第63話『バイスグレムリン』
「ちっ…はぐれたか」
托生は道に迷ってしまった。
この洞窟は、複雑に道が入り込む迷路のようなものだ。暗さで視界も悪い。
ケィとレィは無事奥に行けたらしいが、托生は途中の別れ道に入ってしまったらしい。
「ほう…逃げ出すことなくやって来るとは…」
「…!」
托生は後ろに気配を感じ、振り向く。
「そこではない」
突然気配の位置が変わった。
「くっ…!」
バイス·グレムリンの右腕が、托生に手刀を振りかざそうとしていたのである。
だが托生は、それを紙一重で回避する。
「ほう…今の一撃に反応し避けるとは、かなり腕を上げたとみえるな…」
やはり、こいつのスピードは恐ろしい。
反応は出来るようになったが、問題はさらに遠いところにある。
「なんでソータを狙う!」
托生は話が通じる相手だと信じて質問した。
「狙っているのは私ではない。ボスの方だけだ」
「…!?」
「子孫を残すために、モンスターのメスを襲っては孕ませてきたが、どうやら人の娘の方がよいらしくてな」
「殺されたりは…」
「あいつはかなりのサディストだ…殺すだろうな」
「…止める方法は」
「無理だ…生憎こちらも子孫を残すのに必死でな…力ずくで止めてみるのだな…」
「ああそうかよ!なら…──」
こっちにはこっちなりの目的がある。
敵を倒すことをためらう暇はない。
消えた!
ヤツの目で追えないスピードに、托生は冷静に気配を探る。
「ここか…!」
托生は気配を感じたところにスマッシュを放つも、空振りに終わる。
「っ…!」
「…こっちだ」
「…!」
また位置を変えた気配に、托生は回避の体制をとろうとしたが、気付けばバイスのパンチは腹部にめり込んでいた。
「があ…っ!──くっ…スマッシュ!」
「遅い…!」
油断を誘いスマッシュを叩き込む予定だったが、その圧倒的なスピードで避けられ、カウンターを食らってしまう。
「うぐっ…!」
「お前では、俺のスピードにはついてこれないらしいな…」
「ちっ…今に見てろ!」
とは言ったものの、この状況を打開する策はない。
ハイ·スピードを使ったとしても、このスピードを越えることはできない。
ましてや攻撃は当たるとも思えない。
そこで托生は狡猾な手に出る。
「ハイ·スピードV3!」
3倍にアップしたスピードで、ヤツと距離を離す。
「逃げるつもりか…だがそうはいかんぞ…!」
バイスは再び消えて彼のところに向かう。
「今だ…!」
そのタイミングで、托生は逆走した。
バイスを誘い出すことに成功した。
「なっ…!」
攻撃を空ぶらせたバイスの表情が歪む。
今だ…!
再び体勢を立て直し、接近すると、托生は本格的に攻撃を仕掛けた。
「キラー·ミドル!!」
だが避けられる。
「ふん…!ぬるい…!」
「油断したな…!」
托生はヤツの行動パターンは全て把握している。
「そこだ…!ハイ·ガード…V3!!」
托生はヤツの拳を真に受ける。
だが、3倍にアップしたガードではさほど痛みは感じない。
托生はがしっとその腕を掴んだ。
「掴んだぜ…っ!」
「なっ…!」
抵抗も効かない。托生はヤツの腕をがっしり掴んでいるのだ。
一点鳩尾を狙う。
「お前は別に悪いやつじゃあなかったが、次はいい人間に生まれ変わるんだな…!!」
「くっ…!」
「Cスマッシュ!!」
「うおおっ…!?」
三回連続の衝撃波によって、ヤツは洞窟の壁を突き破り、森の奥へと吹き飛んでいった。
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