第31話『クルトが握るカギ』
予想外の告白に、托生とソータは驚愕する。
「お前が…ドーラに!」
「なんてことを…」
2人の様子にも、クルトは黙っていた。
兵団たちも、その空気に固唾を呑む。
「…」
「何でそんなことをする必要があった!お前にはなんの得もないだろう!」
托生はクルトに、そうやって切に訴える。
だが、彼は托生から目を逸らすようにして、下唇を噛んで黙っていた。
托生はどこか、それを不思議に思っていたが、彼自身の正義感のために口を止めはしない。
「お前のそれが明るみに出れば、お前の人生はメチャクチャになるんだぞ!わからなかったのか!」
それでも目を合わせようとはしない。
「(こいつ…いったいなぜ、こうも目を背けるんだ…──絶対に何かがおかしいぞ…)」
托生が解消できない違和感にかられていたその時…──
「いったい、何をそこまで隠す必要があるのですか?」
「…」
「…!ソータ…」
「隠し事をする目です…そして今、強く動揺しましたね──隠し事など必要ありませんよ…話してください…!」
クルトは、彼女のその一言に、短い嘆息を漏らした。
「やはりベレントさんの言うとおり、あなた方には隠し事はできないようです」
「…!」
托生は、クルトの変化に驚く。
「…やっぱりそうでしたか」
クルトの態度は、なぜだか急に変わった。
彼はため息をついてから、襟ポケットのケースから眼鏡をとってつける。
「ベレントさんからは、あなた方からは極力目を逸らせと教えられていたのですが…」
「この際、全てを話してください!お願いします!」
ソータのその一言を聞いてから、クルトはソータに向き直った。
「安心してください…ここまでわかられると、誤魔化す必要もありませんので」
「それって…──」
クルトは言動とは対象的に、その表情にはどこか安堵の色があるようにも思えた。
この場の全員が、それに疑問を覚える。
「私はただ、ドーラ様に脅されただけなのです」
「な…なんだ!そうなら早く言ってくれ」
胸を撫で下ろす托生だったが、クルトはまだ真剣そうに、彼に語るのだった。
「申し訳ありません、それにも事情がございまして」
「「…?」」
クルトは、その事情とやらを語る。
「ソータさんは、ベレントさんの裏事情に気づかれたようですね」
「はい…ドーラ様と手を組んでいるとか」
「そこをお二人が理解されているのなら、話は早いですね」
クルトはいよいよ覚悟を決めたようだ。
「全ては、私がドーラさんに脅され、金庫の在処を吐いたことから始まりました…──」
※
──時は、2ヶ月半前に遡る…
いかに魔法が普及浸透したとしても、国を支えていたのは間違いなく、人間の天性的な知性に他ならなかった。
ドーラが事件を起こすまで、バンカーらの仕事は順調であった。
全員が勤勉に働き、そして結果を出し、王国のために尽くしてきた。
「こちら計算お願いします!」
「お任せください…──南方向の書店に、最低金額2740ポイントの支出です、西のレストランが4720となると、中央運輸からの差し引きもなく、支出にも263730の余裕ができます」
ベレントは、メモにひたすら数式を書いていく。
驚きの計算力だが、彼は表情が浮かない様子だ。
「育児センターへの返還もうまくいけそうですね」
「もちろん行います、うちらの資金学は、昨年の167%…もしくはそれ以上です──これも全て、優秀な新人君のお陰ですよ…」
ベレントの意見で、オフィス内の全員の視線はある一人に向く。
「今回の仕事も、とてもスムーズにこなせていましたよ。クルト」
「ありがとうございます…まいっちゃいますよ」
ベレントに褒められ照れているのが、クルトである。
「ひとまず今月のノルマは達成だぜ」
「残り半月のうち1週間は実家帰りできるかもな」
「言ってくれたら有給出したんですよ」
「えっ!言ってくださいよ!」
おだやかなムードのオフィスは、ベレントを中心に笑いに包まれる。
ベレントは、部下に気を配り、仕事を決して疎かにせず、信念をもって働く理想の仕事人であった。
クルトはそんな彼を敬愛していた。