第04話『死線からの力』
托生は、突如瞼から差し込んできた日光に驚く。
「うぅ…」
「あっ、托生さん、目が覚めましたか!」
ソータは、横になっている彼の顔の上で、彼の覚醒を喜んでいた。
托生の頭は、柔らかくて、ひんやりとした、すべすべの物に乗せられていた。
「これは…膝枕…か」
これが美少女の膝枕か──と感動する托生。彼はアニメであれを見ていて、嫉妬からか寝にくいだけだろと愚痴をこぼしていたが、今はずっとこうしていたい気分だ。
「いっ…言わないでください!」
ソータは恥ずかしがって、頬を赤く染め目をそらした。
二度と会えなくなると思った顔だ。托生にとってそれは、出会ったときの3倍はかわいく見えていた。
「俺…あのあと…どうなって…」
「…あなたは崖から落ちてから見えなくなって、死んでいるのではと心配しましたが、傷1つなく生きてたんですよ、すごい幸運ですね…──ってそんなことより托生さん、助けてくれて──」
「…別にいい…お前に借りた恩を返しただけだ…お前みたいなやつが死んで…俺みたいな…クズが生きるなんて…」
「…そうですか?あなたは、とても優しいと思いますが」
ソータはやっぱり優しい少女だ。だが、托生は何だか素直になれなかった。
「どうやらここからの方が、目的の街に近いみたいですね」
「…もうちょっと…いさせてくれ」
「ふふ、いいですよ、いくらでも。わたしも托生さんの治癒で、ほとんどの魔力を使いきっちゃいましたから…」
「お前…どこまでお人好しなんだか…」
「ええ、托生さんは恩人ですから」
托生がソータの膝枕の愉悦に浸っていると──、
「ガァアア…ウゥウ…」
托生の血の臭いに誘われたのだろう。先程の虎のモンスターの二匹目が現れた。
「くっ、もう魔力が…」
絶望するソータだったが、托生は立ち上がった。
「…ここで…ソータは死なさない」
「あっ!いけません!」
ソータが托生のズボンを掴んで制止しようとするも、力が入らないのか簡単に振りほどけてしまう。
「今のお前に…戦う力はないだろ」
「あなたじゃ…戦えないっ!」
「黙って俺の力にかけろ」
托生に覆い被さってきた虎を、彼は辛うじて受け止める。
虎のモンスターの力に托生は押されつつあったが、托生は腕に全ての力を込め、虎のモンスターを押し返していく。
そのさまに、ソータは目を見開いていた。
「…くっ──ぉあーッ!」
「ガァアア!?」
虎もソータも驚いたようだったが、一番驚いているのは托生の方だ。
さっきまでやられる一方だった自分が、戦えるようになっていたのだから。
虎を横に一気に押し倒すと、彼は渾身のパンチを次々と腹に叩き込んだ。虎の腹に窪みができるとともに、悲鳴が上がる。
だが、これではくたばってくれない。
彼は、虎の体力が尽きるまでパンチを叩き込み続けるのだった。
「ァ…、ァガァ…」
やっとのことで虎は呼吸を止め、失神した。
地味な決着だったが、托生はもう疲労で死にそうだった。
「驚きました…」
「はぁ…はぁっ」
「それが、死線からの力…」
「…まあ…お前の魔法ほどではないが」
「いえ、研鑽を積めば、きっと私も怖がるくらいの力になりますよ」
「…歩けそうか?」
「…え、ええ。何とか」
「…じゃあ、街に向かうか」
「…は、はいっ」
二人は、再び街へと歩き出すのだった。