第七話:遺跡探索 [遺跡2]
前回までのあらすじ!!
遺跡のトラップを敵の襲撃により踏んでしまったシオナはトラップにより遺跡のどこかへと転移させられてしまった。そんなシオナの命運は・・・
「きゃあああああああああああ!」
悲痛な悲鳴が先程とは違う、広い空間に響き渡る。
魔物の奇襲を受け、転移のトラップと思われるものにかかったシオナはどこかわからない場所の空中に投げ出され10メートルほどの高さから落下した。
「うっ、こ、ここは・・・?」
シオナは現状を整理するために周りを見渡す。
周りには太さが3メートルもあるような大きい柱が無数に並び、天井の高さは20メートルほどだろうか、先程の狭い道とは見違えるほどのかなりの広さがある場所だった。
落とし穴では無く転移トラップなため、現在の位置を確かめる方法はなく絶望的な状況だった。
ひとまず、奇襲で受けた傷をポーションを飲むことで癒していく。
傷が癒えると、少しの希望をかけて仲間の探究者の元へと戻る為に歩き出す。
シオナは不安に押しつぶされそうになりながらも歩みを止めず、その広い空間に足音を響かせていく。
すると、どこからか、自分のものでは無い足音が聞こえて期待で胸が膨らむ。
「た、隊長さん!!私はここです!」
自分以外の足音が聞こえ期待し叫ぶシオナ。
だが、シオナが目にしたのは望んでいたものとは程遠い者だった。
「「グギャッ!」」
迂闊だった。
ここは遺跡の中で隊員のみが居るわけではない。
いつもは冷静に判断をするシオナがこんなことすらも判断できないくらいには混乱していた。
更に、運が悪いことに魔物はフェイズⅠではあるが数が15体と一人で対処するには多かった。
腰に装備している片刃の長剣を構え戦闘態勢に入るシオナ。
そして、戦闘スタイルをいつものそれにするために呪文を唱える。
「我は風 祖は護りとなり 加速をもたらさん!『疾風ノ加速』 」
瞬間、周りには風が吹き荒れ風がシオナのもとへと収束していく。
風はシオナを加速させ、敵の攻撃を防ぐ風の鎧だ。
「ギュゥアッ!」
体長が50センチもあるようなネズミが泣き声を上げると一回り小さいネズミが三方向に広がりシオナを囲むように襲ってくる。
シオナはカバンから火の中級スクロールを取り出し、一説詠唱を唱えると左側のネズミ5体に向かって先程鷲が吐いたような火の玉がシオナの持つスクロールから飛び出すとネズミは焼き払われる。
そして、手元からスクロールが燃えるように消えていくと両手で剣を構え直し姿勢を低くする。
仲間が焼き払われたにも関わらずネズミたちは勢いを落とすことなくシオナに向かってとびかかる。
そんなネズミをシオナは切り捨て刃を返してもう一匹と敵を倒していく。
だが、敵の数は多く時々風の鎧を突破し噛みついてくるものも居た。
服は所々破れ血が滲んでいるが、敵をあらかた倒し、残るのはネズミ二匹と指揮を執っていたと思われるネズミが一匹のみだ。
ここまで敵の数が減れば防戦一方ということは無く反撃ができる。
シオナは風を踏み一気に加速して指揮を執るネズミの周りを風が通り過ぎたように斬る。
「ギュアッ!ギュアッ!」
気が付くと一人になっていたネズミは何故か上を向き泣き声を上げた。
「仲間を、呼んだ・・?!」
もし仲間を呼ばれたのであれば早めに片付け、この場から離れなければまた囲まれて今度は死ぬだろう。そう感じシオナは先程と同じように風を踏み一気にネズミへと迫る。
だが、シオナの刃はネズミを斬ることができなかった。ネズミは自分の強靭な前歯を武器だけでなく守りにも使ったのだ。シオナは焦る気持ちを抑えつつ一歩下がり詠唱を開始する。
「風よ 敵を押さえつける 枷となれ 『風の蔦』!」
詠唱を唱え終わると、ネズミは見えない何かに拘束され困惑している様子だった。
動くことができないながらも威嚇し牙をむけるネズミだったが、シオナの一閃のもとに敗れその後は念のため、戦闘があった場所を離れ広い遺跡の中を疾風を纏ったまま駆ける。
だが、遺跡はシオナを見逃さなかった。
「ガアアアアアアアアアアアア」
目の前に現れたのは数年前に姉を殺した姿と同じ大きな熊の魔物だった。
立って吠える姿は勇ましく、相手に恐怖を植え付けシオナの記憶をフラッシュバックさせる。
咆哮と絶望的な状況にシオナは膝の震えを抑えることができなかった。
トラップに引っかかり飛ばされた先では大量のネズミに襲われ、更にはフェイズⅡだ。
先日のフェイズⅡに続きとにかく運が悪いとしか言えなかった。
絶望に浸っていると、シオナめがけて大熊の鋭い爪が迫る。
ハッとするとその爪は既に目の前にあり、なんとか剣を前に出し直撃を防ぐも勢いを殺しきることができず吹き飛ばされ遺跡の柱にぶつかって止まる。
「グッ、なんで・・・。」
柱に叩きつけらた衝撃は『疾風ノ風』によって多少軽減されるも、風がほどけて魔法の効果が消えてしまった。それに、ネズミとの戦いで受けた傷をポーションで癒していないため、傷口が開きシオナの神経を削っていく。
シオナは諦めることなく治癒と魔力のポーションを飲み傷を癒し魔力を回復する。だが、ポーションは使うたびに効能は薄くなり失った血は戻らないため気怠さが残る。
そして、シオナは消えた『疾風ノ加速』と相手が素手ということを逆手に取り『風迅剣』を唱え、敵を風という無数の刃で斬ることを可能にした。
再び立ち上がるシオナを見て大熊は手と足を地につけ四肢を使った勢いで一気に距離を詰めてくる。大熊は距離を詰める勢いを一切劣らせずそのままシオナへととびかかる。だが、シオナは先程とは違いその動作に合わせるように剣を構える。大熊はとびかかるようにその鋭い爪と分厚い手を振るう。だがシオナが構えた剣にその攻撃は止められ、攻撃した手は無数の刃で斬られたような傷が多く切り刻まれていた。
「グワアアアアアアアアアアア」
大熊が再び雄たけびを上げる。
すると、毛並みが固くなったように青い毛が立ち、その瞳は理性を感じさせず暗闇をその紅い瞳が照らす。シオナの全身の毛が逆立ち冷汗が背筋を伝う。
大熊に向けている剣先が震え出す。これが、フェイズⅡを目の前にして感じる恐怖。
そして、絶望。
怒り狂って攻撃が単調になっているため先程より躱しやすい。
だが、剣で受け止めて手を風で斬ろうとして固い毛におおわれ、たとえ肉に到達してもあれは止まらない。恐らくはこの遺跡、否、この近辺の森での絶対的な強者ゆえに傷つけられたことに怒りを覚えたのだろう。
ただ、手を振るっているだけで隙は大量にあった。だが、その手から逃げ反撃をするというのは至難の業だった。正直相手が相手ということもありジリ貧である。
そんなことを考えてしまったが最後、攻撃を躱しきれずまたもや激しく飛ばされてしまう。遺跡の床を転り続け、剣では抑えきれなかった鋭い爪は腹部を掠めており血がとめどなく溢れ、遺跡の床を濡らす。
血が大量に出たせいだろうか、意識が朦朧としだす――。
魔物はその目にしっかりと映り危険が迫っていることはわかっていても、なんとなく現実とはかけ離れたような思いが、頭の中をぐるぐると回っていた。
夢であればよかったと思う。今まで起きた不幸なこと全て。
目の前では今まさに私を食べようと、大量の唾液を垂らしながら迫りくる魔物。
その獰猛な爪は私をいともたやすくひきちぎり、その牙は私に大きな穴を開け、
その強靭なあごは私を簡単にかみ砕いてしまうだろう――。
そんな獰猛な魔物が段々と私に近づいてくる。
もう、私の体はいくら鞭を打っても動きはしなかった。
私はここで、死んじゃうのか――。
迫りくる絶望と恐怖が混ざり合い思考が混乱する中私はそれだけはなんとなく感じ取ることができた。
そして、もう諦めて死ぬのもいいのかもしれないとも思えた。
今は亡き姉に。不器用でもどこか優しい姉に会えるのなら。
「きっと、怒られるんだろうな。」
姉とのやり取りを想像すると猛獣が目の前に居るにも関わらず不思議と笑みがこぼれた。そして、彼女は目の前で大きく構えられた爪を目にし痛みが来るのを待つ。
だが、どれだけ待っても痛みは来ず、来たのはありえないほどの熱量を持ったこの遺跡の柱ほどあるような太いレーザーのようなものだった。恐らく後方から飛んできた謎のレーザーは今まさにシオナにとどめを刺そうとしていた大熊を跡形もなく消し去る。シオナはそんな光景を朦朧とする意識の中ただただ見つめることしかできなかった。
シオナ・フロンスの物語は今ここに音を立てて動き出した。
物語が始まります。
シオナの見た目が気になる方はtwitterの固定ツイートに貼ってありますので是非ご確認ください。
twitter:@kuduki_len