表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/112

第14話『広き街の観光』

 托生とソータは、しばらく歩いて()め息をついた。

「…とは言っても、広すぎるなこれは…」

「まあ110kmもありますからね…」

 当然異世界には、タクシーもバスもない。

 それに辺りの屋台はどこか(さび)れていて、テンションがイマイチ上がらなかった。

 すると途方に()れる彼らに、誰かが声をかけた。


「あの…お困りですか?」

「え…?」

 その声はどこか幼くて、少年のような声だった。

 顔をあげるとそこには、想像通りのソータくらいに幼い少年と、巨大な馬がつけられた馬車が立っていた。


「観光でしたら、うちの馬車をご利用ください。お一人様320ポイントです」

 托生は異世界の馬車というものにはテンションが上がった。だが、財産ざいさん800ポイントの彼からしたら、(ふところ)にかなりのダメージがいく。

「320ポイントか…使うか…」

「いいえ。托生さん、ここは私が出しますよ」

「ほんとごめん!いずれ絶対に返すから!」

「大丈夫ですよ。私たちもうペアなんですから、お金も完全に共有してるんですよ?」


「どんなところに行きたいですか?」

 行き先を聞く少年に、ソータはしばらくなやんで答えた。

「半日でまわれる程度の範囲(はんい)で、観光やショッピングができるところがいいですね」

「なるほど、ならカルルージュ公園付近がおすすめですね」

「ではそこで」

「はい!それでは、お客様が乗られましたら出発いたします」

 托生たちは木製の馬車に乗って、ベンチくらいの椅子にこしを下ろした。

「それでは出発します」

 少年が馬の背中に座ってパチンと(むち)をしならせると、馬が専用の道路を歩きだした。

 観光かんこうバスより少し遅いので、窓からの景観けいかんもありとてもいい乗り心地ごこちだ。


 ──操縦(そうじゅう)する少年に、托生は質問をかけてみた。

「えっと、名前聞いていいかな?」

「はい。エイヂル=セルと申します」

「エイヂルか。小さいのにお仕事やっててえらいな」

「そうですか?この町では当たり前ですよ。社会での生き方をまなぶために、こうやっていろいろ挑戦するんですよ」

「なるほどな…」

 日本とはまた違う教育方針(ほうしん)に、托生は感心する。それにエイヂルのパッションには、とても感銘(かんめい)を受けるところがある。

「まあ、これからもがんばってくれよ」

「はい!ありがとうございます!」

 エイヂルはうれしそうに、首を縦にった。


 ──ぎゅっ

 何かが托生の右腕を抱き締めた。

「ん?」

 右腕を見ると、ソータは腕をつるのようにからめていた。

「おっとソータ、俺の手が出る前にその腕をはなしてほしいな」

「イヤです♡」

「俺への恋心こいごころをせしめたと同時に、なにか大切なものを犠牲(ぎせい)にすると思え?」

「托生さんになら何でも差し出せますよ」

 彼女のそれはマジだ。目がマジだと言っている。


 まあイヤな気は全くしないし、あたたかくて心地いいのでしばらくこうしていたい。

 托生はエイヂルの方を見ると、彼がなぜかこちらを愉快(ゆかい)そうに見ていたのに気がついた。

 エイヂルのあのやわらかそうな頬を引っることをあきらめたのは、肩の感触がとても心地よかったからだろう。


 馬車はそのまま、目的地に向かって闊歩(かっぽ)していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ