第14話『広き街の観光』
托生とソータは、しばらく歩いて溜め息をついた。
「…とは言っても、広すぎるなこれは…」
「まあ110kmもありますからね…」
当然異世界には、タクシーもバスもない。
それに辺りの屋台はどこか寂れていて、テンションがイマイチ上がらなかった。
すると途方に暮れる彼らに、誰かが声をかけた。
「あの…お困りですか?」
「え…?」
その声はどこか幼くて、少年のような声だった。
顔をあげるとそこには、想像通りのソータくらいに幼い少年と、巨大な馬がつけられた馬車が立っていた。
「観光でしたら、うちの馬車をご利用ください。お一人様320ポイントです」
托生は異世界の馬車というものにはテンションが上がった。だが、財産800ポイントの彼からしたら、懐にかなりのダメージがいく。
「320ポイントか…使うか…」
「いいえ。托生さん、ここは私が出しますよ」
「ほんとごめん!いずれ絶対に返すから!」
「大丈夫ですよ。私たちもうペアなんですから、お金も完全に共有してるんですよ?」
「どんなところに行きたいですか?」
行き先を聞く少年に、ソータはしばらく悩んで答えた。
「半日でまわれる程度の範囲で、観光やショッピングができるところがいいですね」
「なるほど、ならカルルージュ公園付近がおすすめですね」
「ではそこで」
「はい!それでは、お客様が乗られましたら出発いたします」
托生たちは木製の馬車に乗って、ベンチくらいの椅子に腰を下ろした。
「それでは出発します」
少年が馬の背中に座ってパチンと鞭をしならせると、馬が専用の道路を歩きだした。
観光バスより少し遅いので、窓からの景観もありとてもいい乗り心地だ。
──操縦する少年に、托生は質問をかけてみた。
「えっと、名前聞いていいかな?」
「はい。エイヂル=セルと申します」
「エイヂルか。小さいのにお仕事やってて偉いな」
「そうですか?この町では当たり前ですよ。社会での生き方を学ぶために、こうやっていろいろ挑戦するんですよ」
「なるほどな…」
日本とはまた違う教育方針に、托生は感心する。それにエイヂルのパッションには、とても感銘を受けるところがある。
「まあ、これからもがんばってくれよ」
「はい!ありがとうございます!」
エイヂルは嬉しそうに、首を縦に振った。
──ぎゅっ
何かが托生の右腕を抱き締めた。
「ん?」
右腕を見ると、ソータは腕をつるのように絡めていた。
「おっとソータ、俺の手が出る前にその腕を離してほしいな」
「イヤです♡」
「俺への恋心をせしめたと同時に、なにか大切なものを犠牲にすると思え?」
「托生さんになら何でも差し出せますよ」
彼女のそれはマジだ。目がマジだと言っている。
まあイヤな気は全くしないし、暖かくて心地いいのでしばらくこうしていたい。
托生はエイヂルの方を見ると、彼がなぜかこちらを愉快そうに見ていたのに気がついた。
エイヂルのあの柔らかそうな頬を引っ張ることを諦めたのは、肩の感触がとても心地よかったからだろう。
馬車はそのまま、目的地に向かって闊歩していた。