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第39話『計画の当日』

 夕方。

 百人以上も人がいるのに、やけにぴりついた雰囲気(ふんいき)のギルド(ない)

 それもそのはず、ついにこの時が近寄りつつあるのだから。

 ドルフィンによる計画の知らせから、ついに3日が経過した。

 そう、今夜ギルドのメンバーらは、ビッグ·ファングの本拠地(アジト)に乗り出すのである。

「あぁー…緊張(きんちょう)するなぁ…」

「確かにそうですね。この街の存続と、子供たちの安否がかかっているわけですから」

 托生とソータのレベルはもう12にまで到達している。

 それにゲバブルドとフェイルという、心強い仲間も(くわ)わった。

 だが托生の装備からしても、不安要素があまりにも多かった。

「何よりこれを見ろよ。ジャージだぞ。今日こそは重大だってのに」

「たしかに…、これでは防御力も低下してしまいますね…」


「うぅ…、(おそ)いわね…」

 ドルフィンは、やけにソワソワしていた。

「遅いって、何が?」

「人を待ってるのよ。今回の計画には(はず)せないの…」

 そんな重要な人物がこうも遅くなるとは思わないのだが…──と托生が思っていると、ギルドのドアが開いて人が入ってきた。

「ドルフィンさん、遅くなりました」

 入ってきたのは、托生の一つ下くらいの少女だ。

 だが、(なび)く黒髪とアジア系の顔立ちからは、どこか和風系なイメージが強く感じられた。

 彼女はどこか(はかな)げで美しいが、その(ひとみ)はまるで(やいば)のように鋭かった。

「いいえ、別にいいわ。何か情報は掴めた?」

「はい。相手の本拠地アジトは、あちらで間違いありません。ですがこちらの姿勢には気づいているようで、臨戦態勢に入っています。私が出向くとなっても構いませんが、リスクも考慮しておかねばなりません」

「いいえ、(なに)もあなた一人に背負わせるつもりはないわ。今回の活躍だけで十分よ」

「そうですか」

 彼女のハスキーボイスはとても(うつく)しく、なおどこか力強さを()(そな)えていた。


「誰だ?その人」

 托生がドルフィンに質問すると、その少女はドルフィンとともにこちらを向いた。

「えっ」

 その少女は、托生の姿を見て目を見張った。

「あなた、その服装…」

「な…何だよ。俺の服装じゃ向かわせられないってか?」

 少女は深呼吸をして安静を取り戻すと、托生に言葉を返した。

「…そうですね。そんなちんけな格好ではチンピラにやられ泣きべそをかくのは目に見えます」

「なっ!?」

 少女の態度に、托生も少しカチンときた。

「おい!それは──」

 托生が言いかけると、彼女に()(とな)える者が立ち上がった。

 それはソータだった。

「そんなことはありません!托生さんは、とても強くて優しい人です!」

 托生が()れていると、少女はまた驚いた。

「タクセイ!?」

「ああ、嵐丸托生だ。実力は、俺の戦いを見てもらえばわかるだろ」

「そう。そういうことなら、せいぜい頑張ってください」

 ミィは托生を一瞥(いちべつ)し、バカにするだけして帰っていった。

「なんだったんだアイツ」

「わかりませんが、私もあの人は気に入りません」

 二人の様子を見て、ドルフィンは語りだした。

「あの子はミィ。このギルドの所属ではないけど、サポートしてくれるやさしい子なの」

「あの性格でか…?」

「まあね。でもあの子も、昔に色々あってね。中途半端な力には敏感(びんかん)なのよ」

 判らないことだらけだ。


「それってどういう──」

 托生がそう言いかけると、酒場の中から声をかけた者がいた。

「いたいた!托生!ソータちゃん!」

 ゲバブルドとフェイルが、酒場の人々をすり抜けながら二人の所に走ってきた。

「どうしたんだそんな大慌おおあわてで」

 彼らの腕には、大きな袋があった。

「実は俺達二人で、お前らに渡したいものがあってな」

 そうして二人は、托生にその袋を差し出した。

 托生がその袋を開けると、ソータのように冒険者らしい服が出てきた。それは彼にはぴったりのサイズであった。

「これを、俺にか!?」

「ああ!パーティに入ってくれたお礼とお祝いだな」

「あんたがこのパーティの戦力だからね。期待してるよ」

 二人とも、とても親切なパーティだだ。

 こんな立派な服、きっと高かったんだろう。

「ありがとう二人とも!俺着てくる!」

 托生は、部屋に走っていった。



 托生はその服を着てかがみを見ると、とても冒険者ぼうけんしゃらしいサマになっていた。

 黒いアンダーウェアに、かわと固い鉄製のよろい

「こんなにうれしいんだな。仲間って」

 托生は今まで、人を信じることを恐れて生きてきた。でも今の彼なら、もう一人の自分にも笑って自慢じまんできる。

 彼はとても幸せそうだった。


 ──下りると、托生はとても熱い歓声かんせいつつまれた。

「「「ウォォオオオーーッッ!!」」」

「!?」

 さっきまでの雰囲気がうそのようだ。

「な、何事なにごと?」

 ゲバブルドが托生の背中をバシバシと叩いてきて、フェイルもそれに加担かたんしていた。

「おいおい!計画のリーダーがそんなんじゃつれないぜ!」

「初耳なんだが!?どうして俺が!」

 ソータにSOSを求めようとしたが、彼女も何だか申しわけなさそうにしていた。

「いやぁ、ごめんねぇ~」

 ドルフィンが申し訳なさそうに前に出てきて弁明べんめいした。

「実は、ミィがリーダーから降板してしまって、リーダーがあんた一人になっちゃって…」

「最終的には消去法じゃねえか!」

 ドルフィンの顔を見る限り、彼女にも悪気はないらしい。

 ソータもあまり否定できなかったらしく、托生は結局この計画のリーダーとして採用された。

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