第60話『托生とミィ』
目の前には、巨大なサル、巨大なイノシシが立ち塞がっていた。
『バーバリアン·モンキー(lv27)』
『バーバリアン·ボアー(lv28)』
「おそらくこのモンスターは、グレムリンが送り込んだんでしょう」
ミィはモンスターを見ながら推理する。
「送り込む…?」
「グレムリンは森の化身。森のモンスターは、自由に操ることができる…」
「確かに…戦っていたモンスターが急激に強くなったことがあった…」
サルは襲いかかってきた。
今までとは違う猟奇的な攻撃である。
「キィイイッ!!」
──バスッ
鋭い音が瞬時に響く。
そして、サルの腕が、突如切断される。
ミィのスキル、スラッシュウェーブのおかげだ。振った剣の威力はそのままに、その攻撃を波動として遠距離から飛ばすことができる。
「ブゥイイッッ!!!」
数多の木々を薙ぎ倒し、こちらに突進するイノシシ。
だがケィとレィは、怯むことなく防御魔法を展開した。
「「ハードシールド!!」」
顕現した盾のオーラに衝突し、グゥンッ──と鈍い音が響く。
倒れたアイツは、完全に隙だらけとなった。
「ァアッッ!!」
外れた腕に驚いた様子のバーバリアン·モンキーに指を指し、トドメを指すようにいうミィ。
「今のあなたでも、あれなら倒せるでしょう」
「ああ!」
托生が腕に力を込めて、スマッシュを発動する。
「スマッシュ!!」
深くにめり込んだ。
「さらにもう2つ…!!おぅらッ!!!」
悶絶するバーバリアン·モンキーは、ついに霧散した。
「次…!」
「おぅしっ!ヒート·アーム!!」
托生は腕に火を纏わせ、スマッシュを叩き込んだ。
直に食らったバーバリアン·ボアーは、そのまま霧散した。
「ふぅー…」
『タクセイ(lv28):素質値963』
下っぱのグレムリンにはやられない程度にはレベルが上がったか…。
「少しはマシになったようですね」
「マシってお前…」
不満を述べようとミィにすり寄る。
「まあまあ。アイツなりに誉めてんだよ」
「なんだかいっつも素直になれないんだよなぁ、ミィって…」
ケィとレィの言葉に、托生は便乗する。
「ホントだよ。アイツ昨晩部屋に来て、好きなだけ俺のことバカにして帰っていったんだ」
「マジか。ひでえぞミィー!」
「そうだそうだー!」
だが、托生はミィの方を見て驚いた。ミィは口論する俺達に、どこかやわらかそうな表情を向けていたのである。
「…少しは心が軽くなったようですね」
「お、おう…」
托生にミィはひとつアドバイスをする。
「…スキルポイントはたくさんたまっているはずです…。強力なスキルを覚えて挑みましょう」
ミィのそのセリフを聞いて、托生はにやりとした。
「…ああ!実はもう、とっておきのがあるんだよ」
「…少なからず期待しています」
今回こそは、ミィの表情を歪ませられるかもしれない。そんなスキルが托生にはあった。
『ミィ(lv36):素質値1286』
『ケィ(lv33):素質値1124』
『レィ(lv33):素質値1124』
※
「…ぐへへっ!いい小娘だ…さあどこから手をつけようかなぁ…」
手をわきわきさせるグレムリンは、ソータの体を舐めるように見回していた。
「くっ!何をっ──」
「何をって…決まってんだろう?」
グレムリンは、ソータの衣服に手をかける。
「いやっ…!離してぇっ!」
ソータは必死の抵抗をするも、グレムリンのただならぬ圧力に圧され、結局は中断された。
「ひっ…!?ぐぉっ…」
グレムリンはソータの首をがしっと掴み、恐ろしい狂気を孕んだ目で睨み付けた。
「…くれぐれもナマイキな行動はとるなよ?…てめえみてえな小娘なんざ簡単に殺せるが、長い時間をかけてジワジワと殺すこともできるからなぁ…?」
ソータの気道が絞まっていく。
「あっ…ああぁ…っぁあ…」
泡が吹き出してきて、再び手を放される。
「…はあ…っ…はあっ!」
呼吸を取り戻すやいなや、ソータは迫真に息を吸う。
再び衣服に手をかけられるも、ソータは本能的に抵抗はできなかった。
それでも彼女は、助けを求めていた。
彼なら今の状況をどうにかしてくれると、願っていたのである。
その時、ボス·グレムリンは、違和感にふと表情を変えた。
「…ん?」
──ズドン
大地が、震えた。




