第30話『王国兵のところへ再び』
「敬礼!」「「「お疲れ様です!」」」
久しぶりにやって来た、王国兵の訓練場。
とはいえ1週間ほどの間だったので、2人の顔は覚えられていたが、何やら一同は、どこか活力がないようにも思えた。
「本日は、聞きたいことがあって来たのです」
「…聞きたいこと…ですか」
ソータがそうやって言うことに、司令官らしい男は怪訝そうにする。
「再度、ドーラについて聞きたいことがあってな」
「…──ドーラさんについて…ですか」
司令官は、しばらく黙った後に復唱する。
その額には、よもや脂汗が浮かびはじめていた。
2人にとってその変化は、彼が強い動揺を受けたという疑惑を、事実として確証づけていた。
司令官は、深呼吸をして伝える。
「実は、私たち兵団とドーラ団長との関係は、浅いのです」
「え?どうしてです」
ソータは、その発言に強い疑問を受ける。
その理由は、彼の目が嘘を言っている風ではないということであった。
他の兵も口を挟んでくる。
「そうですよ。彼はこの特訓場にも来られませんし、暇さえあればアングワーナに向かって行くのです」
だが、托生は単純な疑問を投げかける。
「どうしてそんな人間が団長に…」
この話を聞けば、きっと誰しもがその疑問を覚えるはずだ。
だが他の兵も、それは自分たちも知らないのだという様子である。
──だが、托生とソータは、ここで食い下がることはなかった。
「ですが、情報が少しでもあれば教えてください!非常事態なのです!」
「非常事態…?」「私たちも説明を要求します」
どうやら彼らも、本当に今回の話を知らないと見えた。
托生とソータは、アイコンタクトをとる。
「(今回の話、伝えるべきなのか?)」
「(彼らが私たちのことをリークするとは思えませんよ?)」
「(それは俺も思ってるけど、今回の議題は最高機密の可能性もあるんだ)」
「(確かに…)」
そういった流れで、今回の話は明かさぬことになりそうだったが…──。
ガチャ…
ドアが開く。
中に入って来たのは、一人の男であった。
服装を見る限りはベレントと似た感じだが、その容貌ではどこか、ひどくやつれた様子である。
「…」
そして入ってくるや否や、彼の視点は、托生とソータの方を向いて留まった。
「「「?」」」
なぜかは知らないがこちらを見つめる彼に、その場にいた全員は呆気にとられる。
そしてその男は、こちらに歩み寄ってから、立ち止まり、話しかけてきた。
「…防衛戦士の、托生さんとソータさんですよね」
「え…ええ」「そうだが、何かあるのか?」
托生とソータが質問にそう答えると、しばらく経ってから、彼は意を決したように切り出す。
「…──ベレントさんの部下の、クルト=ルーイと申します」
ベレントの部下──その言葉で2人が察したのは、このクルトという男が、ベレントの差し金でやって来たということだ。
現段階ではまだ疑惑に過ぎないが、1つの可能性として、疑っておくのだ。
「わかった…」「ではどこへ行きま──」
「ここで結構です」
「「!」」
クルトは言い切った。
兵団の集まるこの場で、何を話すというのだろうか。
「お二人がご存知の、ベレントさんとドーラさんの密会についてです…」
「なっ…!?」「!」
兵団一同にも届くような声で言い切ってみせたクルトに、2人は驚きのあまり言葉を失うのだった。
「ここでその話をするのか?お前はその話の重要性をどれだけ理解してるつもりで──」
「よくわかっていますとも」
托生が言うのを遮って、クルトは淡々と言い切る。
「それではなぜ…あなたの上司であるベレントさんに、圧力をかけられてしまえば…」
「もう慣れっこですよ…そんなことは」
「「…?」」
2人は、その言葉をどう受け取るべきか迷っていた。
だが、周りの兵団は、もはや何もかもわからないという様子である。どうやら、彼らは今回の話を、一切誰からも知らされていないらしい。
「ドーラさんに圧力をかけられたのは、私も同じです…」
「それって…どういう…」
クルトは一度ため息をついてから、胸のうちを告白した。
「──ドーラ様に秘密の金庫の在処を教え、キーを渡したのは、この私です」
「なっ…!?まさかお前──」
ドーラが秘密の金庫の在処を知っていた理由が、今になってやっと釈然とした。
このクルトという男は、この事件に貢献した1人なのだろうか。