第58話『悲劇のはじまり』
4人は、カルルージュギルドに戻る道を進んでいた。
「どうだ。元気になったか」
ゲバブルドの言葉通り、托生は少しだけ元気になった。
「ああ…もう元気だ」
「そっか」
だが、ソータはやけにそわそわしている。
「どうしたソータ」
「いえ。風向き通りに歩いてるのに、なかなか森から出られないんですよ」
ソータの言葉に、一同は困惑する。
すると、後ろから声をかける者がいた。
「お困りですか?」
「「「わあっ…!」」」
後ろから突然声をかけられ、全員が驚いた。
声は男らしく、フードのせいで顔が見えなかった。
「…はい、あの…実は森から出られなくなってしまって…」
「案内しましょう。ここは風向きが不安定なのでね」
4人は不審そうにも、親切そうな彼についていくことにした。
──10分後
4人が連れてこられたのは、森の奥の暗い洞窟であった。
「おい、どういうことだよ」
ゲバブルドが男に不服をつけると、彼はあくまでもシラを切った。
「ん?私は案内をしただけではないか…」
「案内…?」
「そう。案内だ…」
何が言いたいんだ?──と全員が思っていると、すぐさま周りの違和感に気付いた。
「なっ…!?」
見渡せば、鼻の長い黒色の人間15体ほどに、囲い込まれていた。
服は着ておらず、角を生やした大きな頭、身体中の筋肉、巨大な目、長い舌が特徴的だ。
「これは一体…!」
こいつらは、絶対に人間ではない。
外見だけではない。こいつらは、異様な威圧感を放っている。
そいつらの間から、特にガタイのいい者が現れる。おそらくボスだろう。
「ヘッヘッ…やっと相ま見えたぜ…!」
そいつの邪悪な視線は、ソータに向かっていた。
「やれ…!」
突如。フードを被った男が消える。
するとソータも、隣からフッと消えていた。
「なに…ソータはどこへ…!」
托生が消えたソータを探していると、ボスが「こっちだ」と注意をひく。
そこを見ると、先ほどのフードの男はフードを外し、完全に周りの者らと変わらない見た目をさらけ出していたが、彼の腕の中には抵抗するソータが捕縛されていた。
「あう…!くっ…!」
ソータがいくら暴れても、その腕は剥がれそうにもなかった。
「ソータっ!」
「「!?」」
ゲバブルドもフェイルも、前の状況に開いた口が塞(ふさがらない様子であった。
「今助けるッ!スマッシュ!」
托生がそのスマッシュを叩き込もうとしたとき、そのスマッシュは空振りとなった。
確実に命中した筈だった。
だが、そこにそいつはいなかったのである。
驚愕する托生の後ろから、突如威圧感を感じた。
「遅いぞ…」
「ハッ…!?」
さっきの一瞬で、後ろに回り込んだだろうか。
だが、こっちもスピードを上げる術はある。
「ハイ·スピード!でぇえりゃあああっ!」
「スピードを上げるスキルか…」
スピードを上げて、托生はそいつに肉薄する。
「ぬるいわ…!」
気付けば、また後ろに回り込まれていた。
「なぜ…!なぜ避けられる…ッ!!」
次元が違いすぎるスピードを前にして動揺する托生に、男は余裕そうにアドバイスをした。
「私よりも、小娘の心配が大事ではないか…?」
「なっ…くっ!」
嫌な予感がして、ボスのほうに視線を向ける。
そこには、涙を流すソータがボスに捕縛される姿があった。
「…ソータ!!」
「托生さぁん…!ひいぃ…」
ソータの冒険服に手をかけようとしたボスは、托生の注意に気付いたらしい。
ボスはニヤリとして、托生に手招きをして挑発する。
「ぐっ…!許さねええッ!」
ボスに全力疾走した托生は、遠慮なくソイツにスマッシュV2を放った。
するとそいつは、そのスマッシュを何言わぬ顔でキャッチしていた。
「何かしたかぁ…?」
こちらを一点集中睨み付けるボスに、托生は足がすくんで動かなくなった。
「…ふっ」
余裕そうなソイツの足蹴を、腹に直に食らった。
「があっ…!」
その威力の反動で、托生は後ろの木に背中を直撃させた。
「托生さぁああーんッ!いやああああッ!」
「…」
托生の意識は、そのまま消えていった。
『ボス·グレムリン(lv43)』
『バイス·グレムリン(lv38)』
『グレムリン(lv30)』×15




