第48話『スカビオールの残虐』
「くっ…くそっ…」
エデルガルトとエルフォレストは、倒れながら屈辱の涙を流していた。
托生はそれを、厳しい眼差しで見やる。
「ちっ…何泣いてやがる…」
喋らなかった托生の口から、ついに言葉が発せられる。
その声は、まるで義憤に震えているようだった。
「いつまでも悲しい顔しやがって!!てめえら何も打ち明けずに、2人だけで背負いこみやがって!!」
その時、ソータは信じられないように目を見張った。
「あれは…!!」
ソータは、托生の目が変わっているように見えたのである。
まるでそれは、違う誰かのようでもあり、また同じ人物でもあった。
「それでいいのかよ…!いいのかってんだよ!!」
エデルガルトらに声を上げると、エデルガルトは托生の胸ぐらを掴み返し、また声を上げてみせた。
「良いわけがないだろうが…ッ!!」
エデルガルトは涙を流しながら続けた。
「もうイヤだ!俺は、エルフォレストと幸せに暮らしたいだけなんだ!なのに──」
托生はさらに彼の意見に憤り、エデルガルトの胸ぐらをさらに強く掴んで叫んだ。
「じゃあ言えよバカ野郎ッ!」
その大声は、気絶していたメンバーの全員の目を覚ました。
「…!?」
「何もかも、人を頼れってんだよ!全部言ってみろ!…俺がお前の力になるからよ!」
エルフォレストもエデルガルトの隣にやって来て、二人は語り出そうとした。
だがその瞬間、そこに邪魔が入った。
「何を言っている。若造どもめが…!」
入り口には、顔を真っ赤にした、耄碌した男が立っていた。
エルフォレストはそれに、敵に向けるような目を向けた。
「「スカビオール…!」」
エルフォレストとエデルガルトの二人が顔をしかめる。
托生は、さきほどの正義の神の話を思い出した。
「…何だエルフォレスト。それが父親に対しての態度か…?──…連れてこい」
傲慢な笑みを浮かべるスカビオールは、どこか彼を恐れているらしい部下らを呼んだ。
「うう…」
部下らはボロボロの状態のフェイルを連れてきた。
「フェイル!──てめえっ!」
それに誰よりも早く義憤をおぼえたゲバブルドはすぐさまスカビオールに突進しようとしたが、度重なる激戦により、彼の体力は限界を迎えつつあった。
ゲバブルドだけではない。托生もソータも、エルフォレストもエデルガルトも、他のみんなも限界である。
「よくも、このワシののビジネスを邪魔しおったな…!」
スカビオールは、托生に殴りかかった。
「ごわぁっ…!」
鳩尾にめり込んだ蹴りに托生は呻く。
もしも体力が残っていたら、もっと満足に戦えただろうに。
「お前もだエデルガルト!」
エデルガルトにも同じ仕打ちである。
「んん…っ!」
スカビオールは、あまりにも残虐であった。
「ワシの計画をこうも打ち砕くとは…!ワシの計画が、貴様らにとって絶対の筈ッ…!」
スカビオールはどこまでも傲慢で、周りの事など気にかけてもいない。
托生は怒りに震えて続けた。
「計画って言ったか…!それは何だ…!」
「ふっ…!教えてやろうか…!!」
質問した托生にスカビオールは、笑みにさらに邪悪をたたえて答えた。
「ワシはこのカルルージュを総括し、ありったけの金を全て我が物にするのだ…!そのために、ワシはガキどものビジネスにも手を回した!奴隷どもなどの都合など知ったことか!ワシが全てだ!ワシがルールなのだ!」
「なっ…」
夢物語を真実と疑わず宣言するスカビオールに、周りのギルドメンバーも、ましてやビッグ·ファングのメンバーさえもヤジを飛ばした。
「全ててめえの仕業か!」「俺たちだって幸せに暮らしてるんだぞ!」
「俺たちお前の夢物語に付き合わされてたんだな!」「このクソジジイ!」
スカビオールは、これほどのヤジを一斉に浴びても笑みを崩さなかった。
「…否ッ!ワシの計画は、何も間違っておらンッ!」
その場にいた全員が、スカビオールの放ったその一言に言葉を失った。
「ワシの計画で世界が回るゥウッ!!ワシの働きで、この世界は潤うのだああッ!!はっはっはッ!」
独裁者という言葉が、彼にはあまりにも似合っていた。
周りは何も見えていない。
娘のエルフォレストすらも、道具のように利用する畜生である。
「ひどいです…っ!」
スカビオールに、声を上げる者がもう一人現れた。
「あなたのような悪い人は、そうはいませんよ…!!」
ソータの目は、スカビオールを一点に睨んでいた。彼女のここまで厳しい表情を誰が想像できただろうか。
「悪か…否、ワシが全てだ!貴様のような小娘に何がわかると!?」
ソータは完全に言葉を失った。
「さあエルフォレスト。もう一度やり直そう!いちからな…!」
スカビオールは全裸の自分の娘を抱いて弄んだ。邪悪な心の赴くまま、彼女の体を貪ってゆく。エルフォレストは羞恥のあまり涙すら流した。
「いやあ…っいやああっ…」
自分の娘にするものではない。目の前には恐ろしい光景が広がっていた。
ここにいる全ての人間が、そのスカビオールの行動に吐き気を催した。
「エデルガルト…助けてぇ…」
エルフォレストは、エデルガルトに助けを求められた。
彼女にとって、それは屈辱的だったろう。力を手に入れようとビッグ·ファングに入ったのに、その理由であるエデルガルトに、また助けを求めているのだ。
エデルガルトは、それに当然答える。
「エルフォレストを…放せぇえーッ!──ぐおッ」
スカビオールはボロボロのエデルガルトを、容赦なく退けた。
「嗚呼、微笑みし神よ!!この恵みに感謝を…!」
感涙にむせぶまでに至ったスカビオールを止められる者は、そこには誰一人としていなかった。
だがある一人の乱入で、その場の空気は一転した。
「その神の微笑みは、嘲笑だったみたいですね」
「何っ…うおっ!?」
突如の冷ややかな声の後、スカビオールが驚く声が聞こえた。
驚いて前を向くと、そこには驚きの人物がいた。
「なっ。お前は…ミィ!」
「口をつつしめ。この狸ジジイ」
「た…っ!?…クソ!…偉そうなクチを!」
ミィという実力者を前に、スカビオールはエルフォレストをついに人質にとった。彼女のこめかみに、指に蓄えた高密度のエネルギーを向ける。
「動くな!動いたら…こいつを撃ち抜くぞッ!!」
ミィは冷静に対処していた。
「…落ちるところまで落ちましたね…いいでしょう…動きません」
ミィはその場から動かなくなった。
すると、スカビオールの背後に二つの影が指す。
鋼鉄の鎧を身に纏った男二人が立っていたのである。
男の一人がスカビオールを締め上げ、他の一人はエルフォレストを救出した。
彼女は恐怖からの解放のあまり、エデルガルトの方にたどり着くと、腰を抜かした。




