第29話『岩場エリアの異変』
「…?」
托生は少しの睡眠から目を覚ました。
何だかすごく気持ちのいい夢を見た気がしたのだが。
用を足しにテントから出る。
「んよっと…。ん?アソコに違和感…?」
用を足す途中違和感を感じていたが、テントにもう一度戻ろうとしていたその時。
「ギャア…」「ギャアゴァア」
辺りから野獣が騒ぐような音がするが、不思議な事にモンスターの姿はない。
もしも紛れ込んでいたら、ソータを起こさないよう駆除してやろう。
するとどこか、空気が歪んでいるように見えた。
まるで、黒色の何かが複数うごめいて、靄を形成しているかのようだった。
無数のモンスターの眼光が、托生を睨み付けた。
「おわっ…!」
驚いた托生は一目散にテントに戻ると、取るも取り敢えずソータの肩を揺らして起こそうとした。
「…どうしましたか…」
ソータは寝込みが途切らされたせいか、不機嫌なようだ。
「大至急起きろ!今すぐ!」
「ごめんなさい、私はもう、今日は托生さんの相手は難しいです…」
マジで俺が何をした──と思いつつも、緊急事態なので、無理矢理にでも起こした。
「それは何かわからないが、とんでもない数のモンスターがテントを囲ってるんだよ!」
「…そうですか。それはそれは…zzZ」
ソータは億劫そうにまた枕に頭を戻す。
「何でソータはそんなに落ち着いてるんだ!早く外に!早く!」
「はぁ…、判りました…」
ソータはベッドから離れ、テントの外の様子を見る。
だが彼女は、この地獄絵図のような状況にも狼狽えるようなことはなかった。
「私がウィンドバリアーを張ったので、lv3以下のモンスターが侵入することはまず無いですよ」
「…ホッ」
どうやら問題は無いらしく、托生は安堵する。
だが不思議にも、何故か二人の緊張感がほぐれることはなかった。
「おい、ソータ。戻って寝よう。無理矢理起こしてごめんな」
托生はソータに声をかける。だが次に動かなかったのはソータだった。
「どうしたの」
「…何か、ちょっとおかしいんですよ」
「おかしい?」
「はい、本来こんなに多くのモンスターが密集することはない筈なんですよ」
ソータの小さく引き締まる背中は、これから襲来する危機を危惧しているようで、大変恐ろしく感じた。
他の何でもなく、絶対の恐怖が托生の心を支配していた。
次のソータの言葉に、托生は心臓を捕まれたような気分となった。
「まるで、何か圧倒的捕食者によって、生き場を追われたような…」
丁度その時だった。この場に強大な力が襲来したことを理解したのは。
ビュウウウッ──!!
突然托生達を強風が襲ったとともに、かなり頑丈なテントも崩れ吹き飛んでいった。
ウィンドバリアーの効果は風とともに消滅し、モンスターは吹き飛んでいった。
するとソータの背後に、見上げるほどに大きな土煙が現れる。
そして土煙の奥のモンスターは、強風を再び発生させた。
ソータが強風に吹き飛ばされ、托生の胸にぶつかってくる。
受け止めると、信じられない程の重みがあった。
托生の足のついている地面が、足の重さで抉られていく。
土煙が晴れたそこには──、
「ギュエエエエエーッ!!」
鷹のように毛の立った、8メートルはあろう巨大な野鳥が鳴いていた。
羽毛の赤と金は王者の貫禄を思わせ、まさに偉大なる異彩を放っていた。
『──ジェーハドゥムラ(lv15)』
圧倒的捕食者の正体に、一瞬で納得がいった。
「最悪ですね…」
「まずいぞ…これはっ」




