表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/112

第30話『岩場の捕食者』

「ギュエエエーッ!!」

 ジェーハドゥムラの咆哮(ほうこう)は、とてつもないいきおいで岩場エリアに(ひび)きわたった。

 さらに奴が(つばさ)を大きく広げると共に、(あたか)も超大型台風程の爆風ばくふうが発生させられた。

 奴はこの岩場エリア全範囲の王者。奴の領地に闖入(ちんにゅう)してしまった時点で、すでに自分達は奴のターゲットだったとでもいうのだろうか。そう考えるだけで、托生は生きている心地がしなかった。

「おい、ソータ!これちょっとヤバすぎるんじゃないのか!?」

「ええ、このしゅのモンスターは、災害さいがいおよぼすほどの力をもっています!」

「はあ!?」

 托生はその説明に理解がおよばなかった。

 ジェーハドゥムラがもっと激しくつばさを振り、風がさらに吹きれると、岩場の数百ものモンスターは一斉いっせいに逃げまどった。

「あっ、わああああっ!」

「ソータ!グッ…」

 ソータの小さい体を、飛ばされぬように支えているが、当然托生にのしかる負荷ふか尋常(じんじょう)ではない。

 彼女の言う通り、“災害”という言葉がピッタシだった。

 托生は表情に大きく苦悶(くもん)(あらわ)していた。

 この戦いは勝つか負けるかの次元ではない。生きるか死ぬかの戦いであると言ってもいい。

 ところが相手の爆風に空隙(くうげき)はない。 

「どうやって攻撃すんだよ!」

「とにかく、相手の攻撃がむのを待つしか…」


「ギュアアーッ!!」

 ジェーハドゥムラは大股で一歩一歩大きく前進する。奴の足が地をみしめると、大地が悲鳴をあげて広範囲な亀裂(きれつ)が生まれる。

「ヂァオオゥウウッッ!!」

 その状況に呆気(あっけ)にとられていた托生は、頭上にいつの間にか、巨大な足があったことに気付いた。

 ──や、やば…ッ!?

 イヤな予感が脳を(かす)める。それはまるで死の予感ですらあるようだった。

 今になってやっと正当な判断がくようになった托生は、自らとソータの守備に(てっ)した。

「ストーン·ガード!!」

 クリムゾンホーンとの戦いの時と同じくいわかべあらわれる。ジェーハドゥムラの目眩(めくら)ましになるだろう

 托生はソータを抱え、一目散にその場から退避たいひする。

 何とかすきは突けたのだろう。彼はジェーハドゥムラとの距離を広げることに成功した。

 鳥足の範囲から、やっとの思いで抜け出せたのだ。

 そこまでは良かったのだが──

「ギュイイーッ!!」

 その咆哮の後、ジェーハドゥムラが岩の壁を足蹴あしげにした。

 すると、簡単に崩れ去ったではないか。

「マジかよ!あのクリムゾンホーンでも破れなかったのに!」

 次元の圧倒的差異を見せられ、さらに逃げる意識は飛びつつあった。

 二人にいよいよ(いら)立ちを覚えたジェーハドゥムラは、さらに大きく高い咆哮(ほうこう)を岩場全体にひびかせた。

 想像を絶する爆音。身動きすら取れない状況下で、二人の死の予感はますます早く具現化していく。


「この*までは(らち)*明き*せん!」

「あぁ!?」

 ソータのその発言も、爆音に所々(ところどころ)かき消され朦朧(もうろう)としていた。

 さらに途中、あせりで集中力が欠けていた托生は、腕の中に彼女の姿(すがたが無かったことに気付いた。

「消えた…!ソータ!どこ行った!」

 托生は消えたソータを探しだす。

 戦慄に攪乱(かくらん)される意識の中、全ては彼女の安全の為だけに視界を動かしていた。

「くそっ、どこだぁああっ!」

 爆音に負けじと全力で拡声するも、彼女は視界の中に一向に現れない。

「くっ…!」

 ソータをつまらない不注意で失い無意味に存在している自分が、その時どうしても(みにく)く感じた。

 俺がこんなにもなさけないから、ソータから見捨られて当然だったんだ──自己嫌悪に(ひた)消極しょうきょくするなさけない命は、喉をひき千切ちぎるように思いきり叫ぶと、地面に全力の鉄拳てっけんを叩き込もうとした。


 だがその次の出来事だった。

「…?」

 托生が違和感を感じとる。

 突然、感じる爆風がゆるやかになっていき、今までのジェーハドゥムラの咆哮も、同時に小さくなていくようだった。まるで、壁のような何か厚いものに(さえぎ)られるように。

 違和感にかられ、視界を前にやると、目の前のジェーハドゥムラの姿が、ぐにゃりと(ゆが)んでいることに気づく。

「…まさか!」

 ソータのスキル“ウィンド·バリア”だ。先程のよりも四倍は厚い。どうりでやぶれない訳だ。

 雑音(ざつおん)が消え、集中力が戻る。

 俺を隔離(かくり)したところで何になる!──托生は(いきどお)りに体をふるわせた。


「ウウーッ!!」

 ジェーハドゥムラの咆哮と共に、目の前にまぶしい閃光(せんこう)が落ちた。

 ヤツの頭上からかみなりが落ち、直撃したのである。

 その瞬間しゅんかん、托生は一人の少女をさがし始める。このスキルの発動源である彼女は、きっとすぐ近くにいる筈だ。

 風のバリアから目を凝らし、前方を刮目(かつもく)する。

「いた!」

 ソータは持続的に雷を発生させている為、苦悶の表情を(あら)わにしている。ジェーハドゥムラに関しては、ダメージはあるとは思えない。

 一方ソータの限界は既にすぐそこだ。

 ジェーハドゥムラは怒りに任せて暴れだすと、発生した爆風によってソータは吹き飛ばされてしまった。

 さらに彼女は、運悪く岩石に腹からうち当たり、その痛みに吐血した。

「ゲホッ…!ゲホッ…!」

「(まずい…ッ!!)」

 ジェーハドゥムラが勝利の雄叫(おたけ)びをあげている(すき)に、ソータの救助のためウィンド·バリアを何とか破壊しようと(くわだ)てる。

 だがスマッシュを使ったとしても、このバリアは気体から生まれた物だから有効ではない。


「くそッ…──!」

 何で何もできない!

「今こうしている間にも、ソータは傷ついているんだ!ソータが…、俺の愛人が…恩人が死にそうなんだぞ……!」

 托生の怒りは、すでに表情に顕れるほどに肥大(ひだい)化していた。

「こんなバリアー張りやがって、バカなのかあいつ!俺を殺させないつもりか!お前は死んでいいのか!」

 托生はウィンドバリアに立ち向かう。

 バリアに指が触れると、ビリビリと手が痛む。

 どうやら本気で托生を通させないためだったらしい。

 だが彼は、それで諦めるようなヤワな男ではなかった。


「…だあああーッ!!」

 托生はようやくバリアーを貫通したと思うと、彼は外に出た。

「食らえぇっ!!鶏糞(ケイフン)野郎がぁーッ!!」

 突然の托生の乱入に、満身創痍のソータは驚いた。

「スマッシュッ!!」

 ハイ·スピードで助走をつけ放った渾身のスマッシュが、ジェーハドゥムラの鳩尾(みぞおち)に勢いよくめり込んだ。

「──ァッッ!!」

 声にならない悲鳴とともにダウンしたジェーハドゥムラの不意を付き、托生は満身創痍のソータを救出することに成功した。

「…托生…さん…っどう…して…?」

 ボロボロになりつつも自分の心配をするソータに、托生は隠しきれないほどの義憤をソータの耳元で解放した。

「つまらない理由で俺に恩を着せるな!ひとまず今は退散だ!とにかくずっと遠くに逃げるぞ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ