第47話『神の力の前兆』
『目を醒ませ。青年よ…』
そこは暗い部屋だった。
『面構えがよくなったのう』
托生が振り返ると、そこには変わらず炎のような見た目の、正義の神がいた。
「正義の神!」
『覚えておったか!』
「お前みたいに怖くてでかいヤツ忘れられるか。久しぶりだな」
『言うてまだ5日しか経っておらんがな?…うぬはあの少女に救われたか。ならば、あの世界に帰してやった甲斐があったというもの…』
「あの世界もいいもんだぜ?…とは言っても、俺がここにいるってことは…はっ!俺ってもしかして、死んだ!?」
『いや、気絶しているうぬの意識に語りかけておるだけだ』
「ほっ…」
自分が死んだのではないと、托生は胸を撫で下ろした。
すると正義の神は語った。
『…あの者のパワーは、うぬを優に越すらしいな』
「ああ。残念だけど勝てそうにない。あんなやつどうやって勝つんだよ」
それを聞いた正義の神の目が細くなり、ニヤリとしたように見えた。
『あのとき我はうぬにこう言ったな…正義の本質に気付いたとき、うぬには力が与えられると』
「ああー。確かにそんなこと言ってたな…その意味を訊く前に戻されたけどな」
『まあそれは悪かった。だが、あの時のうぬでは気付けんだろうと思ったのでな』
「…そうか。ならしゃあねえな…」
『うぬはまだ、今戦っている意味を完全には理解しておらん。それではまだ、正義とは言えんな』
「じゃあ正義っつうのは何なんだよ」
『よいかよく聞け。うぬが本質に気づくのに大切なヒントがある。うぬにはそれを見抜ける眼がある』
「…!」
正義の神は、エデルガルトとエルフォレストの過去を見せた。
彼らが愛し合った過去の消滅。エルフォレストとエデルガルトの苦悩と懺悔。
その時托生の心には、エデルガルトらを救いたいという感情が現れたのである。
彼らがどれだけ辛い思いを堪え忍んでいるか、なぜか托生には理解できた。
『その心がうぬの正義だ。その理性と行動が、迷える者共の助けとなり、また新たなる正しき道を照らす…いずれはうぬも、この世に蔓延るあらゆる正義に気付くと思っていたのでな』
「“あらゆる正義”…?」
『正義と言えども多種多様…あらゆる理性が複雑に絡みもつれ合い、正義という概念は曖昧になりつつある。だがうぬには、その正義の確立を成就させる二つの心がある。自分の正義を突き通す純粋さと、他の正義を理解する優しさを併せ持っておるうぬだからこそ、我はうぬを、正義の神の力の保持者として選んだのだ…!──さあ往け青年よ!正義の神の力を手に、二人を救うのだ!』
※
「──何だ、このスピードは!」
目を銀色に光らせた托生は、正義の神の力を受け継いでいたのだ。
残像を残す程のスピードで攻撃を避けた托生に驚愕するエデルガルトは、怯んではいられないとさらに攻撃を繰り返したが、その絶え間ない攻撃は全て避けられる。
「なぜだ!なぜ当たらない!」
今のエデルガルトが本気になれば、托生たちなど他愛もない。
だが、今の托生の力はワケが違う。
それは、戦っているエデルガルトが一番よくわかっていた。
ついに托生が攻撃に出る。
「ファイア·ボール」
托生の指先に火の玉が現れると、彼はビー玉くらいのサイズのそれをエルフォレストに投げつけた。
「!ウィンド·バリアー!」
エルフォレストのバリアは火の玉を受け止めたが、魔力を込め続ける必要があった。
「くうっ…ううっ!」
だがそれも無駄であった。
火の玉が小さかったのは、エネルギーをその一点に集中させるためだったのである。
それに蓄えられたエネルギーは、まるで爆弾のような威力をもって爆発した。
──ドォン…ッ!
「!!」
響き渡る轟音とともに、爆発が彼女を飲み込んで気絶させた。
「…!」
ソータはその音に起こされ、その現場を目にすることとなった。
彼女はその圧倒的な力の差に、息を呑んでいた。
「あの力!一体何が…!?」
怒り心頭に発したエデルガルトは、今までに見せたことのないスピードとパワーで攻撃を仕掛けるが、その動きの全ては見抜かれていた。
托生はエデルガルトに突進するが、エデルガルトはそれを何とか見切って回し蹴りをした。
「キラー·ミドル!!」
攻撃は確実に入った筈だったが、托生の体は命中する直前に姿勢を低くしてそれを避けてみせた。
「…!!」
驚愕するエデルガルトの腕を掴み、顔を目の前にズイッと近付ける。
銀色の瞳が、エデルガルトをゼロ距離で威圧した。
「うっ…!」
睨まれて動けなくなったエデルガルトの腹部に、想像を絶する威力のスマッシュが炸裂する。
衝撃はエデルガルトの腹を貫通し、突風のような衝撃が吹き抜けた。
「…ぐあっ!!」
結局エデルガルトは、力を得た托生の呼吸ひとつさえ乱すこともできないまま倒された。
戦いの結末は、圧倒的なパワーによって迎えられた。
「…すごい!」
ソータは信じられないと言った様子で、その戦いを見届けていた。




