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第02話『異世界での出会い』

 この世界に、これまでに若い人間がいたのか。

 この少女の服装は、いかにもゲームの世界を思わせるような、ヨーロッパ諸国しょこくのそれであった。

 その生地がしっかりしているのを見るに、この世界の人間の文明の発展は、かなりのものだとうかがえる。

「落ち着いてください。私が直しますので」

 少女が托生の腹に手を当てると、次に不思議なことが起こった。

 托生の体に魔方陣が浮き出て、それを吸い込むようにして、傷や痛みが根本から消えていった。


「…もう大丈夫ですよ」

「…ん…あっ」

 托生は痛みが消えたことによって、スムーズに起き上がることができた。

 少女のさっきの魔法には、傷と苦痛を(いや)す効果があるらしい。

「ありがとう…お前がいなかったら…今頃…」

「そうですかね、うひひ」

 少女は礼を言われたことがよっぽどうれしかったか、ほおを赤らめて髪をくしくしする。

 その仕草は、かなり愛くるしいものであった。


「──ここ一帯にはモンスターが彷徨(うろつ)いてますので、お困りなら近い街に案内しますよ。私もあちらにまる予定ですし」

 付いていかない選択肢などないだろう。戦いの能力など微塵みじんもない托生は、先程のような状況で生きていられる余裕よゆうなどないのだから。

 そして、この世界ではわからないことが多すぎる。街でも少し世話になるのも悪くはないはずだ。

「…たのむ…!」

「はい!…あの、お名前は?」

「…た、托生…あんたは」

「ソータです!ソータ=Lルベルス·Rレスティーム·キュベルです!よろしくお願いします!」

 托生は、ソータと街を目指すことになった。



 托生はソータと道を歩いていた。

 ソータは街への道を知っているらしいので、彼はそれについていくまでだ。

「ごめん…こんな親切にしてもらって」

「いいえ、困っている人を助けて、おかしいことなんてありませんよ」

 ソータは、なんて純粋じゅんすいで優しい少女なのだ。

 この子は一体、どこまで美しく心をみがけば気がすむのだ──托生はそのまま、ソータを凝視ぎょうしするのだった。

「?…どうかしました?」

 ソータは、托生がなぜこちらを見てくるのかわからなかったが、托生はぎこちない笑みを浮かべていた。ソータはキョトンとした様子だ。

「…なんでもない」

「…そうですか?」

 托生は言うが、内心ではこう思っていた──『俺のようなクズのために、よくもここまで気を使えるものだ』と。

 根暗ねくらな托生にとって、ソータという少女はまぶしすぎるのだった。



 2人は、草木をき分けつつ20分は歩き続け、またちがう崖の前にった。

 崖の下を見下みおろして托生は息をのむ。

 針のような巨岩(きょがん)が何個も突き出ている。落ちたら一貫いっかんの終わりだ。ソータはケロリとしていたが。

「見てください。あれが街です」

 ソータが指差す先には、高く厚い外壁がいへき(おお)われた大きな街があった。

 やっと街を見つけたと一息ひといきつく托生を、ソータはなぜか面白そうに見つめていた。

「…なに?」

「托生さんがつかれちゃいますから、そろそろ休憩きゅうけいにしようかなぁと」

「ようし、やっと休めるわ」

 托生は地面にすわり、ほっと一息つく。

 涼しい風と柔らかい日差しが気持ちいい。

 横を見ると、ソータは魔法の力か次元の穴を開けて水を取り出していた。托生はそれを興味ありげに見るのだった。

 すると、ガサッと草のしげみが動いた。


 托生が嫌な予感を察知さっちしたその瞬間トキ…──

「グルルァアアッ!」

 茂みから、おにのような顔をしたトラのモンスターが飛び出した。

 そいつは意気揚々(いきようよう)として、ソータに(おそ)いかかる。

「ッ!?」

 いくらソータでもこれには流石さすが反応はんのうできず、そのまま地面に押さえ付けられてしまった。

 彼女の顔に焦燥(しょうそう)が濃く浮かぶ。振り払おうとしても、無駄な抵抗を続けているに過ぎなかった。

 ソータを助けに行きたい──その気持ちはあったものの、今の状況はくつがえすことはできないと、それも当然理解していた。

 托生は震える足をわえ付け、ソータの顔を確認する。

 なみだが流れているわけではない。ただこちらに、逃げるようにせつうったえていた。

 それを見て、托生にわき出る感情があった。

 ──なぜこんなにヒーローのようにいられるのだろう。

 ──自分のことよりも他人を優先して、なんてカッコいいんだろう。

 ──何で自分よりカッコよくて存在意義があるやつが、死ななきゃいけないんだろう。

「うおァアーッ!」

 彼は思いを胸に血迷ちまよったか、落ちていた石を虎の脳天のうてん直撃ちょくげきさせた。

「ウォ…?」

 虎はターゲットを托生に変えた。

 托生の後悔こうかいはもう遅い。

「ガアアーッ!」

 ソータをすくうことには成功したが、托生はせまりくる死の確信に恐怖していた。

「わっ、わああーっ!!」

 なさけない悲鳴ひめいを合図に、虎から逃げようと逆方向ぎゃくほうこうに走り出す。

 もとから、ソータが勝てないモンスターなど相手にできるわけがない。

 だからこそ彼は逃げるのだ。

 だがその時、ソータから恐ろしい忠告ちゅうこくが入る。


「托生さん!そこは崖です!!」

 托生はソータの忠告にはっとする。だがもう遅い。

「ハッ…!?」

 虎とちゅうに乗り出した托生の視界しかいには、岩がはりのように突き出ていた。

 托生は、短い自らの生涯しょうがいを、その一瞬で思い返していた。

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