第65話『ボスグレムリンとの戦い』
「ほっ…ほぉ…なかなかやるじゃねえか…ひひっ」
表情を歪ませながらも、ボス·グレムリンは平気ぶっていた。
「お前のスピードも…大したことないな…」
「ちっ…なめやがって!俺とは違って、あいつの取り柄はスピードだけだ。一緒にすんじゃねえ」
「…そいつは悪かったな…」
そこには、そのにらみ合いに干渉できる者はいなかった。
戦いがはじまる…──その確信的な予感は、皆の呼吸を忘れさせていた。
ソータも、緊張感に言葉も出なかった。
だが、托生は余裕が見えた。
「ソータ…」
「…はっ、はい!」
「待ってろよ…」
托生はソータにそっと微笑むと、ソータは安心したように目を潤ませながら微笑み返した。
「…はい…っ!」
「ああクソッ!!イチイチ燗に障りやがるゥ!!」
托生とソータに腹を立てたのか、ボスは限界まで力を発揮する。
ヤツから感じられる圧力は、さらに勢いを増した。
「覚悟しとけよ!俺に刃向かった時点で、てめえらを殺すのには訳はねえぞ…!!」
ソータの絶望が強くなる。
托生も体の震えが強くなっていた。
「くっ…」
その震えは、武者震いではなかった。
「っしゃああーっ!!」
ボスはこちらに猛突進する。
「ハイ·ガード!おあっ…!」
ヤツの衝撃波をまとった拳が、そのまま托生の腹にめり込んだ。
ハイガードを発動しても、その威力はとてつもなかった。
「ごぁっ…!?」
托生の表情が苦痛に歪む。
「托生さん…っ!」
ソータにももちろん情けをかけず、ボスはさらに攻撃を繰り返す。
「でぇっりゃああーっ!」
「…うぉぁああーっ!?」
容赦のない跳び蹴りに、托生は容易く吹き飛ばされるも。
体を回し壁に足をつけ、何とか体勢を建て直した。
「馬鹿力め…ペッ…今度はこっちの番だ…!」
血を吐き出してから、托生は再びボスと向かい合う。
「ハイスピード!」
アップしたスピードで、托生はグレムリンに突進する。
「…C──」
ボスは驚いていた。
「(何だ…あの隙だらけな攻撃は…!)」
それはただの特攻に等しかった。あれなら簡単にカウンターに持ち込める筈だ。
だが、ボスの予想は大きく外れた。
「何…!」
托生はボスの後ろに、スピードを更にあげて回り込む。
「…スマァアッシュッ!!」
スマッシュはボスの背に直撃した。
「があっ…!うおっ…どぁあっ…!」
いくらボスでもそこから姿勢を立て直すことはできず、顔から洞窟の壁に激突した。
托生に向きなおしたボスの目は、詰め寄られる力の差に焦っているようにも感じられた。
「…っ!?」
ボスは、自分の鼻から鼻血が垂れていることに気付いた。
ソータとケィとレィは、まさしく信じられないといった様子だった。
「あっ…あいつ!あんなにやれたのか!」
「あれなら、勝てるんじゃねえか!」
戦況を見るケィとレィの中には、ひょっとしたら勝てるかも──という考えがあった。
「…頑張って…!托生さん…!」
ソータは、戦況に祈りを捧げることしかできなかったが、どこか心を締め付ける不安感が気がかりであった。
するとソータは、ボスに起きた変化に気付くことになる。
「…ぐっ、クソッ…おのれぇええーッ!!」
怒りに目を血走らせたボスは、さらに勢いを増して攻撃を仕掛けた。
「…ぐ!!うああっ!!」
気付けば、托生の腹にはボスの拳が直撃していた。
だが、それだけではない。
──ビリッ!ビリビリビリッ!!
「…っっ!?ぉおわッッ!」
するとその攻撃をくらったところから、まるで電流のように痺れわたり、そのまま壁へと吹き飛ばされ直撃した。
「オレの奥義のひとつ…腕の特別な震動を伝えた!こいつは高い集中力がなければ成し得ない技でそう多くは使えんが、一発くらっただけでもそのざまだとはな!!」
「くそ…!体がぁ!」
その状況の一転を見て、3人の表情が絶望に染まる。
「そんな…!勝てると思ったのに!」
「托生さんっ!」
ボスは、まるで3人に見せびらかすかのように、托生の頭を足で踏みつけた。
「ぐっ…!」
「てめえを殺したところで俺はどうでもいいが、オレがてめえに受けたダメージを10倍に返せんなら、じわじわと殺してやるよ!」
「がっ…!ぅうっ…!」
涙を流しだしたソータ。
万事休すか、だがその時、その状況を大きく変える人物が現れる。
「…ッ!?」
ボスはその時、鋭い殺気を察知し右の方に目をやった。
まさにそこには、刃にも似た衝撃波が、恐ろしいスピードで迫ってきていたのである。
「くっ…!」
ボスはその衝撃波をくらい、そこからは血が垂れる。
それはヤツの強靭な肉体に、大きな裂傷を残していた。
「何者だ…!」
驚きからか、托生の頭から足を放し、大きく後ろに退いたボス。
托生もそこに目をやると、そこにいたのは──
「ミィ…!」
「…」
ミィは托生のそばにやって来ると、托生に手を差し伸べた。
「立って…」
「いや…、今は体が痺れて…」
それを聞いたミィは、托生の腹に手をおく。
すると、手に力をいれ、ぐっと押し込んだ。
「いっでええーっ!!」
「うるさいです」
「違うだろ!何のつもりで──」
「立って…」
「え?」
托生の体には、不思議にも力が戻っていた。
「あ…ありがとう…」
「礼なんていりません。敵に集中しましょう…」
托生は、ミィと臨戦体勢に入る。
『ミィ(lv40):素質値1435』
さらにレベルが上がっている。他の残党を倒したのだろう。
「ちっ、奇襲とは卑怯な…」
「あなたにだけは言われたくありません」
ミィは、托生に作戦を耳打ちした。
「私がヤツの注意を引き付けます。待っていてください」
「待つったって…──」
「タイミングを見計らって、確実に仕留めてください…あなたが反逆の引き金です」
「…!…そういうことか」
「ご理解いただき感謝します」
ボスに振り返ったミィは、刀の切っ先をボスに向けた。
「…私が相手です」




