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第27話『チェヴィルの決断』

 チェヴィルの、ドーラに怯える夜は明けた。

「大丈夫ですか?」

「ええ…セインと一緒にいたから」

 ソータからの質問に、彼女は落ち込んだ声で返す。

「何だか元気がないようだが…」

「ええ、あの事実は、伝えるべきではなかったですね…」

 托生とセインは、彼女の様子を按じて言う。

 セインは、昨日の発言の反省を胸に、表情を暗くするのだった。

「いいえ、そんなことない。私が弱いせいなの…」

「「…」」

 カトラとラトカは、そんなチェヴィルの様子を見て驚く。

 怯える様子の彼女は、今までとは違い、自負的な立場でものを言っていた。


「チェヴィル…」「チェヴィル姫…」

 托生とソータは、それを特に気に病んでいた。

 彼女をこのようにさせたのは、まさしく彼らの発言だったのだ。

『──元から、弱くあるつもりなんかないから!』

 托生とソータの言葉は、彼女からこの言葉を引き出していた。

 二人も、彼女にその気持ちが必要であるとは思っていた。

 特に、ミィに教わったこと。無力とはひどく脆いということだ。

 レベル20程度のチェヴィルでは、レベル50を超えるドーラに力が及ぶことはない。

 だからこそ、チェヴィルには修行が必要だとは言ったのだが…──

「私はもっと修行して、自分の身を自分で守れるようになりたいの」

 単純なチェヴィルはそれを真っ向に受けてくれたが、箱入り娘のチェヴィルに、今回の目標はなおさら重たい。

「がんばらなくっちゃ…もっと…っ!」

 二人はチェヴィルに、ドーラの件ともう一つ、彼女を追い詰める要因を作ってしまった。

 だが、彼女にとっては必要なことだ。止めようもなかった


「──気にしないでください、セイン王子」

「ああ…責任は全て俺たちにある」

「「「え?」」」

 その場の全員が、二人の方を向く。

「今のチェヴィルさんには、必要なことだと思ったのです」

「自分の身を自分で守るための能力は、チェヴィルにどうしても身につけてもらいたい」

「…確かにそうですね」

「ワシらも、甘やかしすぎたか…」

「守るだけではダメなようです」「しっかり修行しておかないと」

 自分たちの想像以上に、チェヴィルは強い勇気を持っていたということに、一同は驚嘆するのだった。



「今回のチェヴィルの悩みは、俺らが引き起こしたってことになるんだが…」

「私たちは、その責任を取らないといけませんね──」

 二人がチェヴィルの方を見る。

「え?」

「俺たちはチェヴィルの、レベル上げのサポーターになることにする」

「「「サポーター?」」」

 チェヴィルは今後、自分のレベルを上げることになる。上げなければならなくなる。

「チェヴィル姫はこうなった以上、強くならないと気が済みませんよ?──どうです?チェヴィルさん」

 ソータの質問を聞いて、チェヴィルは頷く。

「当たり前でしょ…私にできるのは、ただそれだけなんだから」


 かなりのトンチが効いているが、チェヴィルも進んで受け止めている。

 もはや止めることもないと思うものの、どこか気のすすまない者もいるらしい。

「とは言っても…」

「ラトカさん…」

 ラトカはどこか、よく思っていなかった。

 ソータはそんな彼女の拒絶に、胸を痛める。

「え?何でだ」

「お二人は防衛戦士であって、姫様の教育係ではありませんよ?」

「あっ」

 二人は、それも一理あると頷かざるを得なかった。

「…確かに…そうだな」

「ちょっと調子に乗ってたかもしれませんね…」

 青菜に塩といった様子で活力を失う二人。

 ラトカは、申し訳無いと頭を下げるのだった。


「だが、これではチェヴィルの向上意識が水の泡じゃないか…」

「…ですが、王国防衛戦士のお二人の仕事が疎かになっては…」

「う…仕方ないのか…」

 しょんぼりとする托生。

 ラトカも、姫につかえるメイドという立場において、優先させたのはそこだった。

「民の安全の保証に、二人は欠かせませんしね…」

 カトラも、ラトカの意見に賛成する。

「確かに、今の現状が現状だしなぁ…」

「ベレントさんと国王の件もありますし」


 だが、チェヴィルはそれを踏まえて言う。

「──何よ。そんなの私が防衛戦士になれば解決じゃない」

「「天才ッ!」」

「「いやダメですよ!」」

 托生とソータが称賛したが、ラトカら二人は否定した。

 今までに見せたこともないような焦燥だ。

 それもそのはずである。今の発言は裏を返せば、自主的に姫という立場を降りるということである。

「何でだ!考えてみろ!俺たちが3人で組み、お互いに成長する関係をつくるんだぜ?否定できるとこがあるか!」

「私たちの立ち位置は一切崩れていませんから、お二人の言ってる課題はクリアできていますからね!」

「いいえ!もっと別の問題が発生してますから!」

「姫様の立場が守られていませんよ!」

 ラトカとカトラは必死になって言う。

 それも至極当然、チェヴィルはこのガルシェット王国の姫にあらせられるのだ。托生やソータがどうこう言ったところで、それは揺らぐことはない。

 托生とソータを絶対に止めなければならないのだ。


「チェヴィル様!危険が伴います!どうかおやめください!」

 嘆願するように訴えるラトカ。

「セイン様もめてください!」

 カトラもセインに言う。

 だが、セインは止める様子はなかった。

「僕は、チェヴィル姫のご意見を尊重します」

「なっ!?王子様まで…」

 最後の希望が途絶え、二人はもはや声も出なくなる。

「セイン!わかってくれるのね!」

「ええ、ですが僕はまず、あなたのまっすぐな意思を聞きたいのです」

「い…意思…」

「本来なら僕は、ここであなたをひき止めなくてはなりません…──ですが、あなたの思いを踏みにじることも、僕はしたくありません。ですが、あなたのご意思がはっきりとわからないと、僕たちはどうしようもないのです」

 彼の発言に、托生とソータは顔を見合わせ、アイコンタクトをとる。

「(確かに、チェヴィルをおいそれとは戦士にできない…だが、チェヴィルの意見も尊重したい…)」

「(まずは意見を聞かないとですね)」

 そうしてチェヴィルは語りだす。


「私は今こうして、姫として守られながら生きてる…でも──」

「「「…」」」

 チェヴィルはそこから、一気に切り出す。

「でも、私はその生き方に、何の意味も見いだせないの」

 きっぱりと言い張ったチェヴィルに、全員驚嘆するのだった。

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