第35話『ごたごたの解消』
部屋に戻ると、リビングにはソータの衣服が脱ぎ散らかされていた。
托生はもうすでに失神寸前の境地に意識が立たされている訳なのだが、机の上にある置き手紙に気が付いた。
『今日も一緒に入りましょ♡』
その赤い文字の置き手紙に無限の恐怖を感じるのだった。
これは行かないと…──托生はすぐさま風呂へと向かった。
風呂のドアをあけると、ソータの裸体から何やら紫紺のオーラがうっすらと見えるのだ。
「なあソータ…?怒ってる…か?」
「…」
「いや、喋ってくれないとわからないって…」
「…怒ってないです」
返事は返してくれるらしい。
実はこういった体験は、初めてではないのだ。
托生は心花と一度だけ、深刻な喧嘩をしたことがあるのだ。
心花はその後、何を言っても聞かず、頬を膨らませそっぽを向くだけ。
今のソータと瓜二つだった。
托生は服を脱ぎ、風呂場に入った。
ゴゴゴ…とでも効果音が付きそうな状態のソータ。
托生はソータと心花を対照させてみる作戦に出た。
今の彼女は、あの時の心花と同じ心境なのではないか。
仲直りの前は、みんな決まって素直になれないものだ。だがそれは、相手への一方的な嫌悪とは違う。オカマ店員のいうように、相手への期待が裏切られ、べそをかいているだけだ。好意は絶対に途絶えず、相手の心に確かに存在している。
こういう時托生は、自分の意見をしっかりと主張するべきなのだと見た。
落ち着いて湯船に浸かって、ソータと向かい合わせになる。
ソータの顔を少し見てみた。目線が下を向いていて眉毛が下がっている、怒ってはおらずむしろ喧嘩を後悔しているらしい。
「…ソータ。俺はソータの事が嫌いなんて微塵も思っちゃいないよ。むしろ大好きだよ。超好きだ」
「…」
「…それでも俺は、自分でいうのも何だけど、お前が言ったみたいにヘタレだった。ソータの要求するようなキスを、あんな絶好のシチュでしてあげられなかった。それにできなかった言い訳ばっかり語って…それは素直にごめん」
「…」
「出会って五日でこれを言うのも違うと思うけど、俺はこれからもソータの恋人でありたい。だから俺はここで約束するよ。いつか最高のシチュを見つけたら、唇にキスをしてやる。その時まで、期待しててくれよ」
「…」
今こうやって自分の考えを言うと、ちょっと気恥ずかしい。
っていうか、ヘタレ自認はもうアウトだよなぁ…──と反省しつつ、托生はソータの方を見る。
だが、少し予想外の光景があった。
ソータの般若の面は剥がれ、いつもの微笑みがそこにあった。
「…約束ですよ?」
「…お、おう!」
彼女はそう言って、托生の手を強く握っていた。




