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第8話 魔法の詠唱をすべて暗記した

 そのあと、俺とシュリは魔導書の店に行った。


 ていうか、シュリもついてくんのかよ……。


「大丈夫よ。この世界、獣人はそんなに珍しくないようだから目立たないわ」


 たしかに町を歩いても、さほど変な目では見られなかった。


 ただ、商店のおばちゃんが、「あら、奴隷つれてる人なんて珍しいね」 と言ったら、


「ニャー! 奴隷なんかと違うわよ!」


 とキレそうになっていたが。


 そうか、この世界も獣人の地位は低いのかな……。


「首輪をちゃんとしとかないとさらわれる危険があるよ」とおばちゃん。


「だから、奴隷じゃないの! むしろ私のほうがこいつより偉いの!」


 おいおい、お前が目立つぐらい叫んでどうするんだよ……。


◇ ◇ ◇


 魔導書の店に入ると、俺はひたすら本をぱらぱらとめくっていく。


 ぶっちゃけ、ぱらぱらやっていくだけで、本当にすべて暗記できた。


 感覚としては自分の脳がスキャナーになって、どんどんデータを読み取っていくのに近い。


 店の本を棚から取り出しては暗記するということを繰り返す。


 いくら数が多くても、一冊十秒ぐらいだから、どうとでもなる。

 シュリも本を出すのを手伝ってくれたので、さらにペースは上がった。

 本の出し入れもけっこう面倒くさいし、いてくれてよかったな。


「お客さん、何を調べておるのかね?」


 店主の老婆がぽかんとしているが、理由を説明するのもややこしいので、黙っていた。


 これってスマホで商品の本のページを撮影するデータ万引きに近い行為な気がしたので、ほどよい分量の魔導書を一冊お布施感覚で買った。


 今の宿に15泊できるぐらいの値段だった。これでもかなり安いほうらしい。

 日本の出版文化って本当に偉大だな。故郷を離れてそのよさがわかる。


「じゃあ、ちょっと試してみるか」


 俺は店を出ると、サーチ・アビリティの呪文をシュリに向けて詠唱した。


 口の動かし方など発声が日本語と全然違うかったが、問題なく言えた。


=====

シュリ

Lv??

職 業:神の眷属

体 力:3486

魔 力:3895

攻撃力:2896

防御力:3277

素早さ:4578

知 力:6502

技 能:なし

=====


「神かよ……」


「神みたいなもんでしょ」


 俺なんてLv46で4桁のステータスなんて魔力しかなかったぞ。一番低い攻撃力でも3000に近いってどういう次元なんだ。


 これ、多分だけど、シュリ一人で魔王軍全滅させられるよな。


 あと、さすが文殊菩薩マンジュシュリーの眷属だけあって、知力がヤバい。


 技能なしっていうのが気になるけど、冷静に考えれば、この世界の魔法をシュリが習得してる意味がないから何も表示されようがないのか。


 さて、これから、どうしたものか。


 俺のLvは46だけど、自分の力で戦った経験は何もないし、そういう基礎を学んでおいたほうがいい気はする。


 敵に遭うたびにチート剣士のアチャラ・ナータを召喚してもいいのだが、それって小回りがきかない。徒歩三分のコンビニに行くために自家用ジェット機を使うようなもので、目立ちすぎる。


「なんか迷ってるみたいだけど、そういうのこそ、私に聞きなさいよ。教えるの、得意なんだから」


「ああ、そっか。ところで、シュリって、いつになったら消えるの?」


 不動明王アチャラ・ナータなんかは戦闘が終わったら消えたけど。


「もう消えてもいいかなって思うまで」


 半永久的に出てるのか。まあ、シュリは神格だからなのか、何も食べないし、食費もかからないからいいけど。


「あなた一人で野垂れ死んでも寝覚めが悪いしね。しばらくは付き合ってあげるわよ」


 やたらと上から目線だけど、実際向こうのほうが偉いし強いので、問題ないな。


「このあとなんだけど、どうしたらいいかな?」


「魔王軍は大陸の北から攻めてきてるのよね。だから北に行けば行くほど敵は強くなるわ。逆に言えば、東西に進む分にはたまにバルドーの森みたいにたまにモンスターが強いところがあるけど、基本的には強さはそんなに変わらない」


 こいつ、なんだかんだでこの世界のことをもわかってるんだな。さすが知力6000オーバー。


「かといって東に移動すると王都に近づいちゃってややこしいでしょ。ここはずっと西に移動して、戦闘や魔法の練習をしつつ、自分用の拠点を一つ作ったらどうかしら?」


「なるほど。悪くないな」


「町に住んでるといろいろと噂になるかもしれないから、適当な広さの森に陣取って、そこでひとまず暮らせば?」


「ギルドとかには入ったほうがいいのかな? ほら、こういう世界だと定番だろ」


「あなた、戦闘経験は皆無でも、ステータスだけだとすでに王国でトップクラスなのよ? ほかの冒険者に異常に強い奴がいるって思われると、噂が広まるわ。モンスターを倒して得られる魔石はギルドじゃなくても売れるわけだし、避けるべきね」


「わかった。ここは一度、西に転戦する」


 俺は武器屋で適当な銅の剣と鎧を買って、西側の森へ入ってみることにした。

 ステータス自体が高いので、鎧は廉価品のそこまで高くないやつにする。


 鎧とかってオーダーメードにすると、とんでもない額になるからな。今の手元の金だときついし、作ってもらうのを待つわけにもいかない。


 町を出ていこうとしたら、西の出入口あたりで町の人に止められた。

 不審だからではなく、心配されているらしい。


「あんた、馬車も護衛もつれずに一人で町を出ていくつもりかい? 危ないよ! モンスターの群れに襲われたら、ひとたまりもない! 悪いこと言わんからギルドで護衛の依頼しときな!」


「大丈夫よ。あくびしながらでも抜けられるわ」


 俺じゃなくて、シュリが答えた。


 もう、完全にパーティーの一員だな。

 まあ、一人でいるのも退屈だし、話し相手がいるだけでもありがたいか。


「お嬢ちゃん、獣人の奴隷なのかもしれないけど、もうちょっと主人をいたわったほうがいいよ」


「だから、奴隷じゃないのよ! この冒険者よりはるかに偉いの!」


 またシュリがキレた。


◇ ◇ ◇


 そのあと、俺は森に入って、戦闘の基礎を学んだ。


 ぶっちゃけステータス的に負けるわけはないのだが、攻撃の型みたいなのを俺が一切知らないので、それに慣れるのに手間取った。

 どんなに攻撃力が高くても当たらないとノーダメージだからな。


 ここで、シュリの存在が役に立った。


「あー、そこ、腋が甘い。もっと締めて。そこで踏みこんで」


「剣はもっと斬るというより叩く感じで使うの」


「背後に意識がいってなさすぎ。同じクラスの連中に囲まれたら死ぬよ。まあ、そうそういないと思うけど」


 シュリは教えることにかけてはジャンルを選ばないらしく、ちゃんと指導をしてくれた。教えてる時はシュリも機嫌がいいので、こっちもちょうどいい。


 ちなみにモンスターがシュリを攻撃してきた時は、猫パンチ一発で肉片に変えていた。


「文殊菩薩マンジュシュリーの眷属だから、殺生はいけないんだけど……ここのモンスター、弱すぎるのよ……」


 まあ、小さいアリを指でぐりぐりつぶしたようなもんなんだろうな……。


 三日ほどの特訓で、ある程度サマになるようにはなった。


 食事は大黒天マハーカーラを呼び出したら、食材も含めて、森から調達してくれたので問題なし。


 食材を無から生み出すことはできないようだが、集めることは可能らしい。食材は生身の体に入れるものだからだろう。

 あとはこれで顔がいかつくなければもっといいんだけど、しょうがないな。日本の大黒様は顔が笑ってるけど、インドにいた頃は憤怒の形相の破壊神だからな。


 寝床はちょうどいい木のうろを見つけたら、その穴の中にタオルケットを敷いて寝た。


 襲われても大丈夫だとは思うが、一応、シュリと交替で見張り番をした。


 この世界の魔法も同じようにいくつか使って覚えた。


 詠唱は完璧に頭に入っているから、こっちは剣の使用と比べると、とてつもなくあっさり終わった。


 どっちみち、マントラ使ったほうが早い気もするが、威力が強すぎて手加減ができないのも困る。


 こうして一週間ほど森を転々として、Lv46の冒険者にふさわしい男にはなれた気がする。


 久しぶりに自分のステータスをチェックしてみるか。


=====

ゴーウェン

Lv46

職 業:召喚士・治癒士・調理師

体 力: 986

魔 力:1109

攻撃力: 735

防御力: 707

素早さ: 839

知 力: 975

技 能:サーチ・アビリティ サーチ・アンデッド センス・エヴィル ヘルフレイム ライトニング・ボルト メテオ・レイン サーチ・イーヴル レヴィテーション テレポーテーション

=====


 元のLvが高いから、そっちは変化ないよな。


 ただ、一箇所変わっているところがあった。


 職業がやけに増えている。


「なんだ、治癒士と調理師って……」


「それ、薬師如来バイシャジヤと大黒天マハーカーラを出したからじゃない?」


「なるほどな……」


 治癒も調理も俺がやったんじゃないんだけど、まあ、この世界のルールに従うことにするか。

次回は今夜11時の更新予定です。だいぶ問題のあるヒロインが出てきます。

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