第五話:遺跡探索 [道中4]
シオナちゃん!!!
「生きて帰るぞおおおおお!!」
隊長の掛け声とともに戦闘が始まった。
フェザーウルフの数が多く戦況はかなり入り乱れているが、鳥の毛が生えたようなもふもふの耳を持つエイリスが使用した範囲強化で速度が上昇していているようで隊員全員の動きがかなり良かった。
だが、敵も風を纏っている狼だ。速さに遅れはとっていない。
エイリスは考えていた。
6人に対しての強化バフとなるとかなりの魔力を消費し、回復もするとなると魔力は持って恐らく7分ほど。フェザーウルフを倒せたとしても、ブラストウルフに苦戦することになるだろう。
エイリスは魔力ポーションの数を数える。通常の魔力回復のポーションが5本。
効果は飲むにつれ、薄くなる為あまり数は使えず、使っても意味がない。
どうすれば・・・。そう考えていると一迅の風が通り過ぎた。
その、正体はシオナだった。
シオナは戦闘に入るとあっという間に、普段からは感じさせない覇気を纏い戦いに集中していた。
エイリスの強化魔法だけではなく自身の風属性スキルの『疾風ノ加速』によって風を操り、驚異のスピードを出していたのだ。
「てやああああああ!」
気合を込めて一閃、シオナの持つ片刃の剣が敵を真っ二つに切り落とす。
切り落とした後も、戦況を見渡しその強靭なスピードで戦場を駆け抜けては一閃と、次々敵を倒していく。
一方ブラストウルフはというと、隊長のバルダと副隊長のディーで請け負っていた。
バルダは大剣を横にしガードをするもブラストウルフの攻撃は重く、早かった。
更に風を操りブレスや竜巻など様々な武器を持って居たため非常に戦いづらい。
バルダでさえ押されている状況、ディーは得意の身体強化の魔法を使い、攻撃力と防御力を上げていた。だが、攻撃力を上げていても敵が纏う風のせいで敵に攻撃が届かないため、敵の攻撃を躱しきれずに攻撃を受け続けながらもなんとか耐えている状況だった。
だが、体の至る所から血がとめどなく出ておりエイリスの『治療』が頼りだった。
そして、とうとうディーは今までの攻撃で蓄積したダメージと疲労によりブラストウルフの薙ぎ払いを剣で受けるも勢いを殺しきれずに後ろへと派手に飛ばされてしまった。
「ガハッ!」
ディーが木へと叩きつけられ呼吸ができず苦しんでいると、ブラストウルフはこちらから興味を無くしたように隊員とフェザーウルフが戦っているところを一瞥した。
そして、ブラストウルフは見逃さなかった。戦場を自分と同じ風を操り駆け回る1人の少女を。
ブラストウルフは息を大きく吸い込むと口を開けて今し方吸い込んだ空気を自身の魔力と合わせて吐き出した。その風のブレスは辺りの草木や隊員を吹き荒らしながら風を操りながら戦う少女のもとへと一直線に飛んでいく。
シオナは振り返った。
何故振り返ったかというと突如として風の流れが変わったからだ。
だが、気づくころにはもう遅く目の前には魔力が混ざり圧縮された風が迫っていた。
シオナは敵を斬った後ということもあり受け身の体制すらとることができずただただ目を瞑ることしかできなかった。
刹那、風が何故か目の前で弾けたのが感じ取れた。
目を開けるとそこには深々とフードを被り、一振りの槍を携えた"誰か"が立っていた。正体はわからない。でも、その何者かは凄まじい速度で動きブラストウルフの前まで駆け抜け、駆け抜けた後には倒れ伏したフェザーウルフが転がっていた。
そして、何者かはシオナを狙ったブラストウルフの前に瞬時に移動すると、槍は凄まじい魔力を帯びて一刺しの元ブラストウルフを葬った。
だが、何者かは姿を一切表すことなくブラストウルフを一匹残してどこかへと立ち去って行き、私はただ目で追うことしかできなかった。
何者かの参戦のおかげで戦況を立て直した探索者達は残りのフェザーウルフを片付けた。何者かはわからないが、助かったのには間違いないため、隊長は新たな指示を出す。
「カンナ!こっちに準備してたでかい魔法を頼む!」
「・・・凍てつく氷は形を成して、絶対零度の名のもとに凍らさん、大気に満ちる空気よ、凍って凍って舞い踊れ!『凍てつく千槍』!」
詠唱が終り、魔法が完成すると辺りの気温は急激に下がり満ちていた大気さえも凍らす。それは、ブラストウルフが纏っていた風も例外ではなく絶対零度の名のもとに氷り消えていく。
そして、その絶対零度の世界に浮かぶ1000本の氷槍はブラストウルフを目がけて襲い掛かりブラストウルフは先程と同じように空気に魔力を込めて風として吐く。
だが、1000本もの氷槍は抑えきることができず風を凍らせながら風の守りがないブラストウルフへと次々に刺さっていく。
「ギャオオオオオオオオオオ!」
ブラストウルフの悲痛な叫びが響き渡り、最後の氷槍が刺さるころにはその命は果てていた。
「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
大歓声が上がった。
それもそうだ、何者かわからない者が参戦したとはいえフェイズⅡ二体とフェイズⅠの大群に勝ったのだ。
「でも、あのフードを被った人いつの間にか居なくなってますけどほんとに誰だったんでしょうか。」
一番傷のひどい副隊長のディーはエイリスの回復を受けながら、皆が思っていたであろう疑問を口にした。
「とりあえず助かったんだし、良いじゃないですか!
また、会えたら礼でも言えばいいですよ、副隊長!」
隊のお調子者がそう諭すも気にしないというのは無理があった。
だが、気にしても一切情報がない為現状ではどうしようもなく、あのままでは、ディーがブラストウルフに吹き飛ばされたあまりに標的にされたシオナが死んでいたかもしれない。いや、隊が全滅していたかもと考えるとこのお調子者が言うこともあながち間違いでは無いのかもしれなかった。
「まあ、それもそうか。」
ディーは今度また会えたら礼を言おうと思い、とりあえずはお調子者に乗っかっておいたのだった。
そして、回復を終えたディーはシオナのもとへと行き、あのまま尻餅をついているシオナへと手を差し伸べる。
「さっきはごめんね、立てる?」
「え、あ、はい。ありがとうございます。」
「礼を言われるようなことはしてないんだけどね。」
副隊長はあははと申し訳なさそうに笑う。
だが、シオナはというと先の何者かについて考えていた。
ブラストウルフを倒して森へと立ち去る時、シオナはおそらく目が合ったのだ。
すると、何者かはこちらへ優しく微笑むと踵を返し森へと入って行った。
「治せないほどの重傷はないか?
無ければ、遺跡探索は中止せずこのまま進もうと思う!」
なにか引っかかるものを感じ考えていると、隊長が話し始めた為考えるのを止め、隊長へと耳を傾けた。
隊長は何者かについては副隊長が触れた為か、話題には上げず労いとこれからの方針について話し出した。結果は治せないほどの怪我もない為、このまま遺跡探索へ進むとのことだそうだった。
今日はこれから近くにあるとされる村へ行って終わりとのことだ。
想定外のことが起きたがひとまずは予定通りである。
そして、少しばかり休憩した後探究者達は再び村へ向けて出発したのであった。
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