第68話『絶望的な逆風』
「…」
ソータの前の托生は、目を銀色に輝かせていた。
「あの姿は…!」
ソータはその姿を見たことがあった。
当時明確な実力差のあったエデルガルトを、簡単に敗北まで追い込んだ状態変化。
ソータには、托生がボスを倒してくれるという自信があった。
「!!」
托生は、ボスに全速力で突進する。
ボスの後ろに瞬時に回り込み、Cスマッシュを首筋に叩き込む。
衝撃波は、爆風のように吹き抜けた。
だが、ボスはそれを耐えきっていた。
「…効かんッ!!」
ボスはその腕をつかみ、巨大な腕を腹に勢いよくめり込ませた。
それも一度ではなく、三回にも及んだ。
「ぐおっ!」
甚大なダメージとなり、托生の行動に怯みが出る。
だがここでダウンしてはいられないと、托生は体制を立て直し、ボスの背中に叩き込む。
「…おうっ!!」
4回の衝撃でも、その強靭な肉体には、大したダメージにはならなかった。
だがボスの行動パターンは把握している。恐らく次にカウンターを仕掛けてくるはずだ。
「食らえ!」
托生の作戦どおりだ。
ハイ·スピードV3でスピードを上げ、ボスの攻撃を避ける。
ヒート·アームで腕に炎を宿し、Cスマッシュを鳩尾に叩き込めばいける!
「…んんっ!!」
爆炎を纏ったスマッシュが炸裂し、5回の熱い衝撃がつきぬけた。
「ぐあああっ!!」
ダメージが入った様子に、ソータの表情が期待に揺らいだ。
これを受けてボスは、相当なダメージを受けた…筈だったのだが。
「…なんてな!」
「「…!?」」
汗を浮かべつつも傲慢な笑みを浮かべるボスに、托生達の心が再び絶望に染まる。
「でぇりゃああっ!!」
托生の腹部に、とてつもないパワーを孕んだパンチがめりこんだ。
その威力に吹き飛ばされる托生は、その時受けたダメージで集中力が途切れ、瞳の銀色もオーラも消えてしまった。
「くっ…!」
突如襲いかかる脱力感に、托生の体は無様に倒れた。
「まったく…とんだ拍子抜けだったぜ…」
ボスは腕に計り知れない力を溜め、その腕はさらに膨れ上がる。
その腕には、托生を簡単に叩き潰す力を持っているだろう。
「とうとう終わりかよ…」
托生はボスのつまらなそうな目を見ながら、自分の力がどれだけ小さなものだったのか痛感した。
『あなたの力は、そんな御大層なものなんですか…!もっと現実を見てください!』
確かミィが、そんなことを言っていた。
俺はこれっぽっちの力しかないのか…──托生は風前の塵にでもなったような気分だった。
「…」
ただその腕が降り下ろされるのを待つだけだった。
「…待ってください!」
その時、ソータが動いた。
そこにはなんと、ソータが托生を守るように立っていたのである。ソータが何をしようとしているかすぐにわかった。




