第33話『決闘ジェーハドゥムラ』
当然、野生の王者が人への憐れみなど持つ筈が無い。
「フゥウウウッッ──!!」
ジェーハドゥムラが息を強く吸い込み、エネルギー弾を生成する。
大気は奴の口の中にチャージされ、托生とソータの髪も吸引と一緒に靡いている。
エネルギー弾は以前より大きく作られ、エネルギーは黒く密集していた。
「ハイ·ガード!!」
このスキルはSPを4消費して収得した、自分のガードを引き上げるものだ。
だが、このスキルで太刀打ちできるかは判らない。
それでも托生はソータを抱きしめて、ストーン·ガードで目の前に石の壁を張る。
それもトビキリ分厚いものを。
「ギャアッ…!」
エネルギー弾が勢いよく放たれると、バキッと音を立て石の壁にぶつかる。石の壁に大きなヒビが入ると、そのヒビから風のエネルギーが漏洩する。
托生は多くの魔力を石の壁に込める。それでもいつまで経ってもエネルギー弾は死なない。
そしてエネルギー弾の核が暴発し、石の壁は突然にして砕かれた。
「なっ!うわぁああッッ!!」
鳥肌が浮き出て股間が引き締まる。
その時感じたのは死の予感だった。
だが直撃の寸前、ソータのナイスサポートで危険を免れた。
「ストリーム·レーザー!!」
ソータの指から出た風の光線が、エネルギー弾を打ち消してくれた。
「はぁ…はぁ…心臓が止まるかと思った…」
未だに心臓がバクバクだ。
ストーン·ガードで伸ばした右手も、今の托生を立たせる足ももうブルブルだ。
ヤツに起こったこの現象、突然変異だとしてもあまりにも不思議すぎる。
「ァアアアッ!グゥウギャアアッ!」
狂ってしまったそいつは再び強く息を吸うと、細やかな黒色のエネルギー弾の雨を降らした。
地面は荒野と化し、二人もその雨を防ぎきれずどんどんダメージを受けていった。
その結果、ソータを擁護した托生の体力はぐんと減ってしまった。
「くっ…ううっ…」
「托生さん!」
エネルギー弾の雨で受けたダメージに膝をついた托生にソータが回復スキルをかけるが、傷口は塞げても芯までは直せないようだ。
だが、この間が命取りだと托生は立ち上がる。するとミチミチと筋肉が悲鳴をあげているのがわかった。
「托生さん!いけません!安静に──」
「こんな状況で安静したらダメだろ!あれはマズいぞ!」
「…はい。それでも、見てください」
「ん?」
ソータは、ジェーハドゥムラの行動に違和感を感じとる。
「動きが、鈍っています」
「あっ」
確かにソータの言う通り、あの大規模の攻撃以降、ヤツの足取りが不安定になり始めた。
今のジェーハドゥムラは、攻撃力がアップしてはいるものの、消耗も同時にアップするようだ。
「なら、ガードが大幅に下がったあいつには、ドシドシ攻撃を仕掛けりゃいいってことか!!」
弱点を知り調子に乗った托生は、ファイア·ボールを投げつける。
「キュエエエエーッ!!」
奇声に近い鳴き声を発し、元はボロボロにした筈の翼で暴風を発生させると、それに吹かれて、ファイア·ボールは消えてしまった。
「チッ」
「スゥウッ──」
再び強く息を吸い込み始めたジェーハドゥムラ。
だがその時、托生はひらめく。
「…!そういうことか」
立ち上がって口角を緩ませる托生に、ソータは不思議そうな視線を向ける。
「なあソータ、さっきカッコいい所を見せてくれっつたよな」
「え?…あ、はいっ」
「その期待のアンコールに、応えてやる!」
「…えっ!?」
托生は吸い込みを続けるジェーハドゥムラに、あろうことか接近したのだ。
「托生さん!一体何を!」
「いいか見とけ!これが俺の新スキル!こんなベストタイミングで使えるなんて思わなかったぞ!“フレイム·バースト”ッ!」
托生の体から、豪焔が大量に放たれる。
するとあろうことか、ジェーハドゥムラはそれを大気の吸引と同時に吸い込んだ。
奴の喉はあっという間に焼け焦げ、隙だらけになった托生はヤツに再び接近し、鳩尾にヒート·スマッシュをお見舞いした。
「──ッ!?」
ソータがこちらを驚いたように見ていた。
「すごい…!」
「結構効いたみたいだな。あいつはもう喉をやったから、エネルギー弾は出せないぜ」
ヤツの集中力が途切れ、奴はその場に倒れた。
今の攻撃で、相手の体力が大きく削れた。
「ソータ!ここで一気に畳み掛けたい!一気に接近して、ストーム·バーストを放ってくれ!ジェーハドゥムラに止めを指すぞ!」
「…!わかりました!」
托生とソータはハイ·スピードを発動し、ヤツの腹に飛び乗る。
「ストームジェット!ストーム·バースト!」
ソータはストーム·ジェットで高く飛び上がると、特大のストーム·バーストを発動させた。
竜巻はヤツの体に傷をつけるが、致命傷には至っていないらしい。その証拠に、削られている体力は、今のところ少ない。
「そのまま維持してくれ!」
「はいっ…!」
身動きが取れなくなっているジェーハドゥムラに、托生はフレイムバーストを発動させた。
竜巻は豪炎を巻き込んでヤツを炙っていく。
「ギャァアアーッ!!」
体力はついに底をつき、息絶えて倒れた。
二人は、絶望的な危機をついに乗り越えたのである。
『タクセイ(Lv12)素質値336』
『ソータ(Lv12):素質値336』




