第32話『クルトとベレント』
──クルトは青年時代、暮らしは裕福ではなかった。
父の企業はただでさえ小さく、上企業の嫌がらせに耐えることしかできなかった。
「クルト…この記事を見ろ」
「…これは!」
青年時代のクルトと少ないので社員は、父の見せてきた記事を見て目を見張った。
「僕らの手柄のはずなのに…どうして!」
「この野郎…自分の手柄のようにインタビューに答えやがって…クソッ!」
父とクルトは目一杯働き、成果を修めてきた。しかし、その手柄は全て上企業が総なめしていくのだった。
だが、逆らいようがなかったのも事実であった。
資金の援助は、その大企業の下でないと受けられないのだ。
しかし、そこで2人に、助け舟が出る。
だが、ベレントは窮地にある企業に、必要な資金を援助してくれるというのだ。
「こうなったからには、博打に出るしかない…!」
喉から手が出るような思いであったクルトの企業は、上企業との契約をかなぐり捨てた。
顔を真っ赤にして止める奴らを振り払い、ざまあみろという父の言葉を最後に、2人はベレントの大船に乗った。
──そして、契約の日当日
クルトと父はこの大事な数分間、目の前にいる1人の男から目を話さなかった。
ベレントは、その真剣な表情をほころばせてから語る。
「いいでしょう…貴社のご活躍は、しっかりと理解しています」
「「えっ!」」
ベレントに承認された…──その事実への喜びよりも早く、クルトらには疑念が現れた。
「えっ…!私たちは大企業に手柄を横取りされてきたはずだったのに…」
「そんなことはとっくにわかってますよ、あなたのその目が言っています」
「「目…?」」
ベレントは真剣に、迷いのない声で言う。
「今までの仕事への不満、そして最後の希望にすがりつき、しぶとく生き残ろうと真剣な目です」
「…!」
「新聞の彼らの様子よりも、よほど逞しいですよ?やはり、こういうことだったんですね──そんなあなたたちに敬意を表し、4700の支出を与えます」
「よ…4700!?」
「なーに…ただとは言いません」
「え…?」
ベレントはニヤリとしてから、2人に微笑む。
「あなたたちの功績で肥えた、彼らにとってですが…ね?」
「「…!」」
2人は嬉しさに、涙すら流して頭を下げるのであった。
※
「それが…クルトさんとベレントさんの出会いだったのですね」
「はい…ベレントさんは、私にとって神様のような人です。彼のおかげで父の会社は、世評も株価も上がり続けたのです。優秀な人材も多くやってきました」
「それが…あなたがベレントさんを敬愛する理由か…」
クルトはそこから、ほんのり笑みを浮かべる。
「その後私は、恩返しの意も込めて、彼の下で働くことを決意したのです──そして嬉しいことに、私は素質を認められ、ついにそれが叶ったのです」
「それはさぞ嬉しかったでしょうね」
「ええ…僭越ながら勤勉に働きましたよ──…結果、ベレントさんにも信頼をおかれる人間にもなれたのです」
だが、クルトは表情に陰がさした。
「まさか彼のような誠実な方が…あのようなことをするなんて──」
「「…!」」
托生とソータは、心当たりがありすぎた。
※1ヶ月前──…
何気なく廊下を歩いていたクルトは、そこである一人の男と遭遇することになる。
それが、まさしくドーラであった。
「聞きたいことが…ございましてねぇ…?」
ドーラは、相変わらず意味深長な笑みを浮かべている。
「な…何でしょう?」
クルトは、彼の放つ謎の空気を感じてはいた。
それでも彼は、誠実さゆえか、ドーラにも一切たじろがぬよう努めていた。
「お伺いしますが…──」
「…?」
「秘密の金庫はどちらに?」
「!?」
その時、クルトの心臓が強く打たれた。
彼の動揺には、事情があった。
「…私は新任1ヶ月にも満たぬ人間ですので、そちらの鍵を持っておりません」
クルトは動揺を打ち消して、そう言う。
だが、彼は1つ種を仕込んでいた。
…クルトは今、鍵を持っているのだ。