているとしてもやりすぎですよ!」
ソータの発言はごもっともだが、酔っている3人にはやはり響いていない。
「…なあ!あれも結構いい感じじゃね!?」
「まぁ、ああいうのも悪かねえなぁ!?」
ソータの眼差しは、彼女の純粋な正義を形容していた。
「けっ、いい目で睨みやがるぜ!おい!」
ソータの前に、男のうちの2人が立ち塞がる。
下卑た表情を浮かべる彼らは、いかにもクズたらしかったが、ソータは恐れる様子もなく、彼らを睨んでいた。
「まったく…」
どうして自分はこうも柄にないことばっかりしてしまうのかと呆れながらも、托生は立ち上がってソータと男どもの間に入った。
「…やめてくれ」
その言葉は、男達のみならず、こういったクズに絡んだソータにもかけられていた。
托生は、ただ一点3人を睨んだ。
「この…糞ガキッ!」
「ウっ…!!」
腹に拳がめり込み、一瞬呼吸が止まった気がした。
突然の暴力に、ギルド全体が焦燥に支配された。
素質値のおかげか痛くないが、托生は殴り返さなかった。
「この野郎!なんで殴り返さねえ!」
何度も何度もパンチを受け続け、托生の感覚は麻痺してきた。
「托生さん…」
後ろのソータは、殴られ続ける托生を眺め続けているだけだった。
──だがそれを止める者が、やっと出てきたらしい。
「ちょっとあんた達!何をしているのよ!」
視線の先には、女のようなしゃべり方の、巨大な青髭の男が立っていた。
「今すぐ店員を解放して暴力をやめなさい!」
「げっ!あいつだけはやべえ!ずらかれ!」
男に気づいてから、三人は焦って女性店員をおいて逃げ出した。
女性店員は解放されて、安堵の胸を撫で下ろし、そこに膝をついた。
「托生さん…どうしてこんなことを…?」
「…」
托生自身何もわかっていない。何の得もないとはわかっていたというのに、いつの間にか体が前に出てきていたのだ。
「…強いて言うなら…同族嫌悪でもあったのかもな」
托生は、暗い目で笑った。
彼はさっきからクズクズと人の事を呼んでいるが、自分自身もクズであるということは、忘れてなどいなかった。