第33話『ドーラの脅迫』
そもそも、クルトが金庫の鍵を持っていたのには事情があった。
ベレントからの命令を受け、金庫への32000ポイントの入金を頼まれたのである。
「やはりそうですか…」
ドーラは、クルトの返答に眉根を下げる。
「それは残念です」
こちらの誠意は伝えたので、クルトは一刻も早くこの場を去ろうとした。
「失礼しま──」
だが、クルトの腕が掴まれた。
※
「お前は、そこで脅されたってことか」
「…はい」
ただでさえの高身長、威圧感はただならない。
托生とソータですら初対面では、それを受けてろくに声も出せなかったのだ。
クルトの罪がいくら重いとはいえ、やはりどうしても同情が勝る。
「よし、よくわかった…自分を責める必要はない」
「そうですよ、あの脅しに逆らえば、命も危なかったのですよ」
「…」
だが、クルトはかぶりを振る。
「ですが、私が今回の事態に関与したというのは事実です。その責任だけは、取らせていただきます」
「「責任…?」」
クルトはそこからさらに付け加える。
「ベレントさんが抜けたチームに、私が入ります…そして、ベレントさんについて知っていることがあれば、全てお教えします」
「おぉー」「頼もしい限りですよ、是非ともお願いします!」
2人が歓迎してくれる。
「これは、すごい情報経路として期待できそうだ…」
「これからお願いします!クルトさん」
「ええ…──あと、加えて1つ、情報を」
「「…?」」
「ベレントさんがドーラさんと関わっているという噂は、事実なのです」
「「やっぱり!」」
2人は一斉に頷いた。
「ですが、私はまだ、希望を捨てたくないのです」
「希望…」「それはどういうことでしょう」
クルトは真摯な目で向き直る。
「ベレントさんは、正義の心に満ちた方です。現在、彼はきっと何か考えがあるのです」
「…ええ、それは私たちもそう思っていますが、何の証拠のないまま信用するのもいけません」
「それを1つの可能性として受け止め、俺達は今回の事態を切り抜く方法を見つけ出すんだ…」
「はい!どうかお願いします」
「ああ、それはベレントへの恩返しにもなるからな」
「ええ!最善を尽くします!」
クルトは真っ直ぐに托生たちを見て、頷くのだった。
※チェヴィルの部屋
「むー…」
「ど…どうしました」「不機嫌そうですが…」
チェヴィルは勉強のペンを机に叩きおいて、呻きながら貧乏ゆすりをするのだった。
「ほんっと…つまんないわ」
「「えっ?」」
「つまんないって言ったの!」
きっぱり言い切ったチェヴィルだが、姉妹はもはや釈然としない。
そこでチェヴィルは、一気に立ち上がる。
「よし、決めた!」
「…?」
「私、明日レベル上げに行くわ!」
「!?」
チェヴィルの我儘に付き合うのがこんなに億劫だと思った1日は、今までに1日たりともなかったろう。