第05話『街への到着』
「見えてきましたよ!」
「…あれか」
二人はやっと崖から見た外壁の目の前に来た。
「圧倒されるな…」
「…ですね」
外壁には門があり、それをくぐってみると、活気のある街並みが視界いっぱいに広がってきた。
何よりも驚きなのは、その街の人口だ。
「すごく賑わってますね」
「…」
「…?どうかしました?」
「…人が多いのは…苦手だ」
「んー…」
ヘタレだす托生に、ソータは苦笑する。
「じゃあそろそろ、ギルドに向かいましょう」
「(…酒場みたいなところか)」
※
黒い鉄製のギルドは、托生のイメージそのものの外見だった。
中からは若い冒険者の声が沢山聞こえてくる。
「じゃあ入りましょうか」
「…」
ソータはドアをゆっくりと開ける。
すると中では冒険者達が、酒やゲームで大いに盛り上がっていた。
「平和なギルドみたいですね」
「…よかった」
托生は安堵した。
「このギルドの部屋を借りて夜を明かしますので、手続きをしに行きましょう。托生さん、お金ってもってます?」
「一文無しなんだけど」
「はい!?」
托生の答えに驚くソータ。
ソータは周囲を気遣い小声でそう言って、彼に驚きの目を向けた。
「ほ…ほんとですか?」
「…ごめん」
「ウソ…ではないらしいですね…──お金は私が出してあげますけど…」
ソータは次元の穴を開け、銅のタブレットを四枚取り出す。
「あのさ、お金って何なの?」
「ええ!?」
ソータの間抜けな声が、ギルドに響いた。
冒険者達の視線も当然集まってくる。
「托生さん!…まさかお金というものをご存じない!?」
「え?いや──」
「はっ!まさかあのときに頭を…!」
「…俺の国では通貨が違っただけだ」
ソータはほっと胸を撫で下ろすと、この世界においてのお金の説明をしてくれた。
「──ご理解いただけましたか?」
「わかった」
「はあっ、よかったです!」
※
ソータは托生と、カウンターで、髭を生やしたスタッフと手続きをしていた。
「2人1組の部屋を購入したいんです」
「承りました。では650ポイントと、ステータスカードのご提示を」
「はい」
ソータが見せたステータスカードというものは、おそらく名刺やライセンスのようなものだろう。
「あの、ステータスカードを…」
「…ん?」
店員はそう言うが、托生はそんなものを持ち合わせていない。当然といえば当然である。
店員からすると、目の下にクマを持つ青年が、カードをろくに出さない状況だ。迷惑な客かと呆れる様子はないが、困惑気味であった。
そこでソータは、托生の様子を伺って質問する。
「…あの、まさかこれまで知らないなんて言いませんよね」
「…」
「…もう驚きませんよ──この人のカードの発行もお願いします。この人カードを失くしたらしいので…部屋の購入はその後で」
「承りました」
店員は納得したように微笑み、魔方陣らしきものが印された一枚のプリントを、托生の前に差し出した。
「こちらに手をかざしてください」
「は、はい」
托生が言う通りに手をかざすと、魔方陣が優しく発光しだした。
「もう大丈夫ですよ」
托生が手を離しても光は消えない。
店員はプリントの上に無地のカードをのせると、そのカードには勝手に文字や数字が刻まれ始めた。
どういう仕組みなのだろうか。
手続きの終了を確認した店員は、托生にステータスカードを渡してくれた。
「見せていただけますか?」
托生はソータにステータスカードを渡すと、ソータはそれを見る。
「レベルが4まで上がっていますね。虎のモンスターからのものでしょうか…」
正義の神から貰い受けた力も、このカードのステータスには適応されているらしい。
「で、どうなの?」
「…Lv4にして、今の私と同等ですね」
「ソータって…結構強い感じなのか?」
「今私はLv5ですが、同レベルの人には負ける気はしません。ボソッ…今Lv4の托生さんに追い付かれそうなので私のプライドに傷が付きましたが」
「んッ!?」
『──ソータ(Lv5):素質値156』
※
托生とソータは、ギルドの食事スペースに移動し、空いている2人席に座っていた。
ソータが料理のメニューをめくっている間、托生はステータスカードを見ていた。
『──タクセイ(Lv4):素質値141』
「微妙だな…」
托生は溜め息を交えてそうこぼす。
目標は、ソータの30倍くらいは上のステータスを得て、ソータの安全と自己満足欲の両方を確保することだったのだが。やはり、チート能力は無理があったか。
「そのステータスを見てそんな言葉が出せる人はそうそういませんよ?」
ソータはそう言って、笑顔で托生に静かな圧力をかける。
「わ、わかった…ごめん」
「わかればいいです。さあ、メニューから料理を選んでください」
威圧的な笑顔が、優しい笑顔に戻ってくれた。
托生は適当にクリームパスタを注文しておいた。
托生にとっても、ソータはすごく人間ができた少女だった。
ソータからのオーダーを受けた親切な女性店員が厨房に向かう。
それを見送ってから、ソータは托生の視線に気付いたようだ。
「どうかしました?」
「いや、人間ができてるから、これからも養ってくれねえかなぁ…なんてな」
はっきり言って気持ち悪いジョークをこぼす托生だったが、ソータの返答は予想の斜め上をいった。
「いいですよ?托生さんには借りた恩も多いですし!」
「…俺は別に…恩を貸した覚えは…──」
「──ちょっと、やめてください!」
托生がそう言いかけたとき、隣の席で揉め事が始まった。