第13話『明るく優しい世界』
「昨晩は、本当にありがとうございました!」
托生が酒場に降りるやいなや、藪から棒に女性の店員に感謝された。
「えっと、どういうことなのかなこれは…」
「昨晩、助けていただきましたけど…覚えてます?」
「あっ、思い出した!」
「覚えていてくれましたか!ここの店員のリェル=S·ケビンと申します」
リェルは、とても親切な女性だ。
托生と同い年くらいだが、頑張っているのが微笑ましい女性である。
「…あの…お客さま、結構変わりました?」
「え?そうですかね?」
リェルは托生に、袋を差し出した。
「これ、助けていただいたお礼です!受け取ってください!」
その袋を開けてみると、800ポイントが入っていた。
「い、いただけないっすよ!」
「いえいえ!これはお礼ですので、どうか受けとってください!」
気圧された托生は、結局それを受けとることになった。これによって一文無しの汚名が消えるからいいのだが、そうでなければ彼は受け取ってはいなかっただろう。
「他にも何かあります?」
「まだしてくれるのかよ!?もう他には何も…あっ──」
托生は、自分の伸びきった髪に気付いた。
「じゃあ、最後に髪を切ってくれないか?」
「散髪ですか。承りました!ソータさん、ちょっと待っててくださいね」
「はい」
──托生はリェルと一緒に部屋に戻ると、リェルに髪を切ってもらった。
「サッパリしたなぁ」
リェルに散髪してもらいシャワーで流した托生は、結構キマっていた。
今までが長かったからか、爽やかな感じでいい。
「おぉ~、むっちゃいい感じだね!」
「ありがとうございます!」
料理もできて器用で清楚で応援したくなる。こんなに男好みの女性として完成された人はそういない。
まあ彼はソータ一筋なのだが。
酒場に降りると、ソータはオカマ店員と二人で雑談していた。
ほぼ同時であったが、二人とも三秒もかからずその変化を見抜いていた。
「あら!髪を切ってもらったのね!イケてるわよ!」
「すごい似合ってますよ!托生さん!」
リェルに目を向けると、微笑みながら頷いてくれた。
それに、托生の変化に驚いているのは、二人だけではないようだった。
朝食で賑わう冒険者が、彼の変わりように数多く困惑していた。
ここまで注目されるのは正直困惑したが、嫌な気分には不思議とならなかった。
「ゲバブルド、新しいギルドメンバーだよ!歓迎するわよ!」
オカマ店員は冒険者達に声をかける。
「よし、待ってたぜ!」
冒険者達の中から、金髪の青年が出てきた。
托生と変わらない年だろうし、身長も同じくらいだ。
「俺の名前は、“ゲバブルド=グリッフ”。このギルドのムードメーカーみたいなもんさ。お前たちは?」
「嵐丸托生だ。下が名前」
「ソータ=L·R·キュベルです」
「タクセイとソータか!俺達の新しい仲間として歓迎するぜ!」
ゲバブルドが托生とソータの前に手を差し伸べる。
二人がその手を握ると、ゲバブルドも彼の手を力強く握り返してくれた。
するとゲバブルドは、托生とソータの手を高く掲げて、こう唱え出した。
「俺たちとこの二人の出会いに感謝して、せーのっ…──」
するとそれを合図として、ギルドの全員が、コップを高く掲げた。
「カンパァーイッッ!!」
ギルドの全員は、朝だというのにコップの中の酒をぐいっとあおった。
「えっ!?朝なのに!」
「気にすんな!祝い酒さ!」
「分量をわきまえろ分量を!」
「はっはっ!気に入ったぜお前!」
「ありがとう!?」
驚きを隠せない托生の肩に腕を絡め、頬を赤くしたゲバブルドが言った。
「ようこそ!友情と酒と冒険にまみれた、クレイジーなカルルージュギルドへ!」
※托生とソータは、ギルドから街へ出た
「なあソータ、何か予定とかあるか?」
「予定ですか?うーん…ありませんね」
「…そっか」
少しがっかりした様子の托生。
「まあやれることなら、目の前にいくらでも転がってますけどね」
「…え?」
目の前には街が広がっている。
木製の馬車に、食べ物や装飾品の屋台、面白そうな建造物がたくさんある。
「…うん、確かにそうだな。じゃあ今日の予定は、この街の散策ってことでOKだな」
「異論ありません!じゃあ早速いきましょうか」
「おう!」
托生たちはウキウキしながら、この広い街に足を動かしはじめた。