第03話『托生と正義の神』
静寂の空間と無限の常闇。
そこで托生は目を覚ます。
人気はさらさらない静寂、視界いっぱいに広がる暗黒の闇。
…そこで托生は、悲しい事実を受け入れることを余儀なくされた。
「…俺は、死んだのか…」
あの高さなら、モンスターも死んだだろう。
托生は最期くらいには誇りをもったつもりだったが、すぐに呆れてため息をつくのだった。
『──諦めるのはまだ早いぞ…』
突如静寂が破られるとともに、空間全体が青い炎に覆われる。
するとその炎は、目を宿して喋りだした。
『人間の青年、うぬは怠惰であったな』
「…」
托生は、その恐ろしい姿を気にもかけず、ただひたすらに睨んだ。
『はっはっ!この姿を見てその態度を保つとは面白い!我は正義の神!よくぞここにやって来た!』
托生は、どうもこいつの態度が気に食わないらしい。
その様子を気にかけず、神は托生に語りかけてくる。
『うぬは先の戦いで、ソータという少女を助け、死んでここに来たのだな…日本という国で、彷徨う霊のような生活をしておったうぬが、何とこれほどまでに哀れな末路を辿るとは…』
「…見ていたのか」
『然り!生きとし生ける者の正義を、我は無明の過去から見守っておるのだよ』
「…さすが神様だな」
托生にとっては、今は何もかもどうでもよかった。
自分が死んだという事実は、決して変わることはないのだ。
だが、正義の神は托生にこんなことを言う。
『ふっ…我ならうぬを、ソータのもとに生きて戻してやることができる』
「…!それは本当か」
『はっはっはっ!神である我が人をだまかるとでも!?』
托生にとってそれは、何だか信憑性に欠ける気がした。
彼は疑わしそうに、正義の神を見つめる。
『そう疑うな…ソータは今、うぬの亡骸を頑張って治癒しておる。そこにうぬの魂を還してやろう』
「…はいはいどうも」
やけに正義の神に冷たかった托生だったが、結局は彼の神という称号に頼ることになるのだった。
──托生は正義の神とやらに質問する。
どうやら正義の神は寛容らしく、耳を傾けてくれる。
「元いた世界…日本に戻るための手段は、あの世界にはあるのか?」
「…あるにはあるのだ。だがそれには、我よりも強い力をもつ、ある神に頼まねばならん」
「じゃあお前がその神に…」
『無理だ。あの神は我よりも高い位におられるのだからな』
托生はガッカリしたような様子だった。
「じゃあもう帰る」
『もう行くのか。だが待て、ちょっとしたプレゼントをしてやる』
「え?」
正義の神は、その体の炎で托生を飲み込んだ。
彼は驚くが、炎は気付けば消えていた。
「何するんだ!」
『気付かんのか。せっかくお前に力を与えてやったというのに…』
「えっ…本当だ、何だか体が軽い」
『気に入ったようだな。うぬは今、この世界で生きるための力を得た。恐らくあのソータにも匹敵するぞ。それ以上の力を与えると、今のお前には扱いきれんからな』
「…そうか。ありがとうな」
『あと、最後に一つ助言しておこう』
「…?」
『うぬの心には、強い正義感が眠っておる。それが解放されたとき、うぬは新たなる世界へと足を踏み入れることになるだろう』
「え?…それは、どういう──」
托生は、最終的にそれを最後まで言わせてもらえずに帰された。