第29話『事件の解決を見据えて』
托生とソータは、部屋へと戻っていた。
お互い違うベッドに寝ながら、話を交わす。
「チェヴィル様の覚悟は、あそこまで磨かれたのですね。少し驚きました」
「そうだな…あそこまで誠実で、勇気がある少女だとは思いもしなかった」
「彼女のあの誠実さは、いったいどこから出てくるのでしょうね…」
チェヴィルがラトカらに言い切ったあれは、彼女の覚悟あってこそのものであろう。
それも、並大抵のものではない。
きっと彼女も、姫としての常識から抜け出すのにも、強いプレッシャーがあったろう。
「チェヴィルは周りの全てを受け入れつつ、それでも自分のことをはっきりと押し通した…そうできることじゃない…尊敬モノだ」
「同感です」
ソータは托生の意見に頷くのだった。
「だけど…」
「…」
そこで托生は、逆説に入る。
「志の高さがあったとしても、力がないとそれを押し通すことはできない」
「…ですね…彼女を狙う者も、きっと出てきます」
ソータも、托生の意見に首肯する。
さらに、それを踏まえて彼女は続ける。
「姫様は魔法の才能は極めて高いですが、技能や体力の面では、はっきり言って、まだ未熟と言わざるをえませんね」
「ああ、俺たちはチェヴィルに、力が必要だとは言ったが、所詮は自分の身を守れるようになれと言ったまでだ。だが、あいつに王国を守る覚悟があるなら、なおさら強さを追求してもらう必要がある…」
チェヴィルは今、殊勝な目標とは裏腹に、現実の強い逆風にさらされていた。
「国王からの承認がないので、現在姫様は、まだ正式な防衛戦士ではないですし…──どうなのでしょうか…」
二人は、同時に深いため息をついた。
「──それに、俺達が向き合う課題は、まずはそこではないんだよな…」
「ええ、そうですね」
托生とソータの表情は、さらに真剣味を帯びた。
二人の意見は、まさしく合致していた。
「それに、この問題に直面しているのは、俺らだけじゃない…」
「むしろこの問題は、最悪の事態ですからね…」
それは言うまでもなく、ドーラを追う事件についての話であった。
「ここまでややこしくなるとまいってしまうな…」
「そもそも、あのベレントさんまであちら側に着かれてしまっては…」
二人はその姿勢のまま考え込む。
そしてしばらく経ったあと、ソータが起き上がった。
「これは、もう一度確かな情報収集が必要そうですね」
「何か宛があるのか」
「ベレントさんやドーラさん以外にも、きっと有力な手がかりを持っている人がいる筈です」
「なるほどな」
托生も起き上がって、ベッドから立つ。
「だが、その行動が二人に知れたら何をされるか…」
「…ええ、革新には、きっと隠密な行動で迫るべきでしょう…」
ソータも立ち上がり、深く息をついた。
そして、托生とソータは見つめあった。
「本日の予定は決まりましたね…」
「ああ…」
※
廊下を歩きながら、托生とソータは話し合っていた。
「王国兵に、今回の事件の情報を教えてもらうのか…」
「おそらく、それが最善だと思います」
「…そうだろうな」
ドーラは、王国兵団の団長として、兵との関わりはきっとあるはずだ。
「確かに、情報収集には最高の相手たちだな」
「ですよね?」
お互いに意見が合致し、2人はそのまま歩いていく。
「──…?」
目の前から、誰かやって来る。
「(あいつは…)…」
「…」
ベレントである。
今の事件の、第2の参謀者として疑いのある彼は、しばらくこちらを見つめていた。
「「…?」」
2人とも訝しく思っていると、何食わぬ顔でこちらに近づいてきた。
托生とソータは正直動揺したが、ベレントも立ち止まらず、こっちが呼び止めることもなかった。
「「…」」
沈黙の中で、2人は思わぬ邂逅に静まりながら、前へと進むのだった。