第26話『王城への帰還』
「やっと…戻ってきたぁっ」
5人はついに城へ戻り、中でもチェヴィルは最も早く城へ飛び込みたいらしい。
「おかえりなさいませ…」「かなりお疲れのようですが…」
ラトカとカトラが出迎えてくれ、チェヴィルはすぐに抱きついた。
二人はその様子にわからない様子。
托生とソータは中に入るが、操縦士二人とはここでお別れだ。
「それでは、私どもはここで」「お疲れ様です!」
「ああ、ありがとう!」「お世話になりました!」
托生とソータがそう挨拶をすると、ラトカらも彼らに、「「ありがとうございました」」と言う。
離れてゆく彼らを見送った托生とソータは、ラトカとカトラに今回の成果を伝える。
「今回のチェヴィルさんのレベル上げ、文句無しの成果です」
「これ以上なく完璧だったよ」
ラトカとカトラも、それには自分のことのように喜んでいた。
だが、とうの本人のチェヴィルは、ラトカとカトラに顔をうずめるばかりであった。
「何か…ありましたか?」
「ああ…いろいろとな」
※
「チェヴィル姫は、割と遠くにあったアングワーナから、強い恐怖感を感じたらしいのです」
「アングワーナから…──そうなのですか?」
「…うん…」
チェヴィルも少し落ち着いたらしく、カトラに小さい声でそう返す。
ラトカが水を与え、ついにチェヴィル本人から語られる。
「レベル上げが終わって馬車で帰ろうとしたとき…“オーク”に襲われたの…」
「オーク…──その状況をどうやって切り抜けたのです?」
「托生が倒してくれたの…」
カトラとラトカの視線が托生に向く。
「アイツ、なかなか強かったぞ…3連続のCスマッシュでは応えなかった」
「そんなに強かったのですか…」
「久々の5連続で仕留めたが、ヤツのタフさは、こうもしないと崩せなかったろう」
そして、托生はオークの特異点を忘れてはいなかった。
「アイツは、『姫を寄越せ』と言っていた…」
「!?言葉を喋ったのですか」
「ああ…」
托生にはグレムリンの前例があるため驚くことはなかったが、二人はそうはいかぬようだ。
喋るモンスターを聞いたこともないのか、托生の言うことに目を見開いていた。
「──詳しく話を聞いてもよろしいでしょうか」
「「「…?」」」
突如隣から話しかけられ、一同はそこを見る。
すると、中でもチェヴィルが最も表情を明るくしていた。
「セイン!」
「?」
チェヴィルの呼びかけに、セインは微笑んだ。
※一同は、チェヴィルの部屋へ
「なるほど…そんなことが…」
「そうなの!」
チェヴィルはセインに、今回のことについて語った。
セインはかなり早くそれを理解したらしく、托生とソータは不思議だった。
「托生さん、ソータさん…姫様を救ってくださり、ありがとうございます!」
「え!いや、俺達の使命ですから!」
「頭を上げてください!」
だが、セインが顔を上げると、そこにはもうにこやかな表情はなかった。
「レベル42のオーク…ですか」
「…え?」
「…ここであなたに伝えるには、とても難しいと思われますが、どんな答えでもでもお聞きしますか…?」
「…ぉ…おう」
それを聞いて、セインは語りだす。
「オークは、群れで生息します」
「「「ッ!?」」」
一同が目を見開く。
驚きのあまり声を失ってしまった。
「それは…本当なんですか…」
ソータがそう問うと、セインは間髪入れずに答えを返す。
「ええ」
オークと実際に戦った托生には、最も強い驚きがあった。
「まさに20体ほどのオークが束ねる軍があるということも、囁かれていますよ?」
「アレが…20体も」
托生は、ますます自分の無力さを知る。
アレを何体もの数相手にするとなると、托生に勝機がないのは明らかである。
「姫を寄越せとオークが言うのなら、チェヴィル姫を護る警備をさらに上げなければなりませんね…」
チェヴィルがさらに震える。
ラトカとカトラが彼女を抱きしめることでマシにはなっていたが、彼女の幼い心に、恐怖は重たくのしかかっていた。
「托生さん…他に何か情報はございませんか?」
それに、托生は心当たりがあった。
「俺はオークに聞いたんだ…なぜチェヴィルを狙うのかと…──するとヤツはこう答えたんだ…『ヒメモトメシアルジヘ』と」
托生は、その言葉の『アルジ』という言葉が引っかかって仕方なかった。
「アルジですか…大体のことは察せましたよ」
「なに…!」
セインは、自分の推測を語りだす。
「オークには、忠誠を誓っている者がいるのです…それも、オークではなく、人間の」
「人間のだって?」
一同は、その見解に理解ができない様子であったが、セインはすぐに詳しい説明に入る。
「何の冗談でもありませんよ。オークがヒトの言葉を喋るなんて、前代未聞です。誰かがオークにヒトの言葉を教えたのでは?」
「だが、あれだけ強いオークを屈服させるってのは…」
「…私にもわかりかねます」
一同は、再び暗黙に戻る。
そして、その暗黙もセインが断つ。
「──…あと、姫様はアングワーナから気配を感じたそうですね?ですよね?姫様」
「うん…」
チェヴィルは小さく頷く。
「…なら、もしかするとそれは…」
「…?」
托生とソータは、セインの表情を見る。
「「…!」」
顔の幼さが嘘のように、刃の切っ先のような剣幕をしていた。
「ラトカさん…カトラさん、本日が何の日か、ご存知ですか?」
「えっと…本日は…──!?」
カトラとラトカの表情が、同時に硬直する。
「「ドーラさんが、城から出る日…」」
チェヴィルは、その時ハッとする。
「私は…あの時…まさか」
チェヴィルがセインを見ると、彼は頷いていた。
「見られていたの…!?」
「…はい」
一同の空気は、凍りついた。