第22話『レベル上げの終わり』
2kmの道を戻り、とうとう馬車が見えて来た。
「戻ってきたぁ…」
「お疲れか?」
「ええ…帰ったら思いっきり寝てやるわ。最近頭が痛いことばっかり」
二人はチェヴィルに笑う。
──ついに馬車のあるところにやって来た。
操縦士二人が出迎えてくれる。
「「ご苦労さまです」」
「別に苦労でも何でもないよ──というか、ここ一帯でよくモンスターに出くわさなかったな…」
辺りは荒野…ランナーリザードなどのレベルの高いモンスターに餌場を追われるモンスターが多少いる筈だが、それはどうやらいないらしい。
「ええ、以前まではいたのですが」
「しかも、鳥の鳴き声1つしませんね…」
ずっと閑静な、違和感もあるこの場で、次に事件がおこる。
「ブヒぃイイッ!!」
突如響く豚の鳴き声。
気付けば、その岩場全帯が震えはじめていた。
「!?何なのこれ!」
「わからん…」
──ドッ…ドッ…ドッ…!
「何かが、近づいてきているのでしょうか…」
そして、岩場の岩を壊し、その鳴き声の正体が現れる。
「ブヒッ!…ヒイッ!」
5mほどの巨大な豚、ソイツの顔が巨大な岩肌から現れる。
ただしそいつは2本足で立っており、手には大きな棍棒が握られていた。
「ヒメ…ヨコセッ!」
「なにっ…コイツ、ヒトの言葉を喋るのか!?」
予想外の事態が多すぎる。
あのときのグレムリン達のように、コイツはモンスターにしてヒトの言葉を喋るらしい。
「ヒメを寄越せ…?チェヴィル姫が欲しいということでしょうか?」
「どのみち渡す気はないが、何だコイツ」
『オーク(lv45)』
そのモンスターのレベルは、40を超えていた。
「lv42だと…!」
「チェヴィル姫を安全な場所に連れていかないと!」
だが、そんな暇を与えることもなく、無慈悲な攻撃が一同を襲う。
「ヨコサヌ…ナラッ!コロス!」
そう言ってから、オークはその手に握る棍棒を振り下ろす。
目的は馬車だ。
「まずいですね…!ストリームレーザー!」
ソータの緑の光線がオークを襲う。
それはソイツの体に直撃したが、怯む様子はなかった。
「…!」
チェヴィルも驚く。ここで彼女は、自分はこのモンスターに勝てないと感じ取っていた。
──それがさらにヤツの気分を逆撫でした。
「ガァアッ!」
オークが腕を横にブンッと振ると、それは操縦士二人を吹き飛ばす。
「「ぎゃァーっ」」
「!?──大丈夫かっ!」
操縦士二人のレベルは、30以上は優にある。
何とか致命傷は避けたらしいが、このままでは逃げることはできない。
「ソータ!チェヴィル!ここから離れて、その二人を癒やしてくれ!」
ソータは頷いてから、チェヴィルと二人で、操縦士を連れてここから離れる。
「マテ…!」
オークが呼び止め追いかけようとするところを、托生がその前に立つ。
「こちとら姫を護る戦士だからな!姫が欲しいんなら、俺を倒して向かえ!」
「ジャマスルナラ…コロスゾ!」
「お前には無理だ!ベーコン野郎!」
托生はオークと向かい合い、戦いが始まる。
※
オークと托生のいる場所から、操縦士を引きずりながら4分走って、ソータはその二人に回復をかける。
「──ここなら大丈夫です!今から回復をかけます!」
「「ありがとう…ございますっ」」
ソータのかける魔法の効果は、かなり早く顕れる。
「あぁ…」
痛みが和らぎ、傷は癒えてゆく。
チェヴィルは何もする余地はない。それを最も悔やむのは、彼女自身であった。
チェヴィルは魔力も残り少ないなか、一人に回復をかける。
「…うっ…ぅう…くっ!」
頭痛はひどい。それでも、彼女はまだ諦めない。
「チェヴィルさん…あなたはもう──」
「働かなくていいっていうの!?二人ともケガしてるのよ!」
「!」
強く言い切る彼女に、ソータは押し黙る。
「私はあなたと違って、まだ魔法の実力も未熟だけど、人を癒やすくらいはできるわよ!」
「…」
実は、チェヴィルよりもレベルの高い操縦士を癒やすとなると、効果は期待できない…。
「チェヴィルさん…やめてください」
「どうして!」
チェヴィルはその目に涙を湛え、それをやめないと主張する。
「違います…」
ソータはポケットから液体の入った瓶を取り出す。
「え…?」
「魔力回復のポーションです。それ以上の無理はいけません。魔力を回復してください」
「私…このまま癒やしていいの?」
「いいんですよ!あなたのまっすぐな心に驚いちゃいましたから」
「…!ありがとう!」
チェヴィルはそれを飲み干して、ソータのアドバイスのもと回復魔法に取り掛かるのだった。