第21話『姫のレベル上げ』
「…ここか」
3人が到着したのは、王国から出てすぐの荒野だ。
馬車によってここまで送られたのだが、目的地より2km早く下ろされた。馬車はlv32の王国兵二人の操縦だが、もしものことで馬車が壊れてはならない。
そして一同は目的地についた。
「何か…何もないわね」
「ここではレベル18以上のモンスターが大暴れしてるからな…そいつらが繁殖しすぎるせいで、絶滅まで危惧されるモンスターまで出てるって話だ…」
振り返るようだが、チェヴィルのレベルは21だ。
lv40を優に越す托生とソータの監督でレベルを上げれば、大きな進歩が期待できる。
ソータはチェヴィルに聞く。
「今までのこういった経験は?」
「2回くらい…でも、今まではこれよりもモンスターが弱かったわ」
「…そうですか、あなたは私たちがお守りしますが、自分勝手な行動は命取りなのでなさらぬように」
「わ…わかった」
チェヴィルは汗を浮かべ、返事を返した。
はっきり言うべきことを言ってくれたソータに托生は感心して、周囲を見渡した。
「来たな…」
荒野の奥から現れこちらに韋駄天と走ってくるのは、3.5m弱の巨大なトカゲだった。
「何アイツ!」
「アイツは、ランナーリザードです!」
『ランナーリザード(lv18)』
足の筋肉がすごく発達している。だが、チェヴィルの方がレベルが上だ。
「さあチェヴィルさん、アイツは直線にしか動きません。こちらからの距離は9mですが、しっかり狙って、ウィンドボールを決めてください!」
「わかったわ!」
チェヴィルも、ソータのアドバイス通りにやる。
彼女は以前、ソータにウィンドボールのコツを教わった。
「行くわよ!ウィンドボール…それっ!」
手にとびきりのエネルギーを溜めて、チェヴィルはヤツ目掛けて投げる。
そのボールは、すさまじいスピードをもってヤツの頭に直撃した。
「ギシャアアーッ…」
奥からランナーリザードの断末魔が聞こえると、ヤツの体は倒れた。
「や…やった!」
「お見事です!チェヴィルさん!」
「楽勝ね!lv18なんて敵じゃないわ!」
鼻を高くし胸を張るチェヴィル。
托生とソータの二人は顔を見合わせるが、チェヴィルはその様子に不思議そうだった。
「ほれ、あそこ見てみろ」
「え?」
チェヴィルは托生の指を指す場所を見ると、そこにはランナーリザードが一匹立っていた。
「アイツ、まだいたの…──ん?」
チェヴィルが違和感を持ったのは、そいつの後ろに何かうごめくものがあったからであった。
「ギヤァア…」「キシャアアッ」「ヴィアァ…」
おびただしい数のランナーリザード──その数なんと、46匹。
「もともとこいつらは繁殖力がヤバイって言ったろ?」
「嘘でしょこれ…」
その大群はチェヴィルをめがけ、砂埃を巻き上げながら突進してきた。
「怖いかチェヴィル」
「当たり前でしょ!怖いわよバカじゃないの!」
「まあまあ落ち着けって」
「どう落ち着けっての!」
「さっきお前が放った一個のボールだけで、一体が楽々倒せたろ?それに相手の数は半端じゃないのに、ひとまとまりに集まっている」
「つまり何よ!」
托生はチェヴィルに笑いかけて言った。
「数打ちゃ当たるってな!お前は俺が守るから、気が済むまで放て!」
「ああもうわかったわよ!死んでも守ってよ!」
チェヴィルはその手にエネルギーを溜め、やけになって打ち込んだ。
「ああーっ!ああーッ!やああーッ!!」
ただボールを投げつけ続ける。
エネルギーを何度も打ち付けるが、何体倒したかなどという目星は一切ついていない。
「もっとだ!もっと打てぇえっ!」
だが、ボールを打ち付けても、全体を一掃できているわけではない。
攻撃を幸運にも避けた3体のランナーリザードが、気付けば目の前にはすでに迫っていた。
「うわあーっ!」
チェヴィルは恐怖のあまり目を閉じる。
托生がそのモンスターに腕を伸ばすと、その3体は衝撃波で吹き飛んでいった。
「よしっ、片付いたな!」
「はあっ、はあっ!」
あまりに恐ろしい恐怖からの解放に、チェヴィルはその場にくずおれる。
「最高のスリルだったな、チェヴィル」
「マジでふざけないでよもう!頭痛いし!」
魔力消費に頭が痛いチェヴィルは、托生に半ギレで叫んだ。
「でもどうだ?レベルは」
チェヴィルはカードでレベルをチェックする。
『チェヴィル(lv25):素質値677』
「よかったなチェヴィル!すごく上がったぞ!」
「流石ですね!」
「二人とも黙っててよホントに!」
──だが、ソータはそこから表情を怪訝そうにする。
「…このモンスターたち…何故か全速力で走ってきましたね。何かおかしいです」
「え?ランナーリザードでしょ?走っても当然じゃない?」
チェヴィルがそう聞く。
托生もそう思うが、ソータはそこから補足するように言う。
「ランナーリザードが走るのは、メスの個体へのプロポーズのためです。でも見たところ、メスは見当たりません」
「何でだ?」
托生にもわからない。モンスターの知識では、ソータには遠く及ばないのである。
だがソータは、その違和感も解消されないまま、3人で馬車へと戻るのであった。