第25話『さらなる可能性』
最初の戦いの場から変わり、そこから何百メートルも離れたところで、Cスマッシュに吹き飛ばされたオークは発見された…──
「くそッ…久々の強敵だった…」
托生は、久々の5連続Cスマッシュに、腕を震わせていた。
そして、今回苦戦を強いられたオークの死骸を、再び見やるのであった。
「(いくらlv42とはいえ…lv45の俺が、5連続のCスマッシュでしか倒せないほどに強いなんて、にわかには信じられないな…)」
スピードはきわめて遅いが、パワーとタフさは驚きのものだ。
「ここまでタフだとは思わなかった…ひょっとすると、これからはこれだけタフなヤツには、何度も出くわすかもしれないな…」
托生の腕の痛みが、少しずつ引いてきた。
「5連続じゃ、足りないかもしれないな…」
托生は、その言葉の重みは十分知っていた。
「魔力消費も身体負荷も半端じゃないこの技…下手に回数を増やそうとするのは自殺行為…だが、目指すのは悪くないかもしれないな…」
ボスグレムリンにトドメを指した、8連続のCスマッシュを思い出す。
「あの時は、ソータとミィの魔力が、急に俺とリンクし、俺にただならぬパワーを与え、ようやく8連続まで追いついたんだ」
だが、托生はさらなる技のランクアップを望んでいた。
──そこに、ソータとチェヴィル、操縦士2人がやって来る。
「おう、治ったのか?」
「「おかげさまで…」」
4人は、そこに倒れるオークの亡骸を見て、これだけ強大なモンスターをひとりで倒した托生に驚いていた。
だが、ソータは少し托生に聞く。
「少し、手こずりましたか?」
「ああ、しばらく平和に甘んじたことで、腕が鈍ってしまったんだな…」
「これは、しばらくは修行に専念したほうがいいですね…」
ソータすらも、回復魔法を使ったことで、自分の技の衰えに感づいていた。
2人が戦いから遠のいた日々は、ざっと6日。
レベルがいかに上がっても、それを活かすことがなければ、グングン鈍っていくのだ。
※
…──だが、ソータは調子を変えて、語りだす。
「チェヴィルさんの働きは、とても良かったですね!」
「お?チェヴィルが!」
「頭が痛い中でも、彼女は回復魔法をかけ続けたんですよ」
「すごいな…お手柄だぞチェヴィル」
「べっ…別にそんな大したことは」
チェヴィルは頬を染めて目を反らす。
照れ隠しだろうか、とても可愛らしい。
「そんなことはありませんよ姫様!」「助けていただき、ありがとうございます!」
操縦士二人も、心から礼を言う。
それに、チェヴィルの顔からは、笑みは隠しきれなくなるのだった。
一同が笑顔になり、平和な時間が過ぎゆく。
その時の出来事であった。
「ひっ…」
チェヴィルの笑みが途絶え、恐怖に歪む。
托生とソータが気付くまでもなく、チェヴィルはそこに腰を抜かした。
「…!大丈夫ですか!」
「チェヴィル!」
「…え…?」
チェヴィルの頬には、汗すらも浮かんでいた。
「背後から…なにか…」
チェヴィルは、恐る恐る後ろを振り返る。
2人も、それにつられ見る。
じっくり目を凝らすと、そこには大きな森があった。
視界いっぱいの森…──耳を凝らすと野鳥の鳴き声も聞こえてくる。
だが一同は、それに何かがあると感じ取っていた。
「何だ…あの森は」
睨む托生に、操縦士のひとりがこぼす。
「アングワーナ…」
「なに…?」
「アングワーナですよ…緑の檻と言われる…」
以前、王国兵から聞いた情報にあった。
ドーラが足繁く通うという森だ。
チェヴィルは過呼吸のような状態に陥る。
彼女のそれを招いた恐怖とは、いったい何だったのか。
まるで森そのものに睨まれるような…──そんな恐怖であった。
「ひとまず撤退するぞ、森からチェヴィルを隠すようにして、馬車へと戻ろう」
一同は、チェヴィルを隠すように、馬車へと戻るのだった。