表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/112

第01話『異世界転移』

「…どうなってんだ」

 托生は、突如(おとず)れたこの状況に、理解が追いつかなった。突然のことだ。無理もないだろう。

「おい、心花…」

 托生が呼んでも、当然心花の応答はない。

 

 もといた世界に帰るのは不可能といっていいかもしれないが、それでも托生は立ち上がり、部屋用のスリッパのまま(おく)に歩いていった。



 托生は草原の奥を目指して歩いていると、ちょうど深い(がけ)()()かった。

 托生は、雄大かつ圧巻の光景の数々をそこから(のぞ)めた。

 氷山…海に河…(たき)。そして向こうに見えるのは、遺跡(いせき)だろうか。

 遺跡があるということは、人類もいると考えられる。

 しかし、かなり老朽化(ろうきゅうか)している。人類が絶滅(ぜつめつ)した可能性も捨てがたいが…──


「──ギェエエエッッ!」

 突如(ひび)く鳴き声に、托生は近くの岩にすぐさま身をかくす。

 すると別の岩から、3mほどの怪獣が姿(すがた)(あらわ)した。

 怪獣はトカゲのような爬虫獣(はちゅうじゅう)で、托生の姿を簡単に(とら)えそうな巨大な目をしていた。かなり()えている。

 托生の冷静さが着々(ちゃくちゃく)(うば)われ、鼓動はそれに連動するようにドクドクと強く早く脈打みゃくうってゆく。


「…」

 托生はゆっくりとしずかに岩陰いわかげからはなれる。見つからぬよう、コッソリと。

 だが、やつの目はこちらをギロリとにらみ付けた。

「ひっッ!?」

 全身の鳥肌が吹き出したのを合図に、托生は走り出す。

 怪獣は托生に、闘牛さながらのスピードで襲ってきた。

「うわぁあアアッ!」


 托生はひたすらに逃げるが、みすみす追いつかれてしまう。

「ぐぁ…ッ!」

 横腹への強い衝撃が、托生を吹き飛ばす。

 怪獣はそこからも、容赦なく畳み掛けてゆく。当然あらがすべはあり得ない。

 托生の体にともなう激痛もただ事ではない。1撃1撃が重く、それぞれが死を予感させていた。

 だが、ここでこの状況を変えてくれる者が現れる。

「そこまでです!」

 どこからとなく声が(ひび)き、緑色の風を放つボールが2つ飛んできて、怪獣の頭と心臓を(つらぬ)いた。

 モンスターの巨体はズシンと音を立てて転がった。


「…ここにいたら…まずいっ…──うっ!がは…ッ」

 突然起きた現象に、托生はこの場所から逃げ出そうとする。

 だが痛みのせいで、まるで動けずにいた。

 すると再びあの声が響く。

「動かないでください!」

 彼は、声のした崖の上を見る。


「!」

 太陽の光と距離でうまく見えないが、托生はそこに人影を見た。

 背の小ささや髪の長さを見るかぎり、女だろうか。

 托生がその女を(なが)めていると、あろうことか飛び降りてきた。

「(危ないっ!)」

 だが女は落ちてくるさい、不自然に発生した風に支えられ、ゆっくりと着地した。

 この風が魔法なのなら、さっきのボールはこの女によるものと考えられる。

「まさか…お前が俺を?」

「はい!」

 女は托生の質問に短く元気に答える。その声は心地よいソプラノで、どこか幼さを感じる。


 彼女が托生に近づくほど、その姿はより鮮明に見えてきた。

「…ん?」

 だが、托生は女が近づくたび、何か違和感をもった。

 背が小さく髪は長い──この特徴とくちょうで女だと察した托生の判断は間違っていないらしい。

 だがこの女は、まぎれもなく12歳ほどの少女だった。

 深緑しんりょくの髪、翡翠ひすいひとみ、小さなはな、おちょぼ口、小さな手、つつましい胸。

 托生は、彼女のその美貌びぼうに、思わず目をうばわれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ